転生生活 24 『多重』のフェイムの一端
「「え?」」
それを聞いて固まってしまった。
「ふっふふ、じゃあ何か? あいつヤキモチでこんな事してきてるのか?」
「あっはははは、エリイちゃんなかなかおもしろいこと言うね。 ……気持ち悪い」
やべえ、イブさん最後トーンが低い。
前半との落差がより一層最後の言葉を引き立てている。
バキンッという音が聞こえた。
その音とともに氷の防壁にヒビが入る。
どうやらさっきの雷の槍だろう。
「きゃあ」
「流石に槍クラスの魔法は完全には防げないか」
「大丈夫だよ」
「え? だってヒビが」
「まあ、見てて」
『水よ纏わり付け』
イブさんが水を氷の防壁に纏わせると水がヒビに染み込み凍って防壁を修復した。
「すげえ」
「ほえ」
「ふふん、精霊クラスならこのくらいは出来て当然」
悔し気な顔をしているムスト達、しかし、次の瞬間ムストは顔を歪ませて雷の槍を唱える
『巨大なる雷の槍よ敵を貫け』
そう唱えたムストの前に通常の三倍ほどの大きさの雷の槍が現れた。
思わずイブさんに尋ねる。
「あれは、やばくないか?」
「う、うん」
雷魔法は躱すのは難しい魔法だ。
それに付け加えて、ムストの奴は魔法の巨大化で威力を上げた。
あれを防げなければ少しまずいことになるかもしれない。
『水よ纏わりつけ凍り付けいかなるものも一切を弾け』
イブさんが魔法を重ね掛けする。
その呪文が終わるや否や強力な雷槍が放たれる。
イブさんの盾に頼る以上こちらからは攻撃するわけにもいかない。
可能な限り対応しようと雷槍を見ていると途中で雷槍が地面に落ちた。
いや、何か見えないものに叩き落されたように見えた。
「誰だ! 今魔法を飛ばしたバカは!」
唐突にグラウンドに男の声が響き渡る。
不自然に大きい音は魔法で拡声されているのだということはすぐにわかった。
「次に飛ばしたやつは潰すぞ!」
その人は漆黒のローブを纏い、服まで黒ずくめだった。
そして、その人をこの学校で知らないものはいない人物だった。
「魔法による戦いがしたいんだったら俺直々に勝負してやる。 ぶっ潰すがな!」
『多重』の二つ名を持つ重力魔法の使い手フェイム・アスタロトその人だった。
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「で、なんで魔法をバカバカ撃ってたんだ?」
フェイムさんが問いかけるのはムストとその取り巻きである。
当然、強力な魔導士を目の前にして萎縮しきっている。
「黙っててもわからんだろう? 何か攻撃する理由があったんだろ?」
問いかけるがムストたちに動きはない。
「とりあえず『はい』か『いいえ』か答えやすい質問をしようか。 答えなかったら『罰』を与えるからな。 いいな?」
早速の問いにムストたちはうなずく。
「攻撃を受けたのか?」
ムストたちは首を横に振る。
「決闘を申し込んだのか?」
同じく首を横に振る。
「自分の身の周りのモノを傷つけられたのか?」
首を横に振る。
「己の欲望のために魔法を使ったか?」
この質問に誰も反応しなかった。
「はあ、全く己の欲望のままに力を振るう者をなんというか知っているか?」
ムストたちは再び首を横に振る。
「盗賊と呼ぶんだ」
そう言われたムストたちは顔を上げて驚きの表情を浮かべる。
当然だろう、貴族である自分たちが盗賊呼ばわりされたのだ。
ムストたちの顔は徐々に怒りの表情に染まっていく。
「違うというのであれば弁明してみろ。 と言っても、お前たちが一番どういう気持ちでことを起こしたか分かっているだろうがな」
ヤキモチは嫉妬であり嫉妬は羨ましく思う事である。
羨ましく思うだけならば問題はない。
しかし、嫉妬したものを奪おうとするという行為は盗賊と同レベルである。
という感じだろうか?
いや、違うか?
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「ふむ、なるほどね。 こりゃ嫉妬もするか」
説教を終えたフェイムさんがこちらに近づいてきた。
とりあえず謝礼をしておこう
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、フェイムさん」
「いや、いいよ。
こういった風紀を守るのも竜の魔導士の仕事だしね。
しかし、闇の適性に大きい光の適性、そして氷魔法習得者か。
そして、十歳前後とそして両手に花、うむ、ムストだけでなく誰でも嫉妬するわな」
フェイムさんはにやにやしながら話す。
「あの何かお咎めがあったりとか?」
一応念のため聞いておく。
「ん? 咎められるようなことでもしたのか?」
その返しに僕は首をを横に振る。
「ならばよし、エリイくんちょっと借りるけどいいかな?」
「どうしたんですか?」
「影魔法についての宿題にサインを書き忘れているんだ」
「えっ?」
「ついて来てくれ」
「は、はい」
踵を返し歩き始めるフェイムさんの後を追いかけるエリイ、途中で振り返り困ったような顔をする。
「しばらくここで魔法の練習をしてるから」
「うん、わかった」
そう言った後とてとてとフェイムさんの後を追いかけて行った。
「イブさんも練習する?」
「うん、するする」
「その前にこの氷の壁消せる?」
「無理」
「まあ、的替わりにはもってこいか」
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