カルラーン公国②
新居のカルラーン城で充分に睡眠を取った真也とイリアは、昨日、夕方頃に到着したルリーナと共に朝食をとった。その後、国の城主幹部らを集めて会議を行うことになっている。
会議が行われるのは真也の私室の内の一つで学校の教室程度の広さがある。
部屋の真ん中には大きな縦長の机があり、カルラーン城主のライカや支城の城主らが十数人腰掛けて真也を待っていた。
真也達がまだ来ていない間に彼らの間で会話が交わされる。ライカの対面に座っている男が口を開いた。年齢は人間で言えば四十代といったところだろう。他の出席者も似たり寄ったりだ。
「ところでライカ殿。新しい国主殿は大陸出身の成り上がりにすぎない元傭兵であると聞くが……どんな様子であった?」
彼の問いにライカは首を横に振る。
「陛下の名を呼び捨てにするなど不遜で傲慢な態度であると最初は思った。だが不思議とただ単に図に乗っているという訳でも無いように思える。仮面で表情も分かりづらい為私にも良く分からないのだ」
彼女の言葉に男はふんっと、鼻をならした。
「ライカ殿は深読みし過ぎている。所詮は成り上がりの分際。思わぬ出世で調子に乗っているだけであろう」
男の結論に別の男が口を挟む。
「その考えはいささか軽率でありますぞギルバート殿。なんでも陛下が自ら頼み込んだとの噂もあるくらいだ。大陸では名高い黒騎士だったに違いあるまい」
「だがシンヤ・アリナガなどという変わった名はこれまで一度も聞いたことはない。第一それ程の者の情報が一つもないなどありえんわ」
ギルバートと呼ばれた男にライカは尋ねる。
「では貴殿はいかがお考えか?陛下とアルシエラ閣下が公認の方を拒めば謀反とみなされるぞ。勝算があると思うか?」
先日ライカは真也に「忠誠を誓う」と言ったが、今の魔界ではそのような言葉は安いものである。あの発言はイリアの手前であったからにすぎない。
ライカの問いにギルバートは机を叩いた。
「この私が謀反だとっ?そうとまでは言っておらんぞ!ただ、どこの馬の骨とも知れぬ若僧に国主を任せるなどという陛下のお考えが理解出来ぬだけだっ!」
彼は咳払いを一つして呼吸を整える。彼が落ち着いたところを確認して別の男が意見を述べる。
「どちらにせよ、我々はシンヤ殿を迎え入れなければならないようだな。本会議には陛下もご出席なさるとのこと……心配ではあるがここは様子を見てから判断するしかあるまい」
彼の意見にライカを含めた出席者達は全員渋い顔で頷いた。
それから数分後。真也、イリア、ルリーナが部屋に姿を表した。
「起立っ!」
例によって、凛とした口調で声をあげる彼女に従って他の幹部の男達が立ち上がる。
ルリーナが口を開く。
「それでは朝礼を開始致します。皇帝陛下に拝礼!」
彼女の迫力に欠ける号令にライカを含めた幹部らはイリアに向かって、平伏して立ち上がってを三回も繰り返す。
この異様な光景に気後れした真也は心内で「まるで神の様な扱いだな」と、自分が立っているこの場があまりにも場違いであると思えてきた。
「着席!」
椅子に座る幹部らを確認してイリアが口を開いた。
「皆ご苦労です。今回わたくしがこちらへ訪ねた理由はご存知であると思いますが、わたくしから紹介致します。こちらの方がこのカルラーン国の国主のとなるシンヤ殿です。皆礼を尽くしなさい」
イリアの言葉にライカ達は立ち上がって頭を垂れた。
「「「お祝い致します公国閣下」」」
ピッタリと口調を揃えている様を見た真也は単純に感心する。
イリアに目配せを受けた真也はあらかじめ決められた内容を述べた。
「あ、えっとー……なんか俺が新しい国主の真也だ。で、皆のこれからのことについては今からルリーナが話をしてくれる」
場に慣れていない真也の発言はここで一旦終了。細かいことはルリーナに任せる事になっている。
「私が軍師のルリーナ・マラベルです。以後国の軍略及び政略を務めさせて頂きます。若輩者で御座いますので、皆さんの力をお貸し頂ければ幸いです」
彼女の自己紹介後、ライカを除く幹部らが大袈裟に咳払いをしてみせた。
ギルバートが横槍を入れる。
「恐れながら申し上げます陛下。小娘ごときが閣下の手足になれるとは到底思えません。お考え直しを」
彼の言葉に同調する様に、出席者らからも「どうかお考え直しを」と声があがる。
数十人から浴びせられる冷たい視線にルリーナはあわあわと震える。
真也は気になってイリアに小声で尋ねる。
「あいつらなんでルリーナをあんなに拒否るんだ?」
「ただの嫉妬ですよ。列島出身の家系の小娘が国の一番重役と言える立場に就くのですから当然と言えば当然でしょう」
「ふーん、そういうもんなんか」と、あまりパッとしない理由であるが、なんとなく納得する真也。
彼はおろおろしているルリーナの頭に手を置いて彼女を落ち着かせた。
イリアは静かに立ち上がって一歩前に出る。
「我が国はまだまだ発展の途上にあります。経験が豊富であることも大事ですが才能を有効に活用することも大事です。シンヤ殿についても同じことが言えます。わたくしは彼らを起用しないのは宝の持ち腐れであると考えます」
イリアの言葉に対して今まで黙っていたライカが同意を示す。
「陛下のおっしゃる通り今は優良な人材が少ない。私は賛成致します」
彼女が賛成したことで、ギルバートや他の反対者も渋々引き下がる。本城の城主の意見は彼らの中では一番発言力が高いようだ。
「続けなさいルリーナ」
「はっ、はい陛下っ!ええっ、皆様の所領地につきましては変わりはございません。ですが国の政策として大きく変わることが一点あります」
ルリーナは一呼吸置いて続ける。
「それは攻略目標の変更です。現在カルラーンはアルシエラ閣下の軍団として大国イタルクス帝国を攻略中ですが、軍団の援助を受けながら孤島の制圧に切り替えます。
皆様もご存知の通り、カルラーンは帝都と同じく沿岸部です」
ルリーナは机に広げたフォルパス列島の地図を差しながら説明する。
帝都とカルラーンは西大陸側の沿岸沿いの位置にある。
そして大陸と列島の間には数十の島が浮かんでおり、沿岸国はこの小国連合からの略奪に長年頭を悩まされて来たのだ。
「陛下は蛮族の討伐に本腰を構え、大陸への進出を考えておられます」
これを聞いて皆の口から「おおっ!」と声が上がる。
ギルバートが「遂に念願の大陸進出でございますか!」と喜びの声をあげる。
どよめく幹部らにライカがたしなめる。
「静かにせよ!まだ話は終わっていないぞ!」
そう言う彼女も普段あまり変わらない表情が今回ばかりは興奮で力が入っている。
「尚、制圧した国々は全てカルラーン国領の属国として認め、ゆくゆくは大陸方面軍の軍団長として活躍して頂きます。大筋の説明は以上です」
ルリーナの説明を聞いてライカは真也を無意識に見つめる。
新参の国主がいきなり方面軍の司令官に任されるなど常識では考えられないし、そのようなことはありえない。それ程までに彼は実力があり、陛下から信頼されているということなのだろうか……彼は一体何者なのだーー
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