変態仮面だと!?いや!ちげーよっ!?
どうぞ宜しくお願い致します。
イリアに用意してもらった客室で一晩を過ごした真也。
まさにVIPルームであるかのようにベットは広く寝心地は最高であった。
強いて不便を感じたのは仮面をつけっぱなしであった事だけである。部屋の中くらい外しても良いのではないかと思うが、真也はイリアの指示に対して忠実に従う。
唯一真也が仮面を外すのは顔を洗う時くらいのことであろう。
「ふーっ、さっぱりするぜ」
溜めた水で顔を洗って布で顔を拭く。久々に自分の顔を鏡で見てみるが、魔王だからとはいえ、変わったところは何も見当たらない。
今も尚、自分が異世界にいる事を夢ではないかと疑う真也である。
と、仮面を再び装着した矢先、部屋のドアをノックする音が中に響いた。 外から若い女性の声が聞こえて来る。
「お早うございます、シンヤ様。当城のメイド長を務めさせて頂いているフィアナと申します。本日の朝食をお持ち致しました」
「おっ朝飯か、入ってくれ!」
「失礼致します」
まるで真也の動向を見計らっていたのかと思うほど、タイミング良く部屋に朝食が運び込まれる。
先ほどの声の主であろう。犬耳と尾尻の付いた綺麗なメイド服姿の女性、フィアナが真也に声を掛ける。
「昨晩は良く寝られたご様子。こちらの部屋はお気に召しましたでしょうか?」
「ん、あ、ああ。すげえ気に入ったぜ。えっと、所で……その犬の耳みたいなやつとかは本物、なのか?」
真也はフィアナのピコピコ動く獣耳とフサフサ揺れる尾尻を興味深気に見つめる。
彼女は首を傾げて尋ね返す。
「シンヤ様はウルフ属をご存知なかったのでございますか?」
知らなくては何か悪かったのであろうか?と、返答に困るシンヤ。だが、フィアナは何かを思い出したらしく、微笑んで助け舟を出してくれる。
「失礼致しました。シンヤ様は黒騎士でございましたね。ウルフ属には戦闘タイプ以外にも、わたくしのような給仕タイプのウルフ属もいるのです。警戒させてしまい大変申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げるフィアナ。話の流れからすると、彼女の耳と尾尻は本物であることが分かった。
その代わり、黒騎士というものがなんなのか真也には分からなかった。
だが、黒騎士というのが自分の事を差している事が分かる為、真也は聞かない方が良いと判断した。
今は余計な困惑を作るべきではないという彼なりの理由である。
「あ、なるほど、そういう事か。いやまあ、無知だった俺が悪いんだ。気にするな」
軽はずみな質問は慎重に聞くべきだと、真也は肝に銘じた。
「本当に申し訳ございませんでした。そう言えば……確かシンヤ様はまだ外の景色をご覧になっていらっしゃらないのではありませんか?」
真也が部屋に着いた時には外は暗く、様子を確かめることは出来なかったのだ。
フィアナは「ここからの景色は格別でございますよ」と、言ってカーテンを開いた。
そして、真也の眼前に絶景が飛び込んで来た。彼は吸い込まれるようにして、バルコニーへと足を運ぶ。
「す、すげーっ!」
真也が朝日が昇り始めている様を見て感動したのはこれが初めてのことであった。
東に広がる海の中から、オレンジ色に輝いた太陽が徐々に昇ってくる。
空は色を塗り替えているかのように雲が鮮やかに流れ、海はその光を反射させてキラキラと踊るようにうねり、眼下の街並みは一色に染め上げられた。
その景色に見とれている真也に「準備までに少々時間がかかってしまいますので、どうぞそのままお楽しみ下さい」と、笑顔で準備に取り掛かった。
ーー そうこうして朝食がテーブルに並び終える。景色と風に当たっていた真也は上機嫌で席に着いた。
肉料理など、とても朝食とは思えない量が卓上を覆いつくしている。恐らく、食べ足りない事のないようにという配慮なのだろうが、この量は些か多過ぎやしないだろうか?
朝食の量に圧倒される真也を余所に、フィアナは淡々と料理を取り分けていく。
「朝食が済みましたら、イリア陛下からお呼びがございますので、その際はわたくしが部屋までご案内致します」
「イリアが?そうか、分かった。食い終わったら頼むわ」
そう言うと、真也は朝食に手をつけ始めた。
シンヤはメイド長のフィアナの案内のもと、イリアの部屋の前まで到着する。
「イリア陛下。只今シンヤ様をお連れ致しました」
フィアナが部屋の中へ確認をとると、イリアの「どうぞ中へ」という応えが返って来た。
フィアナは外で待機するのか、中へは真也一人だけ入る。
中で真也を待っていたのはイリアだけではなく、他に二人の少女が真也に顔を向けた。
一人は椅子に腰掛けていて、もう一人はその後ろに立っている。
最初にイリアが口を開く。
「シンヤ殿、どうぞお掛け下さい」
彼女が、これまでの真也への対応を変えている事が彼にも少し伝わる。
「お、おう……いや、はい」
真也は頷いてイリアの正面の椅子に座る。
すると、左隣りに腰掛けている少女が顔を歪めた。
「礼儀の知らない男ね!陛下の御前で顔を見せないなんて!それに、今の返事の仕方は何なのよ!陛下を馬鹿にするなんて、今すぐ打ち首よ!」
「えっ、えええっ!?」
どうやらこの少女は真也の態度にご立腹の様である。まあ、これが当たり前の反応なのだろうが……。
「良いのですアルシエラ殿。彼は作法とは無縁である戦場しか知らぬのです」
立ち上がって剣の柄に手を掛ける少女を手で制した。
アルシエラ・バートン。魔界トップレベルの戦闘力を持つ少女は、真也より少し年下の様に見える。
青色の長い髪はツインテールに結っており、瞳は勝気なつり目。外見からして丸太ボディーで、イリアと比べると悲しいかな、その差は歴然である。
「で、ですがこんな奴!」
尚も真也を睨みつけるアルシエラを、今度は後ろに立っている少女が慌てて説得し始めた。
「あわわっ!お、抑えて下さいアルシエラ様っ!礼儀作法はあとで身につけてもらいましょう!こちらの御仁は我が軍の重要な戦力となる方なんですよ!」
真也は少女の言葉にうんうんと、頷く。
「貴女は黙っていなさいルリーナ!こんな奴本当に強いのかも怪しいわ!」
ルリーナと呼ばれた少女の髪はセミロングの茶髪をしている。アルシエラとは対象的で気弱そうな印象だ。その証拠に彼女は、どうすれば良いのかと、おどおどと真也を含めたメンツの顔を見比べるばかりだ。
そしてアルシエラは「斬ってしまいましょう!」などとおっかない事をイリアに進言し続ける。
だが、イリアは語気を強めてアルシエラを黙らせた。
「やめなさいアルシエラ。そのような態度を取られては話が進まないではありませんか」
アルシエラは渋々自分の席へ引き下がる。
彼女をそうさせたイリアからは、今までにない貫禄を感じられる。
イリアは仕切り直しに、咳払いをして真也へ向き直る。
「失礼致しましたシンヤ殿。此度の非礼をお許し下さい」
「あーいや。俺もなんか悪かったみたいだからな。そんで、なんか話す事があんだろ?」
真也が先を促し、イリアは頷いて応える。
「シンヤ殿には、明日から正式にカルラーン国の国主としてご活躍して頂きます」
彼女はアルシエラに手を向ける。
「こちらの方が、イタルクス方面司令官のアルシエラ総帥です。シンヤ殿はアルシエラ殿の傘下に加わって頂きます」
イリアから紹介をされた当のアルシエラは、ブスッとした態度で「ふんっ」と、鼻を鳴らした。
続いてイリアが、今度は茶髪の少女に目を向ける。
「彼女にはシンヤ殿の側近として従事して頂きます」
真也が茶髪の少女に顔を向けると、彼女は余裕のない姿勢で一歩前に出る。
「るっ、ルリーナ・マラベルと、ももっ、申しますっ!びっ微力ながらお役に立ちゅっーー立って見せますっ!あううっ、噛んじゃいましたあぁ!」
顔を真っ赤にさせて、今にも泣きそうな顔になるルリーナ。
こいつ、結構ドジっ子なんだな。と、真也は優しい眼差しで「大丈夫だぞ」と、彼女をなだめた。
この子とは長い付き合いになりそうだ。と、今のうちに良い関係を作っておく方が良いと考えた真也であった。
真也の言葉のお陰か、ルリーナは、なんとかその後すぐに平静を取り戻した。
それからしばらくの間、今後の予定を打ち合わせを行った。そして話が終わり、真也が席を立とうとしたその時。アルシエラが真也を呼び止めた。
「待ちなさい、そこの変態仮面!このあたしからありがたい命令を言い渡してあげるわ!」
「おいっ!誰が変態仮面だっ!?」
いつ、どこの場面を見て、そのような理不尽なネーミングが付いてしまったのかは分からないが、どうやら真也は伝説級の変態仮面になってしまったらしい。
真也の反応を完全にスルーして、アルシエラは腰の剣を引き抜く。
「今からあたしと決闘しなさいっ!もしあたしに勝ったら国主として認めてあげるわ!」
「は、え?け、決闘?……って、えええっ!?決闘だとーっ!?」
アルシエラから向けられた鋭利な剣が、その切っ先をびしりと、真也へ向けられたーー
これは余談であるが、打ち合わせの話で黒騎士というのが、傭兵の一種である事が分かった。全くもって、今は関係のないことである。
変態仮面……それは著者にとって、決して消えない黒歴史というものであった……。いえ、違いますよ?ええ、本当に……。
と、言うわけ?で、次回はやっとこさ初のバトルです!
著者にとっては待望のバトルです!精一杯頑張りますので、今後とも宜しくお願い致します!




