転生生活裏 転動
長めです。
筆が進まない!
満月が照らす夜の町並みは暗がりが多い。
それは、元の世界でも変わらない事だった。
この世界では、元の世界と違い都会である魔法都市でもせいぜい街灯がそれぞれの通りに設置されているだけで、裏通りに続く道はまるで、人を食おうと口を開いているように真っ暗闇があるのがわかる程度だ
そんなに暗闇の中に一歩踏み込む。
左手に燈した光を掲げて、歩を進めていく。
「おい、そんなに引っ付くなって」
背中に感じるのは二つの感覚。
一つは俺の肩にしがみつきもう一つは腰にしがみついている。
「そんなこと言われても怖いものは怖いのです」
「わ、私は怖くなんてないぞ。
ただ、あ、主のお背中をお守りするためにだな」
「はいはい、分かったよ。
けど、こんなに引っ付かれてたら身動きが取れなくて二人の事を守りづらいんだよ。
出来れば服を持つ程度に抑えてくれないかな?」
それでも大きい方にしっかりと握られると身動きが鈍くなるんだが、そこは妥協しておこう。
因みに小さい方は、しがみつかれても動きに問題はないからしがみつかれてても良いんだけど、大きい方が拗ねちゃうからそこは小さい方も服を掴むだけで我慢してもらおう。
まあ、いざとなったら二人とも戦えるし問題は起きないだろう。
「さて、目的地は、もうすぐだからそろそろ放して欲しいんだけど」
俺はそういうと同時に左手に燈していた光を炎にしてそして剣の形を作り出す。
『魔法炎剣』
「囲まれてるのです」
「主、此奴らは」
「ああ、俺の元飼い主の手駒だな」
『魔剣炎舞』
飛び込んできた二人を迎撃するためスキルを使う。
さすがに二人とも状況がわかっているようで、俺の服から手を放してくれているようで難なく迎撃に成功する。
迎撃した相手を見ると闇に溶け込むかのような黒いローブを纏っている。
後ろの二人をちらりと確認する。
それに二人ともすでに武器も構えている。
これなら俺が暴れても問題ない。
「さあ、来いよ飼い犬どもお前らと一緒の立場だったと思うだけで吐き気がしてんだよ!」
さて待ち合わせに間に合わないが、ここで暴れていれば向こうからこちらに来るだろう。
正直、来なかったらこの後この都市から出ていくつもりではある。
どう考えても罠だったとしか考えられないしな。
「何故あれだけの厚遇を受けながら恩を返さない」
一人の男が質問を投げ掛けて来る。
「厚遇ね。
飼い殺しの間違いだろう?」
「愚かな」
「それに悪事に加担するほど落ちぶれてもいねぇしな」
麻薬紛いなあの薬を広めているあの侯爵のところにいるわけにもいかない。
潜入はそもそも得意ではないし、スパイ活動をしようにも必要な情報がわからないし報告する相手がいない。
何より後ろの二人を守るにも敵中では難しすぎる。
そう、俺は既に侯爵を敵だと認識している。
特権階級特有の傲慢な思想と態度が、腹立たしいものがあったこともある。
それだけでなく、俺を利用しようとしていた節もある。
いや、利用されるだけならまだ許容範囲内だったが、何をとち狂ったのか俺のモノを奪おうとしてきたのだ。
「メアリー、戻って来い。
お前の居場所はそっちじゃないだろう」
俺が戦っている間も後ろの二人には、他の奴が襲い掛かっている。
しかし、簡単に倒すことも出来ないようでどうにか説得しようと話しかけて来たようだ。
「うるさい!
我が主はクルトだ。
これは絶対に変わらない!」
「孤児だったお前を育ててくれたのは誰だ?」
「そんなこと言われずともわかっている。
私が、孤児になった理由もな!」
「っち、何を吹き込まれたか知らないが、お前の両親は確かに事故出亡くなってるんだよ」
「お前達が用意した馬車に乗ってか?」
メアリーと呼ばれた女性が叫んだ言葉に黒ローブは閉口する。
「何処から教えてもらった」
「言うわけないだろ」
「なら口を割らせてやる」
「今の私を舐めるな!」
『魔法水剣』
「なっ!」
『水溌閃剣』
剣に水を纏わせて振るう事により水を斬撃として飛ばすスキルだ。
剣の動きを見極めていたと思っていた男に斬撃が、クリーンヒットする。
「何だ、その技、は」
「主から借りた力だ」
「喋りすぎだメアリー」
「あ」
ポンコツなところも可愛くて良いのだが、致命的なミスを犯すのは勘弁してほしい。
「なるほど、まだ力を隠してやがったのか」
「当たり前だろう。
協力するしかないような状況を作り出すような奴らに手の内を教えるはずがないだろう?」
「ほう、お前がメアリーにでたらめを吹き込んだわけか」
「でたらめかどうかは本人が判断するさ」
「ああ、私はお前らのやっていることを全然知らなかった。
嘘にまみれたお前たちより主の方が信用できる」
「ふん、主体性のない奴め」
「飼い犬に言われたくねえよ!『紅蓮紅炎斬』!」
死角から飛び出てきた黒いローブの人物を切り伏せる。
「こうやって会話しているうちに死角に回って仕留めようとするやつの言葉を信じろと言うほうが無理があるがな」
「あ、主!」
黒いローブの男は、明らかにメアリーを狙っていた。
「っち、かくなるうえは
『我、闇より出流もの
暗き道にて這い寄り食らうもの
畏れろ、怯えろ、我が声に……』
「それ以上は言わせん」
黒いローブのリーダー格がやられたことにより他の黒いローブの男たちに動揺が走る。
「隙だらけだな。
『暗黒剣』!」
黒騎士がそう言いながら剣を抜き何もない空間を切る。
すると周りの黒いローブの男たちはバタバタと倒れる。
こいつが敵だったらやばかったな。
どうやって倒したか全くわかんねえ。
「遅いですよ黒騎士」
「吾は、『暗黒騎士』だ。
お前が神現しのクルト・ホンジョウか?」
「神現しは知らなねえけどクルトっていうのは俺で間違いない。
少なくともこの世界の人ではないっていうのは確かだ」
「分かった。
ならばついてこい。
庇護者の元へ案内する」
「全く、この世界に来てからチートを手に入れて自由にできると思ったんだがな」
「どんなに力がある存在でも他の存在無くして生きてはいけないものだ」
「はいはい、それは十分に理解しましたよ」
そのおかげでいいように利用されたんだからな。
一見よくできた貴族だった侯爵も裏から見たらヘドロだらけだったからな。
政治の世界には、汚いこともあるだろうが、潔癖な俺には我慢できなかったって話だ。
「そうか。
なら問題あるまい」
そう言って黒騎士はあたりを見回す。
「なるほど、これは手強そうだな」
「情けない奴らだ。
そう思わないか?
『暗黒騎士』?」
その男は、そう言って右手にある赤い薬を飲み干す。
「薬に頼るのは、情けないとも思うが?」
「一人で戦うから大目に見ろよな!」
暗がりから出てきた男は、腕や顔にタトゥーがぎっしり刻まれており、人相も明らかに一般人ができない形相をしている。
「厄介な『暗黒剣』」
「おっと、『赤竜の鱗』」
黒騎士の剣から発せられた黒いオーラがタトゥーの男に襲いかかるが、タトゥーの男は防御の姿勢を取るだけで難なく耐えきってしまう。
「本当に厄介だ」
「さて、あまりのんびりしている暇はねえんでなこっちから行くぞ!『獅子の心』」
「さて、どうしたものか」
機敏な動きを見せるタトゥーの男の動きにあわせて動く黒騎士。
「はっはっは!
流石『暗黒騎士』、なかなかやるじゃねえか『白兎の足』」
タトゥーの男の動きがブレたかと思うと黒騎士が、後ずさった。
「『黒熊の腕』」
「仕方がない『暗礁剣』」
黒騎士が剣を振るが、何も起きない。
タトゥーの男は一瞬警戒するが、何も起きないのを見て突っ込む。
「何をしたかわかんねえが喰らえ!
なに!?」
黒騎士に迫ってきたタトゥーの男の動きが一瞬止まる。
そしてその隙を黒騎士が見逃すはずもなく攻撃を繰り出す。
「『漆黒剣』」
「っく『赤竜の鱗』!」
動きが止まった男に向けて黒騎士が剣を振るうと鮮血が飛び散る。
「がはっ! 馬鹿な」
「なるほど、これなら通るようだな」
「っく仕方がない!『白兎の足』」
タトゥーの男が、呪文を唱えると大きく上へ跳んだ。
「次で仕留める『深淵剣』」
黒騎士の周りが歪み黒ずんでいくのがわかる。
それと同時にあの技がとても危険であることも容易に察知できた。
「なんだ?」
黒騎士は構えを解かずにタトゥーの男が落ちてくるのを待ったが、タトゥーの男は屋根の上に登るとそのまま去っていった。
「逃げた、のか?」
唐突に現れて唐突に去ったタトゥーの男に呆然とする黒騎士。
「まあいい、君たちは無事か?」
気を取り戻した黒騎士は、こちらの安否を尋ねてくる。
「ああ、問題ない。
庇護者のところまで案内してくれ」
「いいだろう、付いて来い」
そうして四人は夜の暗がりの中に姿を消したのだった。
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