帝国の危機
その後フィリアスに何度かツッコミを入れさせられた真也だったが、彼は彼女の優しさに深く感謝した。
時間は少しロスされてしまったが、彼女の飛行魔法であるならば、イリアにすぐ追いつくという。
フィリアスは「血がたぎるぜいっ!」と叫んで格好良く窓から飛び出す際、魔法で強化された窓ガラスを突き破れずにブチ当たり「ふげっ!?」と、悶絶していたのは余談である。
「閣下、入ってもよろしいでしょうか?」
真也の為に、戦況がどの様になっているのかを調べていたルリーナが真也の部屋をノックする。
恐らくなんらかの情報が手に入ったのであろう。真也はベッドから跳ね起きた。
「おう!早く入れ」
「失礼致します」
ルリーナが部屋に入ると、真也は彼女が一呼吸する間を与えずに駆け寄った。
「なんか分かったのかっ?」
「はい。状況はかなり深刻な事態になっているようです。進軍中の本隊が攻城戦を目前に、寝返った小領主の別動隊によって背後から挟撃に合ったようです。退路がふさがれて身動きがとれない状況に陥っています。現在陛下は本隊救出の軍を自ら率いて向かっているとのことです」
報告があってから一日が過ぎているのが、どうやら挙兵するまでに時間が掛かっていたらしい。
最悪の場合、見捨てる事も考慮していたのかもしれない。実際、もう手遅れの可能性は充分にある。
真也はそれを聞いて落ち着きなく部屋の中を歩き回る。
「フィリアスだけで大丈夫なんかなあ?あいつあんなんだし……やっぱ少しでも援軍とか送っといた方がいいんじゃねえのか?他の連中もそうしてんだろ?」
「我が国の体制はまだまだ不安定です。今援軍を出して、もし壊滅するような事が起きれば、民臣から間違いなく反感を買ってしまいます。国を治めるお立場としてリスクは避けなければなりません」
ルリーナは説得の意思をなかなか曲げようとはしない。本気で真也の事を心配しているという事だろうか。
「なんなら俺一人だけで行くさ」
「感情だけで動いてはいけませんっ!私はもう陛下の家臣ではなく閣下の家臣です!主人を守る事が私の役目ですっ!」
「だったら俺も同じだ。俺はイリアに仕えてる身分なんだろ?」
「……それはともかく、援軍の要請は受けませんでした。したがって援軍を出す必要はありません。他の国家も陛下の要請があったから動いているだけです。なければ彼らも動きません」
仕える主君が代わった場合、魔界では前の主君を助ける義理はほぼなくなってしまう。
恩を優先してしまい、現在仕えている主君をないがしろにすれば、不忠であるとみなされてしまうからだ。それが国家単位であるならば割り切ってなお当然というものだ。
真也にはそれが理解出来なかった。
それを分かってか、ルリーナは妥協案を提案して来た。
「閣下のお考えは分かりました。ですが私は考えを改める訳にはいきません。ですのでこういうのはどうでしょうか?これから援軍の竜騎士を百人程準備します」
竜騎士とは、馬ではなくドラゴンに乗って戦う騎士のことである。百人の竜騎士隊は五百人の騎馬隊と千人の歩兵隊からなる一個大隊クラスの部隊である。
大抵はこの規模の軍が各国から集まって戦線まで参陣する。
「ですが、それ以上は用意出来ません。そして陛下の身に危機が生じた場合に限って、我が軍は陛下が帰還する退路のみを確保致します。指揮はもちろん閣下ではなく他の方に出撃して貰います。前線まで乗り出さずにあくまでも後衛軍としてなら問題はありません。良いですね?」
「まあそれなら……」
ルリーナの案に頷こうとした時、衛兵がドアをノックした。
「閣下っ!沿岸警備隊から急報です!」
ルリーナが入れさせた衛兵は巻紙をルリーナに手渡した。
真也とルリーナは嫌な予感を覚えながら紙を広げる。
『帝都沿岸部の長城全域に連合諸島軍から大規模な急襲を受けり。被害軽微なれど我が隊劣勢。敵兵力およそ五千。貴国からの援軍を至急要請するーー』
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