転生生活 32 ガスト・ファブリオン
「だからさあ、言ったんだ僕が魔の森に行って皆を救うって、でもあいつったら『お前では無理だおとなしくしてろ』って言うんだぜ」
突然ですが問題ですこの喋っているのは誰でしょう?
「僕だって頑張って修行してるのにさ。
あんまりだと思わない?」
正解は拾った妖精です。
「それでさあ、いっそのこと勝手に行こうと思ったらいつの間にか眠ってて」
ひたすら喋る喋る。
口から先に生まれたやつと言うのはこいつのことなんだろう。
「起きたらあいつどっか行っちまったんだよ!」
何故、彼女を拾ってしまったのか過去の自分が恨めしい。
「聞いてんのか?」
「聞いてるよ」
森の騒動の後授業は中止結局学校に戻ることになったのだが、帰る途中で人形を拾ったのだ。
薄汚れていたがとても精巧にできていると思ったらそれは人形ではなく妖精だったのだ。
そうして彼女の現状を説明してもらうと何故か生まれから話し始めた。
仕方ないから聞いていたら今に至っているのである。
因みに今は寮に戻っている。
今日で授業は森での実習で終わりだったみたいだ。
そして実習が終わればすぐに自由に行動できるようになっていたのだ。
「まあ、がんばれ」
「がんばれじゃねえ! お前も探すの手伝ってくれよ」
「僕は魔法の練習で忙しい、それに」
「それに?」
「仮に追いかけたとしても意味が無いと思うぞ?」
「え? なんで?」
「だって森の中に入れないからな」
結界番の人が結界の一部を開けてくれないと入れないよ。
「でも、僕は普通に入れたよ?」
「妖精だからじゃない?」
「じゃあ、あいつはどうやって入るんだ?」
「さあ?」
そもそも、あいつがどんな人なのか知らないし。
「さあって……、まあ、入れたとしても今は何か緊急事態が起きているみたいだしいかない方がいい」
「そんなあ、せっかくカブトムシを倒せるようになったのに」
カブトムシを倒せた程度で森に入ろうとするとは
「あきらめろ」
「ふん、もういいよ。
僕一人で森に行くもん」
そう言ってシルアは窓に突撃してぶつかる。
「痛ったいなぁ、結界を張るなんてどういうつもりだよ!」
「いや、それただの窓だから」
「……」
「……」
「……分かってたもんね」
そういってシルアは窓を開けて飛び出して行った。
なんというか見てて危なっかしいな。
あの妖精が、死のうと知ったこっちゃない。
知ったこっちゃいないんだけどちょっと結界が破れてないか心配だから見に行こう。
うん、決して小っちゃい妖精の女の子が魔物に取り囲まれているなんんてものを想像したわけではないからな。
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光の妖精、シルアを追いかけて着いたのは魔の森の結界の前である。
ただし、結界番がいる場所とは違う場所、本来ならば誰も通れない場所である。
「本当にここに来るのか?」
「うん、間違いな無い」
「根拠は?」
「こんきょ?」
「何故、ここに来るのか分かったの?」
「なんとなく?」
彼女に出会ってから一向に彼女の行動指針がわからなくなっていく。
基本的に適当なので、とても合わせづらいのだ。
このことは妖精全般に言えることなのだろうか?
それともシルアだけが適当なのだろうか?
……なんとなく前者のような気がする。
なんたって妖精と言うぐらいだし。
しばらく待っていると結界の中に見たことのある黒鎧の人を見つけた。
「もしかして待ち人ってダークナイトさん?」
「うん、そうだよ。
言ってなかった?」
「言ってなかった」
「まあいいや」
「……」
まあいいんだけどね、なんだかなあ。
シルアはグルングルン空中を飛び回り始めた。
「落ち着け」
「え~、だって僕のためにわざわざ危険に飛び込んでくれたんだしそわそわしない?」
「今? それ今なることなのか?」
少なくともここに来るまではそんな素振りはなかったぞ?
「おかえりぃ」
「ただいま、っと、いつかの少年も一緒か」
黒鎧の人は前回と若干ではあるが雰囲気が違う。
「あれ? その背中に背負っているのはムストですか?」
「ん? ああそうだ、知り合いだったのか?」
「はい、同級生です」
「なるほど魔法学校の生徒だった……む!?」
突然黒鎧の人が驚いたような声を出した。
黒騎士が見ている方を見ると体格のいい貴族のおじさんがいた。
あと後ろに黒衣のローブを纏った人物と兵士が三人ほど連れている。
「お前が、フレアか」
マッチョと言うほどではないが、迫力がある人が話しかけてきた。
「はい、そうです。
あなたは?」
「ふん!
儂を知らんとはな」
「すみません、田舎から出てきたものですから」
「ふん、儂はガスト・ファブリオンだ」
どうも、敵意むき出しで話すなぁ。
何故、彼、ガスト・ファブリオンが、出会ったばかりの僕を敵視するのかわからない。
いや、一つだけあったムストのことだ。
あいつの家名がたしかファブリオンだった。
「この者が、息子をけしかけたようだな」
「はい、その通りです」
ガストの問いかけに隣に佇む黒衣のローブを纏った人物が答えた。
「ち、違います、僕はたまたま」
「たまたまでよく出てくる場所が分かったな」
「それは吾のせいだ」
唐突に黒鎧の人が会話に割り込んでくる。
「吾が彼を連れている妖精の待ち合わせ場所に連れてきたのだ。
彼らの待ち合わせ場所ではなかったのは確かだ」
「フンッ、どうだかな」
「むっ、どういうことですかな?」
「待ち合わせ場所が偶然一緒だっただけかもしれん」
「そこまで言われるか」
黒鎧の人は落胆したように言葉を発した。
「そもそも、けしかけたというのはどういうことですか?」
「ふん、君と我が息子の中が悪いことなどとっくに知れている。
大方弱みでも握ったのだろう」
「ムストに弱みがあったのですか?」
「ふん! しらばくれよって、まあいい、君がどう言おうと証拠は十分にある。
ひっ捕らえろ」
「お待ちいただこうか」
黒鎧の人が制止する。
「なんだ? 組織の犬が儂に歯向かうのか?」
「吾の連れのせいで巻き込んでしまった可能性がある以上は見て見ぬふりをするわけにもいかぬ」
「ならばどうするつもりだ」
「せめて少年にあらぬ罪をかぶせないように吾も付いていこう」
黒鎧の人の発言を聞いてぎょっとする。
何か罪に問われうるようなことをしたという事にさせられるのかと思うと一気に気が重たくなった。
何かを言うべきなのだがうまく言葉にできない。
「で、このガスト殿の息子はどうすればいい?」
「預かろう、おい、送り返しておけ」
「はっ」
そう言って黒衣の人物がムストを受け取り下がった後、
『我、闇より出でて闇夜に帰る』
と唱え背後にできた闇の中に溶けていった。
「はあ」
黒鎧の人はため息をついて僕に耳打ちをした。
「せめて命だけは絶対に守るよ」
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