悪法も、また、法なり
哲学者、ソクラテスの言葉です。こう言って逃げられたのにあえて死刑になる。ここまでの才人となると捉えどころが違うのでしょうか。
すいません或未品さん。ハル君が言ってましたね同じこと。ご意見ありましたらお伝えください。
5月も、ゲームの中で言えば中旬から下旬に差し掛かった。人間は慣れやすいというのか住めば都なのかは分からないが、様々な意味でこの世界が住みやすくなっているのは事実だった。食事の状況が改善されたのである。〈食闘士〉持ったプレイヤーが謎のスキルを使い料理に味を与えていった頃から、「手料理」が作られるようになった頃まで。サブ職業が〈料理人〉でないと調理が出来ないとか、コマンドを使えないとか制限はあるものの、生活に少しずつ満足感を覚えていった。
「野郎共ー、レキナさーん。ごはんですよごはん」
時刻は丁度夜に近付く。アヤコの声が宿屋の中を通る。その瞬間に、ドアのうるさく開く音が繰り出され、野郎共は走り出した。
「何だ、今日は何なんだ⁉︎」
中でも欠食児童呼ばわりされているカネコウは居ても立ってもいられなかった様子で、メニューをすかさず聞いていた。
「んー?昨日はよくわかんないのの肉だったから、魚だよ。青魚らしきものを焼きました」
ロビーの大テーブルには焼き魚と山盛りのサラダが乗っていた。どれも大量だが、完食するのだ。待ちきれない彼らのリーダー格というべき仲他が合図する。
「頂きます」
「「頂きます」」
いかにも美味しそうな表情で食べる。幸せば時間そのものだと言えるだろう。特に、大地人であるレキナは幸福を感じているようだった。話によれば、冒険者が定住するまで大地人は、味のない料理をずっと食べ続けてきたらしい。食欲を満たすためでは無く、あくまで腹を満たし、飢餓を免れる為の手段でしかなかったらしい。そういう訳で、彼女にとって味のある食事というのは、世界規模のカルチャーショックと言えるだろう。他の大地人にしても同じだ。そして、全員が休む間も無く食べ続けた結果、数十分で皿の上は空白と化した。盤上での活動は、食事がら談笑へと変化していく。
「皿洗いジャンケーン‼︎」
アヤコが仕切るのは、誰しも好んでやりとは言えない後片付け役を決めるものだ。〈エルダー・テイル〉では恒例の「11回勝負ジャンケン」である。刹那、全員の表情が切り替わり、ガンマン同士の打ち合いのような雰囲気が流れ始めた。因みに、レキナはジャンケンがなんたるかを知らなかったのでシェインがレクチューしておいた。
「「最初はグッ・・・」」
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ジャンケン中
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勝敗は決した。シェインの敗北である。
「じゃ、いつもの所に食器とか調理器具を戻しといてくださいねシェインさん」
「(´・ω・`)」
用が無くなったのか、勝者たちはそそくさとロビーから離れ、部屋に戻ったり受付で戻ったりしている。すぐさま立ち上がりキッチンへと向かうシェイン。己の速さを持ってすればこんなこと造作を無いのだ。
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片付けを終えたシェインは自室に戻っていた。時刻は完全に夜である。このまま寝てしまう所だが、そうもいいって居られなかった。やっと気付いた、ミナミの不穏な空気に。その情報を共有するために、程々に頼もしい友人、
クオンに連絡を入れる。
『もしもし?』
「俺だ。シェインだよ」
『あー、お久。何しったの?」
「この街の不穏な空気について聞きたい」
『・・・』
会話からして、クオンも何か知っているようだった。
「知っているなら教えてくれ」
『・・・わかった。まず、濡羽って分かる?』
「誰?」
中身がゲーム素人なシェインには、知る由も無かった。特別ギルドで成果を上げているわけでもないし、ソロでも活躍しているわけではないからだ。
『んっとね、黒い服着てておっぱいでかいねーちゃん』
「今日見かけたかも。あの人かな?取り巻きみたいなのがうじゃうじゃいたけど」
シェインはその集団がなんとなく近づき難かった。周りの人々があの女性を宗教の神のように信奉しているようで、気持ちが悪かったから。
『そう。最近になって、ミナミでは濡羽を中心にコミュニティが形成され始めている。それで人々は希望を持ち始めているのさ。彼女が色々なんとかしてくれるという雰囲気に飲まれているんだ』
街の雰囲気というのはこうも簡単に変化するのかと思った。初期には絶望だったものが希望に切り替わる。確かに、少しでも明るい方向に切り替わるのはありがたいが、狂信的な思想を含んでいるのには疑問があった。
「そいうことか。サンキュー、クオン」
『気軽にどうぞ。後、』
「後?」
『連絡はなるべく日中にしてくれ。夜中は眠気が最高潮zzzz』
言った瞬間に寝たクオンに呆れながらも、寝ることしたシェインだった。
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数日後の事だった。朝食を済ませ、街を出たシェインは至る所に看板があることに気づいた。その辺りは騒がしい。自分もそこに行ってみることにした。看板にはこう書かれていた。
・ミナミに住む全プレイヤーは、ギルド〈Plant hwyaden〉に5日以内に加盟すること。
・〈Plant hwyaden〉は冒険者のみならず、大地人との格差をなくし差別のない平和な街をつくる。
・5日以内にそのまま加盟しなかったり、反抗的な態度と活動が確認されれば、強硬手段も厭わない。我々は衛士機構を協力しており、衛兵は反抗するものに対し攻撃を加える。
シェインは大笑いしたくなる程にバカらしく思った。一介の高校生が独裁体制の発足に間接的に立ち会っているのだ。
(何が格差、差別ないだ。最悪、衛兵使って殺しますだ?協力、掌握の間違いだろうが)
同じように書かれたことを見たものなかにも、様々な意見があるように見えた。 濡羽のシンパなのか共感している者、馬鹿らしいと思っている者。とりあえず、考えをまとめる為シェインは宿に戻った。
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「おかえりなさいませ」
「いや、どうも」
レキナの相変わらずの笑顔にどう対応すればよいか迷った。いつも通りにしたつもりだったが、勘が鋭いレキナには気づかれてしまったようだった。
「何か考え事ですか?」
「いや、その、」
「よろしかったら聞いて差し上げましょうか?」
いつにもなく屈託無い笑顔に気圧されてしまい、説明した。ミナミの統一のことを。それを素直に聞いてくれたレキナは 内面突く質問をする。
「その中で、疑問があるのですね」
「はい。衛兵に関することで・・・」
ミナミを〈Plant hwyaden 〉に統率することのメリットは支配者側からも見て取れた。が、衛兵を手玉にとることに疑問を覚えた。すると、すかさずレキナが口を挟む。
「シェイン様は意外と歴史に疎いのですね。私がその疑問を解決するために知識を教授いたしましょう」
レキナの目つきが少々鋭くなる。仕事の目なのか、笑顔の面影は残りつつも違った人物を見ているようだった。
「お願いします」
「はい、まずは300年前ですね」
「そんな遡るんですか⁉︎」
「それくらいですよ。その頃、このヤマトの地は一つの国でした。〈ウェストランデ古王朝〉がエゾの地を除く全域を支配していたと言い伝えられています。ここは省きますが〈六傾姫〉〈第一次森羅変転〉〈ノースストリア計画〉〈古来種〉色々あり、この王朝は滅亡します 。それが今の国勢を形を作るのです。まず、〈エッゾ帝国〉と〈ナインテイル自治領〉〈フォークランド公爵領〉はパスしますね。これは直接関係はありません。では、残った2つの地域の支配者から取り上げていきましょう。東のコーウェン公爵家。今は無きフォークランド公爵家もありますが。この2家は古王朝の皇王から「公爵」の位を賜われた家柄です」
「じゃあ、その家柄は王朝が崩壊した今も続いているのですか?」
「その通りです。今も有効しているのは、戦後下の混乱を避けるための仕様がそのまま反映されてしまったためだと思われます。「公爵」は貴族的階級の中ではトップに位置しています。次に西ですがこちらは幾ばくか特殊です。支配は〈斎宮家〉が形式上のトップです。〈執政家〉だの〈元老院〉とパワーバランスがありますが、単純にするためここも省きます。斎宮家は古王朝、皇王家の分家です。墓守という役割を担うために作られました。こちらは王都に住んではいなかったので、滅亡を免れました。ちなみに、〈斎宮家〉の位は「公爵」の上に位置しています」
「なるほど。それは衛兵とどう結びつくんですか?」
シェインの素朴な質問にレキナは思わず感嘆の声を漏らしてしまう。脱線したようだった。
「あ、すいません。横道に逸れました。支配編に続き、技術編に入ります。また昔に遡りますが、古代技術についてです。シェイン様は冒険者なので、魔法遺跡などは見たことがあるでしょう。あれらの多くは〈アルヴ〉の技術です。詳しいことは長くなるので説明はしません。それらは生命線として、大地人が制御できないまま稼働し続けています。それとは別に一部の大地人がコントロールでき得る古代技術。〈供贄一族〉のものがあります。一族の発生期限、思想などは一切不明。継承のみを目的とすると言われています。シェイン様は何度も使ったことがありますよ」
「もしかして、銀行ですか?」
「はい。貸金庫設営、認証設備、運送なども供贄が銀行で行っています。衛兵はその一つ、治安維持を司ります」
「すべての街が供贄によって守られているわけですか」
「いえ、違います。街というのはあくまで、アキバ、ミナミなどの5大都市だけです。やっと肝心なところですが、ミナミだけは供贄の衛兵ではありません。政治的な思惑があり、斎宮家がそれを拒否しました。そのため、ミナミの衛士機構は斎宮家の下にあるのです。ちなみに、斎宮家は「久爾永」という出自が同じであろう古代技術を所持しています。これで合点がいきますか?」
恐らく斎宮家は濡羽に買収されたのだろう。供贄一族であれば何をしようとも答えはノーであろうが、ただでさえ貴族である。流石にでかぱいねーちゃんが来れば、断るのも難しいのが男の性というもの。それはさておき、シェインには新たなる疑問が生まれている。
「何でそんな詳しいですか?」
「乙女の秘密です」
はぐらかされた。ともあれ、疑問は解決したのだから次の問題に入るしかない。この街をどうするか考えなければならない。自分だけでなく、今いる仲間とともにだ。この調子で、シェインは準備を始めた。
(まず、クオンにコールする。話し合って意見を聞こう)
『Zzzzzz、はい、ああ、シェインか。おやすみzzz』
「待てい!お前夜中は最高に眠いから日中に連絡しろって言ってなかった⁉︎」
『GMコール待ちだからずっと眠いんだよ』
今にも寝そうな雰囲気のクオンに質問する。これからどうするのかをだ。
『〈Plant hwyaden〉に参加するけど』
「えっ」
嗚咽の言葉を放つ程の精神的重圧が降ってくる感じがした。こいつだけは信用できたのにという情だ。
『やっぱ、君は参加しないの?ほぼ独裁だろうがとか心の中で馬鹿にしてたでしょう。それもしかりだよ』
「なんであんたはあんなとこに入るんだ?まともな扱いないぞ。24時間眠たいとか」
『いや、濡羽とかいう人に、なんか〈Plant hwyaden〉の執行部みたいな〈十席会議〉に誘われてさ。GMとしての能力を活かして。いや、別に、エロ目的とかじゃないよ‼︎打算的に考えて、特権がもらえるならそっちを選んだほうが無難かなと』
あからさまに否定するクオンを追撃せずにそっとしておいた。誰だってあれとお近づきになりたいものだ。すると、今度はシェインに質問が投げかけられた。
『キミは一体どうしたいのさ?』
「わからない」
〈Plant hwyaden 〉の制度には嫌気がさしたが、どうすればいいのかはまとまっていなかった。
『そっか。そもそもキミ、ミナミがホームじゃなかったんだよね?いっそアキバに行くとかどう?』
「行けるのかな・・・」
『さあ、何事もチャレンジだよ。それに、キミは一人じゃないでしょ』
自分には仲間がいる。一人だけの問題ではない。全員んで共有してこその意見なのだ、大事なことを抜かしていたシェインには思いも寄らない事だった。
「ああ、そうだな、俺は一人じゃないんだ」
『うん、そうさ』
「仲間を支えて、支えてもらえるんだ」
『モチロン!』
「じゃあ、頑張ってみる」
『おう、ガンバレ』
「最後に、クオン。・・・ありがとう。居場所は変わってもお前だって仲間だよ」
『フッ、困ったらいつでも連絡くれ。寝てる時以外』
クサいセリフを残した会話で、暫く二人の交流は途絶えた。でも、絆が切れることはないと確定したモノだった。
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その後、シェインはロビーに全員を集結させた。彼自身から並々ならぬ雰囲気を感じ取り、真剣な話し合いになるだろうと予測された。座ったところでシェインが口を開いた。
「皆、集まってもらってありがとう。今日は重要な話があるんだ」
いつもはふざけるアヤコやカネコウもこの時ばかりは真剣だった。受付の方で彼らをレキナは見守っていた。
「今、ミナミは変革しかかっている。看板を見たかもしれないが、〈Plant hwyaden 〉という一つのギルドに全てを集約することで、冒険者のみならず大地人とも格差や差別の無い平和な場所を作る。そういう建前だが、多くの軋轢を生むだろう。いずれ混乱するだけだ。俺は皆と居場所を作りたいんだ。その為にお願いしたい。ミナミを出て、アキバに行かないか?」
都市間トランスポートゲートもない。一度も渡ったことのない道を通る。それには適したレベルではないのかもしれない。話を聞いていた3人とも俯いたままだった。それを知った上でシェインは言葉を続ける。
「俺は皆と一緒に行きたい、来て欲しいんだ」
「当然じゃないですか」
笑い混じりに答えた声があった。仲他のだ。
「あのPKの時から、俺たちはシェインさんに命預けたようなもんですよ。なんでも言ってください。運命共同体ですよ」
そに続いて声を上げる者もいる。
「シェインさん、クサいセリフ過ぎますよ‼︎どーんと頼ってください‼︎」
「それで拒否するほど根性ねじ曲がってないっすよ」
「あの!」
無意識からの声で4人は出処の方を向いた。そこにいたのはレキナだ。
「私も連れて行ってくれませんか?私は冒険者より非力ではありますが、仲間に入れて欲しいのです。お願いします!」
シェインはキョトンとした顔で言葉を返した。
「もちろん。レキナさんみたいな頭良い人が来てくれるならありがたいよ」
「ありがとうございます!」
気にしなくてもいいのにと思うが、レキナは深々と頭を下げた。メンバー登録が済んだところで、シェインは提案をする。
「まず、やらなきゃな」
「何をですか?」
「逃亡計画」
丁度いい長さができたかなと思います。無事に逃がせられるかな??