旅じゃありませんか、誰だって人間の生涯は
日本の詩人、小説家、「破戒」で有名な島崎藤村の言葉です。前回の旅の始まりに続き、道中なのでこの言葉をチョイスしました。
シェイン一向のミナミを抜けた後の長きにわたる旅が始まろうとしていた。彼らの旅路は至ってシンプルなものだった。アキバまで距離にして300km、ノンストップで70時間超。単純計算で5日程だが、幾ら冒険者といえど休息は必要であるし、モンスターも出現する可能性が高いこのヤマトで、お気楽に行けるとは思っていなかった。酷くて数週間かかるものだ。それでもこの世界を楽しんでいたように見える。日本海側を通り東京へと続ける道のりの中、彼らはミナミからほどほど近くの街、京都に着いていた。
「やっぱキレイでサッパリしてるねー、〈キョウの都〉」
「平安京を彷彿させますね」
若干インテリっぽい話を繰り広げるシェインと仲他にアヤコやカネコウはどうにもついていけないらしかった。レキナからすれば「へいあんきょうとは、神代のですね・・・」とか言っているし、知識ばかり言われてもどうしようもないのだ。馬と徒歩で数日かけて訪れたこの街、キョウは修学旅行で行ったような街並みだった。この世界では特に行きたい場所も無いので、とりあえず着いて行く程度の気持ち。
「でも、ここにいて大丈夫なんすか?」
「何が?」
絶賛後輩口調のカネコウの質問に答えるシェイン。
「ここって、斎宮家とか執政公爵家とか、西の代表が住んでるんすよね。ミナミがいてもおかしくないと思うんですよ」
「あ、それは心配無い」
「何故に?」
「ここって、〈神聖皇国ウェストランデ〉の中心地なんだわよ。〈Plant hwyaden〉からすれば下手に手を出せない。やらしかちゃったら関係悪化に繋がるからね」
「ここはあんまり来てほしくない場所なのですよ」
また、レキナの押しの一手。彼女の知識量には一同が驚くばかりだった。今までの野宿とは少しばかりおさらばし、宿に1日泊まることを決めたためにこの街に来たのだ。老人向けの旅番組を相当アグレシッブに変貌させた感じだ。若者だからなせる技と言うべきか。
「やっぱ、市場があるな」
「なんか、買って行きましょうよ!食材も尽きてきたし」
彼らはまだまだ自炊である。調理革命が起きたと言っても未だ料理を食べさせてくれる店は出てこない。まだ食文化発展途上なこの地では無理もなく。自分たちで作ったほうが美味しいものだ。
「おや、皆さん冒険者かい?」
大きな声が聞こえた。彼らは振り返った方を見ると 、屈強そうな男が立っていた。テーブルのようなものには野菜がいくらか乗せてある。市場で商売をしているようだった。
「そうですが、これは?」
シェインの質問にも無理はない。売っている野菜はどれも色や形が独特なものばかりだった。すると、男はまた元気な声で説明をした。
「皆さん、この辺にはあんま来たことねえのか?」
「はい、今日の朝方着いたばかりで。それにしてもあまり見ない野菜ですね」
「キョウ野菜ってんだ。この辺でしかとれねえよ。どうだい」
正直言うと、現在シェイン一向は食糧不足に陥っていた。モンスターと戦えば幾らかドロップするのだが、極力エンカウント率の低いゾーンを進み、遭遇しても逃げてばっかりだったので収穫がなく、出発時の食料を使い続けてきたのだ。というわけで、シェインは調理班の代表であるアヤコに意見を仰いだ。
「どう思う、安くしてくれるっぽいし。俺は買いたい」
「いいんじゃないですか。面白そうですし」
「よし。じゃあ、コレとコレとコレ下さい」
「はい、まいどあり」
食料を売っている店だけではない。他にもアクセサリー系統ものも多く、服なんかもそれぞれの店で出していた。欲しいものがあったらポケットマネーから買う。そのような約束で通りを歩きながら一人でもはぐれないように、ショッピングを楽しんでいた。
「それにしても、独特な風景ですね、この街」
「何がさ?」
特に何も買わなかった仲他に買ったアクセサリーなんかを早速つけているアヤコが答える。
「いや、なんかさ。昔の京都の神社とか寺と西洋風の建築が一緒になってて、和洋折衷というか」
「言われてみればねー。面白いもんだね」
「この辺には神様を祀るために寺社があるのですよ」
「「‼︎ビックリさせないでくださいよ、レキナさん!」」
思わずハモるほど驚く二人。歴史的な疑問が沸けばどこからともなく出現して説明をし、颯爽と去る。相当な教えたがり元宿屋に同行する4人とすれば、この世界の知識がスルスルと身につくばかりだった。
「おや、申し訳ございません。話を聞くとついつい教授したくなってしまい。多くは〈国防級魔法災害〉を神の怒りと捉えた視点からですがね。しかし、代表的な寺社はどれも時の権力者によって作られてものですわ」
「「こくぼうきゅうまほうさいがい⁇」」
冒険者からすれば意味不明な単語は前から出てきている。「これはミラルレイクの専門ですからね・・・」とか言っている。
「それにしても、レキナさん。メイン職業変わりましたよね」
「めいんしょくぎょうとは一体何でございますか?シェインさん」
「ああ、ええっと、俺なら〈妖術師〉、そこの仲他なら〈施療神官〉。ステータスに表示されるんです、大地人にも」
成る程と言わんばかりの表情だった。
「私の職業はどのように変化したのですか?」
「ええっと、ミナミにいた頃は〈宿屋〉で、逃げてる時が〈逃亡者〉。今は〈旅人〉ですね」
「〈旅人〉!いい響きですわね」
喜んでもらって何よりなのだが。ここの所テンション上がりっぱなしの周りに振り回され続けたシェインとしては、宿に行って休みたかったのだ。
「なあ、そろそろや」
「アタシ、金閣寺行きたいです‼︎」
「オオ、金ぴか見たいっす」
「〈ロクオン〉でございますか案内致しますよ」
「待て、お前ら。シェインさんもこまっ」
「「行くぞー‼︎」」
良識派の仲他が取り合っても全く取り合ってくれないお調子者に頭をを抱えるばっかりだった。滞在予定はあまりなかったのだが、あらゆるところを見て回り、最後に旅の安全祈願をしたのだった。
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そのすぐ翌日に彼らはキョウを出た。目的地はあくまでアキバ。中継点には、食料など必需物資の調達と、休憩ぐらいしか必要がない。名所だったら観光するが。日本海側海沿いを、現実の地名で言えば、大阪を出発し京都から、名古屋、浜松、静岡、神奈川、そして秋葉原へと。阪神及び名神高速道路を通っていくのだった。幸いにも、現実の高速道路だったものはいくらか整備されているものが多く、使いやすいのだ。それだけモンスターも出てこない。ルート計画も練りやすく色々な街へとつながっている為、便利でもある。1週間かけてついた道のりはナゴヤへ到達したのだった。
「うぉ、なんすかあのデカイ丸っこいドームみたいなのは!」
「ナゴヤ闘技場でございますよ。剣闘士を鍛えるための訓練施設でございます」
興奮するカネコウをあやすように説明を入れるレキナ。なんでここまで情報を知っているのか。それが日常風景となっている彼らには気にする余地もなかったが。
「あれは城ですかね?」
「名古屋城ぽいな。シャチホコみたいなのあるし」
ここまで来ると、観光に乗り気では無かった良識派シェインと仲他も加わっている。彼らは前回のキョウと同じように、物資を補給しつつブラブラしていた。すると、目の前に自然の草木で出来た輪が見えた。
「シェインさん、あれは・・・」
「ああ、なんだよアヤコ。ん、あれ〈妖精の輪〉だ」
〈妖精の輪〉。〈都市間トランスポートゲート〉と同じく、離れた土地を繋ぐ移動手段の一つ。現在機能を停止している後者と違い、前者は未だ使えるようだった。だが、未だ使ったものはいない。
「あれで、アキバまでひとっ飛びできませんかね?」
「360分の1の確率でなら」
1時間ごと変わる転移先と14.8の月齢を組み合わせた複雑なパターンは、タイムテーブルが無ければ暴走したどこでもドアと同義だった。そんな情報を頭で記憶できる人間はほとんどいないと思える。アキバを目指すつもりが、なんのPOPもないアフリカサーバーの砂漠地帯に飛ばされるのは誰だって困る。〈妖精の輪〉使用案は一瞬にして崩れ去った。
「それにしても、本当時間かかりますね」
「もしかして、アヤコは短気?」
ちょっとからかい気味に言ったつもりが、ものすごい剣幕で睨まれるシェイン。
「違いますから」
「すいませぇん」
こい言うときはすぐ謝罪するのが一番だとシェインは心得ている。しかし、旅のプランは即興ながら練りに練ったものだし、時間がかかることは念を押して話したはずだった。
「何かご不満が?」
「もっと観光に専念したいです」
「え」
「なるだけ、野宿とか戦闘とかしたくないし、歩きたくないんですよ」
「お、おぉ」
「シェインさん飛べる奴なんか出して下さい」
「・・・」
自分の考え尽くしたプランを足蹴にされ、命令まで聞かなきゃならないシェイン。それを意に介さずアヤコはズシズシと攻撃を仕掛けていった。
「まさか、本当に持っているんですか⁉︎」
「・・・はい」
場の空気が変わった。今までの努力が水の泡なるかのように、冗談半分で聞き流していたカネコウ、仲他、レキナをシェインの方を見た。沈黙は肯定。彼は飛行召喚生物を隠し持っていたのだ。気まずい雰囲気までも漂い始めたが、シェインはかをブルブルと振って気を取り戻した。
「待て、皆。そんな顔で見るな。別に隠すつもりは無かった!俺は確かに召喚生物は持っている。しかも、複数人乗りだ。でも、使わないのには理由があって」
「なるほどですわね」
言い訳で取り繕うとするシェインに、瞬く間にレキナがフォローを入れる。ずば抜けた教養が炸裂する。シェインが心の中で(レキナさんナイス‼︎)思っているのはバレバレバレだったが。
「ミナミから近辺では撃ち落とされてしまう危険性がある為ですし、危険性を考慮しての行動ですわね。で・す・が、隠すということは仲間からすれば信用が無いと見えて仕方がないのですよ」
レキナの発言はもっともだった。人と密接に関わるということは、自分の手の内や本性を見せるということ。それが出来なければ距離を取っていると見られても仕方が無かった。シェインは申し訳なさそうにしていたが、何故かモジモジしており言いたげだった。
「それだけじゃ、ないんです」
「「へ?」」
「それだけじゃないんです」
顔を赤らめながら、彼は必至の弁解を始めた。
「正直に言いますと、召喚生物を使うと、幾らかの距離は稼げます。今なら追ってもいないから使ったほうが良いって意見もあります。でも、ダメなんです」
急に敬語を使い始めたのに、どう対応したらいいか分からない同行人達だったが、素直に耳を傾けることにしたようだ。たまにしか見られない光景にカネコウはちょっと吹き出しかけている。
「ナゴヤから使えば、ハママツを過ぎるぐらいまで飛行でいけます。でもそれは一回使うともう二度と使えない、使い捨て方式のアイテムなんです。躊躇っちゃうと言うか。はい、ハママツに行きたいです。楽器とか運搬系統が見たいんです」
現実でいう、静岡県浜松市には「YAMAHA」という企業がある。楽器の性能、特に管楽器で言えば、厳格な伝統を誇るウィーンフィルのプレイヤーに認められ、感謝状が贈られる程。それだけでなく、多くのプロが愛用している。発動機を扱う方面では長年培ってきた技術で日本のみならず世界でもシェアを獲得している。シェインはそっちの分野が好きらしく、こっちの世界でも希望を抱いているようだった。そんなマニア愛に負けたのか、話の火蓋を切ったアヤコが口を開いた。
「すいません、シェインさん。いろいろ計画立てて下さってたんですね。勿論、あなたは私達の恩人なんですから、自分の意見を通してくれても良いんですよ。それに、」
「シェインさんのデレが見れて面白かったすよ‼︎」
遂に我慢が効かなくなってしまったのか、カネコウが吹き出す。クールな人かと思ったら、愛に溢れる面白お兄さんだというギャップが響いたようだ。
「あ、コラ。皆さん、笑うな‼︎・・・でハママツには寄って」
「「いいですよ」」
「ありがとう、う、ございます」
感動で涙が溢れそうになる青年をあやす。道中は今までよりも仲間を守ることを条件にまた、一つの絆が強まった。
旅に突入しました。少々ブランクがあり、文章構成に手間取りましたが、色々かけました。情報不足もあり、自分でももう少しやりたいと思っていますが、物語を進めたいのです。(実は40話ぐらいまで構想をまとめている)しっかり勉強して、キョウのお参りやらナゴヤグルメツアーやらは番外で書きます‼︎ちなみに、筆者は元吹奏楽部員で狂った楽器マニアだった為、YAMAHAさんの名前を使わせて頂きました。