魔王決断②
「魔王さま。今、貴方さまの存在を公にすることは大変危険なのです。ですから、今お付けになっている仮面は決して外さないで下さい」
真也はイリアの部屋で食事を摂りながら、彼女の話に耳を傾けていた。
単純な思考の持ち主である真也は素朴な疑問をイリアに問う。
「魔王って世界を破壊するような存在じゃねえのか?俺の知ってる魔王はそういうやつなんだが?」
この問いにイリアは身を乗り出して強く否定する。
「それは極めて人間的な考えです。そのように悪しき人間どものような言葉は我々魔人を冒涜するものです!」
イリアと話してまだ数時間も経っていない真也であったが、彼女がこの様に声を上げたのを意外に感じて目を見開いた。
つい力を入れてしまった事に気がついたのか、イリアは咳ばらいをひとつ姿勢を正した。
「失礼致しました。ですが魔界ではこれが絶対です。くれぐれも、ご自身が人間であるとのたまってはいけません」
「はあ、まあ気をつけるけどよ、なんでそこまで人間を悪く言うんだよ?」
真也はつい先日まで人間であった。この様に疑問を感じてしまうのは当たり前と言えることであろう。彼にとっては是非聞いておかねばならない事情である。
イリアはそんな真也の心中を察してか否か、はぐらかすことなく説明し始めた。
「元々この世界には魔人しか存在しませんでした。ですが、次期に魔力を持たない存在が生まれ始めて、我々とは別の生活を営むようになりました。それが人間です」
イリアは一旦言葉を区切って真也の顔色を伺う。真也が頷くのを確認した彼女は説明を続ける。
「人間は魔力を持たない分、知恵を使って機械を産み出し、高度な文明を築いていきました」
イリアは「そこまでは良かったのです」と、瞳を閉じてため息をついた。
「やがて増長していった人間達は、森を切り拓き、大気や水を穢すようになりました」
真也は現代の環境破壊を想像して、イリアの言葉を黙って聞く。
「そこで困ったのはわたくし達魔人です。何にせよ魔法は自然に宿る精霊の力を分けてもらって発動させていますから」
イリアの説明を聞いていた真也は、事の成り行きに納得して口を挟んだ。
「要するに自然が破壊されて、その精霊とやらが消えていったって事だな?」
真也の見解は概ね正しいようだったが、イリアは彼の一言に訂正するように言い放つ。
「消えた、とはまた穏便な解釈です。精霊は殺されたのです。彼らは今も何処かで悲鳴を上げています」
真也は、イリアがわざわざ言葉を訂正する様を見て、魔人と人間との間にある悪い関係が強く根づいている事を感じていた。
真也は椅子に座り直して腕を組んだ。
「じゃあ……人間を滅ぼすのか?」
真也としてはそうしたくはないし、そもそも人や動物を殺す事などしたくはない。
だが、イリアは真也の言葉を肯定した。
「それはもちろんです。ですが、人間の殲滅の前にやらねばならないことがあります」
「やるべきこと?」
真也は訝しげに眉を潜めた。もっとも、それは仮面によってイリアには見えないのだが。
イリアは神妙に頷いて応える。
「魔界の統一です。大魔王である貴方さまが倒されてしまい、多くの重臣や辺境の魔王らが離反してしまいました。今、魔王さまが成すべき事は魔界の再統一なのです」
イリアの説明を聞いて真也は一言感想をこぼした。
「ふーん。なんか俺って結構可哀想な奴なんだな」
真也の一言にイリアは顔を少し伏せる。
「心中お察し致します……忠義のカケラもない者達に鉄槌を下してやりましょう」
だんだん感じて来ていたことではあるが、イリアは特に魔王、真也のことになると容赦のない言葉を言い放つ。
内心ではイリアの存在に怯えそうになる真也であった。
「ま、まあ、それはそうとしてだな……」
イリアの怒りを静めようと、話の修正をはかる真也。
「さっきの言い方だと、まだ味方はいるんだよな?」
「もちろんです。ですが……有力な諸侯の魔王達は次々に討ち取られてしまいました」
イリアは部屋に置いてあるこの世界の地図を卓上に広げると、指示棒の様な木の棒を使って真也に見せる。
この世界は、主に五つの大陸で成り立っているらしく、中央大陸を中心に囲むように、東西南北の配置で大陸が存在しているのが分かる。
現在は中央大陸及び、南北の大陸を縦に線引きするように、西側が魔界の領土とされている。
その地図に記された西大陸をさらに西へ、そう離れていない列島をイリアは棒で指す。
「この列島が今わたくし達のいるフォルパス列島です」
西大陸の面積は列島の約二十倍の大きさだという。
「現時点で最も頼りになる諸侯は、アルシエラ殿の他にいません」
「そのアルシエラってのは、どんな奴なんだ?」
真也の問いにイリアは応える。
「女性の方ではございますが、魔界トップクラスの武をほこる武官です。魔王さまへの義を重んじる性格ゆえに、我が軍の総帥を任せております」
この魔界における総帥とは、軍団を指揮する元帥の中から一名だけが抜粋される。最も名誉ある称号なのである。
「なるほど、まあ……いまいち状況はつかめてねえんだが、結局俺はどうすれば良いんだ?」
力になる。とは言いつつも、この手の問題に関して詳しくない真也は、おいおい学べば良いと楽観的である。
イリアはここからが本題であるというように頷いた。
「魔王様には早速、小国の国主になって頂きたいと思います」
それを聞いた真也は口をポカンと開いた。
「は……?えっ、いやいや!いきなり俺には無理だろ!あれだ!国政?とか色々分かんねえし!」
全力で否定する真也。しかし、彼の反応を予測していたのか、イリアは「それにつきましてはご安心下さい」と、落ち着き払って言葉を続ける。
「わたくしの優秀な配下を従僕につけさせます。重要な案件に関してはその者に任させるよう指示しておきましょう」
「そう言われてもなあ。そんなんで大丈夫なんかよマジで?」
今更そのような事を心配してどうする。と、言いたいところではあるが、気持ちは分からないでもない。
「まあなんとかやってみるけど……」
不安をあらわにする真也であったが、約束を違えることはしたくなかったのか、彼は了承する他なかったようだ。
イリアの話はそれで終わったらしく、真也が食事を終えたのを見計らって席を立つ。
「では段取りはこちらで決めますので、客室の部屋へ案内致します」
イリアに連れられて、真也は部屋をあとにしたーー
次回は話が動くはず……です!
それでは、ご愛読宜しくお願い致します!




