人生とは、今日1日のことである
アメリカのビジネスセミナー講師、デール・カーネギーの言葉です。人生は1日1日が重なって出来てるものなんですね。そういえば、書き忘れましたが、前話でトイレトイレ書いてすいません。もっと工夫すればよかった(が、直さない)
「んぅ・・・」
少年は自分の体に起きている出来事を確認できなかった。全身が強い水の流れに打たれたように痛み、手足の感覚がうまく働かない。話すこともままならない。金縛りにあったように寝そべっていた。かろうじて感覚は生きており、ぼやけてはいるが、光が目でキャッチできる。
(やけに明るいな。この光はLEDか?)
段々と焦点が合ってくる。映り込む光は、電球程度のそれでは無かった。太陽だ。真昼のようにさんさんと光が降り注いでいた。
「太陽、何で?俺はあいつの家にいて、確か日付が変わる時までゲーム見てて、変な文字見た途端に意識が・・・」
いつの間にか口で喋り、感覚が蘇ることで体を起こした。今いる場所は友人宅ではない、外だ。しかも、グラフィックが現実とは大違いだった。
ゲームの中だ。そう認識せざるを得ない程、リアルじみていなかった。
「〈エルダー・テイル〉の中なのか?」
その考えには疑問があった。現代文明の技術力をもってしても、このようなトリップを再現できるはずがない。とにかく、目の前に起きたことを説明することはできなかった。さらに、気付く頃には周りから人の声が聞こえた。
「なんだっ、なんなんだ⁉︎なんで、なんでなんでゲームの中」
「おい、どういうことだコールすっぞ‼︎オイ!」
「ハハッ、イーーーヒィッヒクカカッカカカカコ」
どこもかしこも君悪く、叫ぶ者、打ちひしがれる者、自分と同じように考え込む者、とにかくたくさんの人がいた。自分と同じように、目覚めたらここにいたのだろうか。仲間がいれば心強いことはないが、助けてもらえるという状況ではないことだけはわかる。自分でやるしかないのだ。
「まず、どうしようか。ゲームでおなじみのステータスとかは確認出来ないのかな?」するにも、何をしたらいいのかわからず、ムムっと念じてるようにしてみた。
(ステータス出ろー。ステータス出ろー)
念じたおかげかは知らないが、彼の目の前に画面が表れる。そこには様々な要素が詰まっていた。意識を集中させて、消したり出したりを繰り返してみた。
「名前は、シェイン。ああ、アイツが設定していたキャラネームか。俺はアイツの名義になってるんだ」
その他の文字も読み取ることが出来た。シェインは、ソフトそのものは持っていないのに、攻略本を買って楽しんでしまうタイプで、友人のプレイを見るのが楽しいという気質だった。そのため、気になっていた〈エルダー・テイル〉もサイトで、基本的な情報には目を通し、具体的な情報は掴んでいるつもりだ。その中で、アイテム所持、銀行貸金庫、諸情報を追っていくうちに、ログアウトの項目は無いことを認識した。
(脱出は、出来ないっと)
薄々感づいてはいたが、今のところは諦めることにした。次に、フレンドリストを開くと、そこそこな人数の登録があった。
・紫陽花
・キヨハチ
・クオン
・こっつぁん
・サリー
・ロデリック
などなど、多種多様な名前で、以外にも多くの人がフレンドだった。聞いたことあるのは、〈百識艦長〉キヨハチと〈妖精薬師〉ロデリックぐらいだったが。シェインはすぐさまにリストを閉じた。
(実質、初めて会う人同然だもんな。連絡はあっちから来たら、自分の詳細を話せばいいし、一人でやってみよう)
そう思い立つと、シェインはエリアをグルッと歩いてみることにした。
廃墟が並び、何かの店やらが建ち、どこか夢に見たような心をくすぐるような気持ちが溢れ出るようだった。反対に、雰囲気はピリピリと張り詰めていた。そんな情景を見渡した後、どっとした疲れをシェインは感じた。時間が経つのは早く、空は黒く染まっている。
(ゲーム内の時間の流れは凄く短いらしいが、明らかに24時間には伸びてないか?それにしても腹減ったな。もう夜だし、宿に泊まるか)
そうすると、近くの小綺麗な宿が目に止まり、宿泊先が決定した。
とりあえず、空き部屋を見つけるため、受付嬢の女性に尋ねることにした。
「あのー、すいません」
「えっ、はい⁉︎」
受付嬢は驚愕の表情を浮かべ、シェインをじっと見た。
「空き部屋を探しているのですけれども、ありますか?」
「ええ、全部屋空いておりますが。ここは一泊しか借りられない制度ですので。部屋はこちらで選んでも?」
丁寧な口調で話してくれている女性は可愛らしい人だった。ステータスを確認してみると、
〈レキナ 宿屋/二級市民 ヒューマン〉
思わず見とれてしまう感じだ。しかし、そうしてばかりはいられないので、了承し、指定された部屋へ入っていった。
部屋は整えられており、止まりやすい環境になっていた。テーブルがあるので荷物を降ろし、腰に吊り下げられた鞄から食えそうなものを取り出した。緑茶、チキン料理、リンゴ。この二つしかなかったが、空腹を満たすには十分と考え、一気にチキンにかぶりつく。
「いたただきます?」
無味無臭、肉とは言えない食感が口内を駆け巡る。おいしくないの一言が、脳をよぎった。次に緑茶を試すが、これも温かいものの水道水のような味がした。最後にリンゴにかぶりつくと、今度は味がした。
「調理されたものには味がしなくて、されてない果物には味がするのか。ベジタリアンだなこりゃしばらく」
他の冒険者に比べて切り替えが早いのか、なんなのか。野菜と果物しか口にしないと誓ったようだ。 億劫な気分になりながらも、寝床に着いた。
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1日経ち、ベッドから起きても、そこには変わらない景色が広がっていた。服(装備)は一着しかないため、そのまま寝たが、これといって匂うわけでもなく、昨日よりも清潔な感じがした。
(これが、冒険者の体か。便利なのか面倒くさがりなのか)
思考を巡らせつつ、出入り口まで歩く。そこには昨日と変わらず、受付嬢のレキナが立っていた。マナーとしてシェインは挨拶をしてみた。
「おはようございます、レキナさん。お仕事始めるのお早いんですね」
「えっ、んっおお、おはようございます 」
昨日と全く変わらない態度にシェインは些か疑問を感じたのか思い切って尋ねてみた。
「なんで、そんなにわなわなしてるんですか?」
「ひぃ!いいいや、すいません。冒険者様と話すの、えっと、初めてで」
初めて、という言葉に耳を疑った。この宿は〈ノウアスフィアの開墾〉で新たに設置されたものなのだろうか、この女性はそれよりは前にいたのだろうか、という疑問が交差し、ともかく質問をせねばという信号を脳が提出する。
「昨日ぐらいからこの宿は営業を始めたのですか?」
「いいえ、何年も前からありますが」
アップデート云々の話は無くなった。そうなれば、彼女に対する質問をぶつけるのだった。
「前から、僕たち冒険者は大地人の皆さんと話したりはしていなんですか?」
「はい、あまり無いですね。いつも皆様無表情で最低限のことしか喋りませんでしたよ」
仮に、この世界が〈エルダー・テイル〉の中だろうとしたらあり得る話だった。自分たちはモニター越しにいたし、NPCと会話する昨日は無かったのだから仕方ないと納得しかけたが、自分の一言に引っ掛かった。
(NPCか。でも、実際この人とはこうして会話しているわけだし、マシーンという捉え方は違うな。同じ命を持った生命として対等にあるべきなんだろう)
黙々と自己解決を繰り返すしていて視線が不思議なことになっているシェインにレキナは恐る恐る声をかけた。
「あの、宿の契約は1日延長いたしますか?」
「あ、はい。お願いします」
「それと・・・」
何かを言いたげな彼女は口をごにょごにょさせ、数秒後にやっと声を出した。
「なんで私の名前を知っているのですか?」
「?それは目に意識を集中させると画面が出るじゃないですか。それでどんな人のステータスも見れますよ」
「冒険者が行う、空中で指をすくう動作のことですよね。詳しいことは存じ上げませんが、私達大地人はそういったことはできなくて。でも、その〈すてーたす〉で私の名前をご確認なさったのですね」
納得と満足した気なレキナは「お気をつけて」と言い、シェインを見送った。シェインは宿屋を出ると、ミナミの街の外を見た。疲労の為前日は気付かなかったが、この宿屋〈ループス〉は街と外部のゾーンの境界に最も近い場所に位置している事が判明した。日常生活に必要な動作はほぼ済ませた。次に体感すべきは戦闘である。外で食べるための野菜と果物を買うため、シェインは八百屋みたいな店を探し始めた。
普通の日常だけですね。次は戦闘入れます。そして、「〈百識艦長〉キヨハチ」とは誰ぞな。