転生生活15
ロウソクの灯す淡い火が石で組まれた天井、壁、床を照らしている。
石に囲まれ静謐な空間で息を大きく吸う。
『無数の雷の矢は敵を貫く』
複数の雷の矢が法則無くバラバラに飛んでいく。
メイさんのように一方向に揃えることが出来ないでいた。
ちなみに、今僕が居るのは、フォーミュさんの館の地下にある魔法練習場であり、そこでメイさんが使っていた魔法の練習をしているが、全くと言っていいほど進展がなかった。
前回は『猛き』のワードを入れたから制御ができなかったのかと思っていたけど『無数の』をワードだけでも制御ができない。
「フレア君でも出来ないことがあるんだね」
そういうのは幼馴染のエリイだった。
村を出るときにこっそり付いてきた彼女は一緒にフォーミュさんのところでお世話になっている。
彼女は僕の直ぐ後ろにいるので雷の矢が彼女に届くことはない。
制御できないとは言え一応前の方に飛ばすことが出来ているから。
「うん、どうも足りない部分が多いんだ」
基礎の魔力制御だけじゃなく他にも色々制御しないといけなさそうな感じだ。
どうすればいいか見当もつかない。
『猛き』は魔力を多めに使うだけでいいのでまだムラがあるとは言え制御できている。
「早速練習しているみたいですね」
そう言ってフォーミュさんがバスケットを持って階段を降りてきた。
「あ、フォーミュさんおはようございます」
「『無数の』ワードの魔法は、上級者向けなのです。 制御できなくても気にする必要はないですよ」
慰めはいらないんだけどなぁ。
「とりあえず朝飯前に習得されては、メイさんの面目丸つぶれですからね」
そう言いながらフォーミュさんはバスケットからサンドイッチを取り出す。
「上級者向けのワードですか?」
「ええ、オリジナルのワードもそうですが、制御の難しいワードは上級者向けと言われますね」
じゃあ、『無数の』より難しくて真似出来ないと思った『行路を閉ざす』はどうなんだろうか?
「フレアくん、今日は服が仕上がる日ですので取りに行ってください、もちろんエリイさんも一緒に」
……魔法学校の服か、どんなのだろうか?
ドアゴン街に着くと昨日よりも人が多くなっているような気がした。
入試に向けて集まって来ているのだろう。
それに合わせてだろうか喧噪も一段と大きく感じられた。
「今日は騒がしいよね」
どうやらエリイにも騒がしく感じられたようだ。
「人が多くなっているからじゃないか?」
「それにしても騒々しくない?」
まあ、叫んでる人がいるのは確かだ。
もちろん、書き入れ時なので騒がしいのは必然なのだが、それにしても昨日の騒がしさよりあまりにも大きく感じられた。
その喧騒の中ふとすぐ隣日被いてきたぼろぼろのローブをまとった人がいつの間にか隣にいてささやきかけてきた。
「お兄さんちょっといいかい?」
喧噪の中にあってもはっきりと聞こえる声をしていた。
声の高さから判ずるに女性だろうか。
「ん? 僕のことですか?」
「はい、あなたは魔法学校に入るためにこの町に来たのですよね?」
「はあ」
「では、もしよろしければこの魔法増幅薬を試してみませんか? 今なら銀貨一枚のところ銅貨五枚で販売しております。 どうですか?」
「いえ、間に合っているので結構です」
「もしかして魔力増強ポーションをお持ちですか?」
「いいえ」
いい加減面倒くさくなってきた。
「あなたは誰ですか?」
エリイが怪しい女性に尋ねる。
「ただのしがない魔法薬売りです。 ……そうですか、では、今回は特別に一本だけ無料で提供いたします。 もし効果があれば裏路地にいる人に『九分の一』と伝えてください。 ではまた」
女性は赤い液体の入った薬瓶を押し付けるとそそくさと裏路地の奥のほうへ消えてしまった。
裏路地はたいていスラムへと続いているとフォーミュさんから聞いているので追いかけるわけにもいかずただ呆然と見送ってしまった。
「フレア君? 大丈夫?」
「え? あ、ああ、あまりにも流れが急すぎて思考が追い付かなかった」
なんていうか有無を言わせずといった感じだ。
ひとまずもらった薬はポケットに入れて服屋に向かった。
服屋の前も人が多かった。 とはいえほかの道具屋や食べ物屋に比べるとまだましだったか。
「いらっしゃい、ああ、君たちはフォーミュさんとこの、丁度いいところに来たね。 制服とローブ両方できてるよ」
そういって店の人が折りたたんだ服を持ってきて大きいバスケットに入れる。 底が深いやつだった。
「それでは、当店『魔術師の衣』のことをフォーミュさんによろしく言っておいてください」
「わかりました」
そう言って店を出て寄り道せずにフォーミュさんの館まで戻ったのである。