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ログ・ホライズン Previous flash  作者: コネスト
ミナミ・アキバ縦断
5/13

人は死の間際になってはじめて、 本気で生きてこなかったことに気づく

アメリカの作家、ヘンリー・ディヴィット・ソローの言葉です。生と死って人間の根元にあるものだと思います。そう考えてみると自分のクヨクヨした気持ちってどこかへ吹っ飛んじゃいますよね。

「やめろ‼︎」

頭で考えるより、口がその言葉を先に発した。それに気づいたのか、初心者を追い詰めていた男はシェインの方を向く。

「なんだよ、アンタ」

「なんだ、じゃねぇ。PKなんてするもんじゃない」

シェインに言える精一杯の言葉だった。〈大災害〉以降、訓練は積んできたが、現実で喧嘩もあまりしたことの無いような青年では、思うように体が動かない。

「理由があるんだよ。こんなの作業だ。何回もやってる」

ステータス画面には、「玲央人 」という名前が表示されている。強力そうな装備を身に纏っている。

作業という言葉に聞きづて成らなかったのか、怒りを募らせるシェイン。すると、玲央人は全体をシェインの方へ向け、宣言した。

「レベル90か。そろそろ初心者殺すのも飽きたし、そいつらの代わりにあんたにしてやるよ」

「上等だ」

シェインは安心していた。目の前の男の注意を自分に引きつけられてだ。3人の初心者は視線はこちら側に向きながらも、体は固まったように動いていない。限界状況の中の緊張だろう。彼らは安全なのだから、次は自分の心配。相手をなんとかして退かせる方法を考えていた。

(とりあえず、HPは半分ぐらいまで減らす。正直、殺したらどんなるか分からない。本当に死んじまったら大変だ)

目掛けて、杖を握りしめ、走る。持ち味のスピードに玲央人は多少うろたえたように見えたが、素早く表情を切り替えて武器を構えた。人と人との戦闘が始まった。

(セオリー通り、近距離で弱らせてから大技をぶつける!)

〈サンダーボルトクラッシュ〉を「突く」で発動させる。ボクサーのパンチのような挙動。その一閃は胴体にヒットしたように思えたが、即座に玲央人は避けていた。

「⁉︎」

内心焦るシェイン。モンスターとは勝手が違う知能を持った敵に、苦戦を強いられることとなった。

「近距離なら〈盗剣士〉に〈妖術師〉が勝てる訳ないだろって‼︎」

玲央人はかわした瞬間に、両手に一本ずつ持った剣で切り裂く。〈ヴァイパートスラッシュ〉、命中率を低下させる特技が出血を発生させる。シェインは立ち眩みがしたかのように仰け反るが、〈サンダーボルトクラッシュ〉を続けざまに発動させて、あらゆる角度から攻撃を試みる。しかし、それらは回避や武器同士の激突で効果を発揮せず、大したHPの増減には影響が出ない。

「あんた、ワンパターン過ぎだよ。さっきの言葉を思い出せ」

玲央人の口車に乗せられたかのように、後方へ距離をとる。戦いの場は、最初の所では留まらなかった。二つの影が、木々を駆け抜けていく。次に取った作戦は、〈魔人〉の特性を生かした遠距離攻撃に移っている。〈ライトニングチェンバー〉で動きを止めようとするが、避けられるばかりだった。

(クソッ、避けられるばかりで攻撃してこない。何が狙いだ?)

ふつふつと沸き上がる疑問の感情に終止符を打つ、玲央人も攻撃を始めた。2本の剣が振るわれ特技が炸裂する。どれも威力は低いが初動が早い。シェインの回避で追いつけるほどではあるが、確実に蓄積されつつある何かが見える。「追加ダメージマーカー」だ。特技の付属だけでなく、〈オープニングギャンビット〉で隙あらば貼り付けている。どこかしら余裕を見せている戦いだった。

「いや〜、頑張ってるなー。でも、もう終わりだよ。自分の体をよく見ろ」

シェインの体には大量のマーカーが貼り付けられていた。彼はそれに気づかずに戦っていたのだ。ギリギリに近い精神だった事が伺える。

「何?もう遅いよ。〈ブレイクトリガー〉」

数多の爆発。付着したマーカーが一斉に起爆し、シェインのHPを削っていく。その場に倒れこんだ。MPは充分にある、事実上は戦える。だが、心は戦いを恐れていた。

(ちくしょう、ちくしょう‼︎ふざけんなよ。なんであんな奴に負けなきゃなんねんだよ。悪人が勝つなんておかしいだろ。でも、体は動かない。オレはもう、何が何だかわからないのに)

側から見て、勝敗は決しているように見えた。玲央人が最後の捨て台詞かのように言葉を吐き出した。

「あんた殺していいなら、あのチビ共生かしてやってもいいけど。どうする?あ〜、死ぬの怖い?大丈夫、シブヤで初心者殺した時は大神殿で復活したから。〈冒険者〉は死なないんだよ」

突然、シェインの頭の中をイメージが駆け巡った。初心者を助けるだのという綺麗事は何処かへ吹き飛んでしまった。自分の目の前で、何十人もの〈冒険者〉が死んでいる光景が浮かび上がる。胸の中が何故か興奮に包まれ、口から出た言葉は、自分のものであり、そうでなかった。

「ぶっ殺す」

玲央人の目の前にシェインは急激に接近していた。彼の目付きは今までとは違う、グロゲーをプレイして大笑いしている様な、歪んだものだった。

「速っ」

最後の悪あがき程度に見くびっていた玲央人に、腹部へと無理矢理杖を叩き込む。以前の近距離攻撃を使うパターンではない。〈サーペントボルト〉を発動させて、そのまま後方へ吹き飛ばした。さらに接近して一太刀二太刀と、コンボを加えるようにダメージを与えていく。一切反撃をする暇を与えない。

(さっきと別人かよ!)

玲央人が考えた瞬間に一瞬の隙が生まれた。剣を一本、シェインに走らせる。しかし、それもかわされ、また一太刀入れられた。攻撃すれば避けられ、再び攻撃される。その繰り返しのみだった。

「クソ!当たれ、当たれ当たれ当たれ‼︎急に強くなってんじゃねえよッッ!」

その無闇な行動が敵に隙を作るのが分からないのか、弱者ばかりを相手にしていた影響か、ズタボロに弄ばれている。HPは気づけば赤ゲージを切っており、あと一歩で死亡する程だ。もはや戦闘というよりは、抵抗や悪足掻きという言葉が似合う程の情景である。玲央人の表情のやつれ具合も相当なものになっている。

「優しく焼き殺してやるから、じっとしてろな」

何処からともなく声が聞こえた。HPのせいなのか、正常に聞き取ることもできない。その後すぐに、体は光の泡になり、天へと消えていった。

シェインは、しばらくその場所に突っ立ていた。目の前の現象はわかる。だが、自分の中で何が起きているのかは飲み込めなかった。怨念のこもった声、フラッシュバック、なにより自分でも思う不気味な笑い。興奮を覚える殺意が身体中を巡っていた。でも、勝ったのだ。あの初心者の3人組を守りきったはず、それだけで体を張った甲斐があったものだと。もやもやが吹っ切れた様子で辺りを見回すと、近くにはあの3人が心配そうに、こちらを見ていた。シェインは彼らに歩み寄るべきだと判断した。

「君達、怪我はない?大丈夫かな」

3人は少し怖げな表情で、彼を見ていた。もしかしたら、先刻の戦闘を見ていたのかもしれない。しかし、ニッコリと微笑んだシェインは、気さくに話しかけた。

「いや、ゴメン。ちょっと感情が高ぶっちゃって。でも、俺は君達の味方だよ。心配しないで」

優しい言葉をかけたからか、3人の目から涙が溢れ帰ってきた。

「あ、グスッ、ありがとうございます」

「すごい怖かった」

「本当に、感謝いたします」

十人十色の挨拶を受けて、しどろもどろになるシェインだが、すぐさま気を取り直し、彼らへの提案をした。

「君達も、ミナミからここに来たんだよね。雨はもう上がったけど、もうちょっとで日が沈む。俺が送っていくよ。君達の家とかはある?」

その質問には何も返ってこなかった。もしや、と思うと別の質問を発する。

「もしかして、ホームここじゃない?」

「はい・・・」

道理でこんなゾーンにくるわけだと思った。別にホームがあるなら混乱するわけだ。それなら、思い新たな提案。

「なんなら、ウチくる?」

〈大災害〉から3日目。やっと仲間ができて、一安心する男がここにいた。

戦闘シーンって難しい。もうちょっとタイトに書きたいので、もっと文を読んでいこうと思います。前回から感じていましたが、内容を長く濃密にしたいと考えていたので、いい感じかなと。どんくらいが長文の目安なんですかね?

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