転生生活 村の記憶
その日も平和な始まりだった。
村を出る2年以上前、確か七歳か八歳ころの記憶だ。
まだ、神童とまでは呼ばれていないが、神童と呼ばれるようになる日の前日の話だ。
「フレア! 今日は何して遊ぶ?」
そう聞いてきたのは幼馴染のエリイだ。
僕と仲のいい子供はエリイだけだ。
他の子は僕を避ける。
いや、子供だけではない大人もだ。
むしろ大人が避けるから他の子も避けるのか?
「ねえ、聞いてるの?」
「あ、ああ、うん、聞いてるよ」
ジト目で僕をにらむエリイだが、いかんせんかわいいため、責められているようには感じない。
「そうだね。 じゃあ今日は棒の打ち合いでも……」
「やだ!」
「そう」
ぱっと思いついたことを拒否されたため思案する。
確かに女の子が剣の打ち合いが好きなわけないので一応聞いてみただけだ。
自分がやりたくてエリイがやりたいことが思いつかないため。
エリイに何がしたいか聞いてみる。
「エリイは何か面白い遊び知ってる?」
「姫様ごっこ」
と答えてくれたので安堵する。
「それってどんな遊び?」
「エリイは、お姫様するからフレアは王子様をするの」
「うん、それで?」
「それだけ」
うん、困った。
王子様役をやるのはいいけどどうしろと?
王子様とお姫様が出てくる御伽噺はよくある。
前世の記憶にある、シンデレラや白雪姫と似たような感じだが、問題点は御伽噺のほとんどが王子様とお姫様が主役で他に貧乏な村娘や街娘が成り上がるような内容の御伽噺がないことだ。
……まあ、気にすることではないか。
「わかりました。
エリイ姫」
取り合えず格好をつけながら姫とつけて呼ぶ。
僕ながら中々に気障だ。
すると、エリイの顔が真っ赤になる。
「フレア格好良い!」
と言って抱きついてくる。
あれ?お姫様ごっこは?
ふと、そのとき、視界に村で見たことがない男が入ってきた。
顔まで獣の皮をかぶった男だ。
見るからに怪しい。
「誰だ!?」
エリイを背後に回しながら問う。
「おっ! いやあ、よかった」
そういって無遠慮に近づいてくる男。
僕は警戒心を全開にしながら問いを重ねる。
「あなたは何ですか!?」
「チッ、いや、すまねえな。
あまりに嬉しくて」
男はそういいながらズボンのポケットから何かを取り出そうとする。
僕はあわててエリイの手をとって逃げ出す。
しかし、
「まあ、待て悪いようにはしないから」
と毛皮の男に回りこまれていた。
「だから何なんですかあなたは!」
「俺はこういうもんだ」
男が懐から取り出したのは一枚のカードだ。
僕はそのカードを見て首を傾げる。
「冒険者?」
「ああ、そうだ。
ちょっと依頼でドジ踏んじまって山の中をさ迷い歩いてたんだ。
そんでなんとかここまで来れたってことなんだよ。
近くに村の集落があるだろう?」
「はい」
「ちと、そこへ案内してくれねえか?」
「え~」
「チッ、いや、別に無理にとは言わねえが、ほらせめて親に相談してみてくれよ」
僕は少し考える。
そして、
「わかりました」
背中に張り付いているエリイを軽くたたき離れるように促す。
「くく、その子はお前の女か?」
「はい」
「そうかい、くくく」
そして僕はエリイの震える手を引きながら男を村へ案内した。
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「着きました」
僕の声に反応したかのように毛皮の男はため息をついた。
「はぁーーー、これでようやく街に戻れるな。
全く、ひどい目にあったぜ」
「村長さんの家は村の一番真ん中にある大きい家です」
僕は、そういって案内を終わらせようとする。
「おいおい、そこまで着いてきてくれないのか?」
「村長は僕のことを嫌ってますんで」
「チッ、まあ、どういう事情かは聞かねえが、苦労してるな」
そういって毛皮の男は僕の頭を軽く叩く。
「気にしないでください」
「おい! フレアそいつは誰だ!」
唐突に怒鳴り声が飛んできた。
声のほうを見ると青年が二人立っている。
村の自警団の人だ。
理由は分からないが、自警団に所属する人たちは僕に対して避けたような行動はとらない。
なので怒鳴った理由も怪しい男を連れてきたことに警戒してだろう。
「冒険者の人らしいです!」
僕は声を張り上げて伝える。
「わかった!」
そういうと片方の青年が村の中へ走って行く。
村長さんに先に伝えるためだろう。
「あ~、俺としては助かるんだが、よくこんな怪しいやつを村まで案内してくれたな」
青年の態度に思うところがあったのだろう。
毛皮の男はバツの悪そうに言う。
「冒険者ランクBのギルドカードがなければ案内しなかったですよ」
「チッ、そうかい、なら無くさなくてよかったよ」
僕が事もなく言うと毛皮の男は肩をすくめて安堵したように応じた。
ふと、男のある癖が気になった。
「すみません、一つ聞いておきたいことがあるんですが」
「なんんだ?」
「さっきからちょくちょく舌打ちしていますが」
「ん? ああ、わりぃ、癖でな。
どうも治らねえんだ」
「そうですか」
「お、帰ってきたな」
門番の青年が、言った言葉が耳に入り、村の方へ視線を向かわせると、村長がこちらに向かって来た。
村長の後ろに六人、一人は村の自警団団長で名前はハストン、もう一人はいつもにこにこの教会にたたずむ牧師さんクルトスだ。
残りの内三人は、自警団に所属する大人たちであと一人は村長さんを呼びに行った青年だ。
自警団の皆さんは緊張した面持ちで訪問者である毛皮の男を見る。
見た目からして盗賊である彼を警戒するなと言うほうが無理があるだろう。
「お待たせいたしました。
私は村長のナイアと申します」
と髭を蓄えた村長は杖を突いて出てきて頭を下げる。
「ご丁寧にありがとうございます。
私は、冒険者でランクBの評価をいただいているエルフィールです」
そう言って毛皮を頭から外すと中から出てきたのはイケメンだった。
僕は二重の意味で固まった。
一つは、毛皮の男が礼儀正しく挨拶したことについて、もう一つは毛皮を被った男とは思えない美丈夫だったことについて。
「おお、これはこれは、Bランク冒険者様でしたか。
失礼ですが、ギルドカードを見せて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
毛皮の男、もとい、エルフィールさんは慣れたようにギルドカードを村長に見せる。
「なるほど確かにBランクですな。
それでは、村を案内させてもらいましょうか?」
「いや、それには及びません、ただ、食事と寝るところを用意していただけますか?
勿論、相応の代金は払わせていただきます」
殊勝な態度をとるエルフィールさんに村長は、満足げに頷き。
「分かりました。
でしたら是非私の家に泊まって下され」
そう言って、村を案内する。
「ありがとうな」
エルフィールさんは、一言僕に言い残すと村長の後をついて行った。
拙作をご覧いただきありがとうございます。
訂正
まだ、神童とまでは呼ばれていない、いや、神童と呼ばれるようになった日だ。
↓
まだ、神童とまでは呼ばれていないが、神童と呼ばれるようになる日の前日の話だ。
話の都合所上記のように訂正いたしました。