君は君 我は我也 されど仲良き
小説家、武者小路実篤の言葉です。人は他人には決してなれないけれども、どこか繋がっている存在です。
〈Squad〉はツンドラ系お姉さんの秀才数学者の休日が加わったことによって、さらなる活気を得た。相変わらず男性陣はビビりきっているものの、特に関係がどうのこうのなるわけでも無く、平穏な日々を過ごしつつある。最初の頃あんなにギクシャクしていたように見えたのに何故かと聞かれれば彼女の生活習慣が原因なのだろう。
「はい、今日は肉ですよ肉。さっさと食って辛い事は忘れろ‼︎」
空は夜。建物から様々な光が見えるため決して暗いわけではない。家の中は明るくてアットホームというやつだ。どんなモンスターのものかもわからない肉を焼いていくアヤコ。
「あ、レキナさん。レタスとトマト運んでください。カネは皿」
「わかりました」
「うーい」
ここでもチームワークは活きている、と言わんばかりに、組み合わさるように準備は進んでいく。あとは食べるだけだ。
「はい、いただきます」
「「いただきます」」
合図はその日によって勝手に誰かがやっているらしく、特に取り決めはない。大体は仲他がやらされているようだが。
「そういえば、シェインさんは?」
アヤコが唐突な質問をする。ここ数日、シェインが食事に来るのが遅い。部屋に行ってみると念話をしている様で、一緒に食べられないというのもあり、少々寂しかったりする。
「フレンドリストに登録されてる人に片っ端から念話かけてるらしいよ。ギルドに引き込むためらしい」
仲他の的を射た質問にアヤコだけでは無く、他の仲間も納得する。
「秀才さんを入れられてから急に自信に満ち溢れてきたもんね」
「落とせそうなのは3人ぐらいらしいそうですね」
「じゃあ、パーティー戦ができるくらいかー」
仲間が増える事に彼らは抵抗がない。むしろ増やして欲しいぐらいだ。なぜなら、ただでさえ部屋数の多いギルドハウスの空き部屋がすっからかんで怖いからである。さらにここはゲームの世界。幽霊が出てきましたとか言われてもおかしくない。食事中に怪談を話すメンタルの図太さは無いので、自然と明るい傾向に沿っていったが。
「・・・おはよー」
ヤツが来た。
「あ、おはようございます。秀才さん。晩御飯できてますよ」
「あー、うん。食べるわ」
寝巻きに気だるげな表情、目の下にくま、それなのに髪はサラッとしている未成年であろうくせにひなびた雰囲気の女性こと、秀才数学者の休日が食卓に向かってくる。
「「ヒッ」」
思わず萎縮してしまう仲他とカネコウ。ちょっとでも目を合わせようものなら殺されそうで怖い。しかし、当の本人は気にするそぶりを見せず、肉をつついて口に運んでいる。
「1日の最初の食事が肉とはね」
「じゃあ、朝からちゃんと起きてください!」
「吸血鬼と数学者は朝に弱いの」
「もう、昼夜逆転してますよ」
彼女のサブ職業〈吸血鬼〉は日中ステータスが大幅に下がり、〈大災害〉後には日光を浴びると体がだるくなるという症状が確認されているが、こちらは間違いなく言い訳だろう。吸血鬼が朝に弱いのは知った事だが、数学者が朝に弱いというのは主観に違いない。秀才は、作っていただけるだけ感謝し、思い肉の味を噛み締めていた。噛むことによって脳が活性化し冴えてきて、目もはっきりしてくる。くまも消え、出会った頃の彼女に戻っていた。
「そういや、アイツは?」
「シェインさんですか?今、念話してるそうです」
「そう、あと3日は顔を合わせ無くていいわね」
「照れ隠しですか?名前で呼べないとか、このこのー」
うまい具合な罵倒のコンビネーションは初日以降ずっと続いているらしく、ここ最近は無いにしても生活の一部と捉えられてしまっている。
「やあ、皆。待たせてすまない」
やけににやけ顏のシェインがドアを勢いよく開けて入ってくる。秀才のさっきに押されていた男たちの顔にも笑みがこぼれる。このギルドで秀才とまともに話せる男性はシェインしかいない。そして、秀才は彼を見るや否や言い放つ。
「今日の占いは最下位ね」
「オイ、俺の喜びを察してくれないってのか」
「もー、また火花散らさないで下さいよ、お2人さん」
睨み合いは会うたびに続いている。大抵は秀才の方から吹っ掛けてくるもので、すぐさまシェインが応戦という形だ。まともなコミュニケーションが取れた試しが無い。
「あなたの笑顔なんて醜いもの見たく無いし、あなたが喜ぶほどの事なんて、どうせ下衆な案件でしょうし」
「よし戦争だ。それに、この件はギルドに良い影響を与えるんだ。下衆では断じて無い」
口では言い争っていても熱戦に発展する事は無い。東西冷戦を彷彿させる緊張状態とまではいかないが、周りは気が気でいられない。ここで、大人のレキナが仲裁を入れるのがお約束となっている。
「はいはい、秀才さんも起きたばかりですしね?それよりも、シェインさん。良い影響とはどういう意味でしょうか?」
終末時計の針はなんとか遡った。やはりレキナは人を落ち着かせるのがうまい。シェインは意気揚々に結果を伝える。
「いや、とりあえず脈アリな3人に念話したらさ、1人にアポ取れたんだよ。男だった気がするだけど。で、な、明日会う事になった」
「おお、それはおめでとうすね」
「し、しゅ、秀才さんに続き、新しい仲間になってくれますかね?」
復活した仲他とカネコウも話に参入する。秀才に押され気味だが。
「それにしても、3人かけたのに1人しかコンタクトできなかったの?死ぬの?」
「ぐ、それは・・・」
シェインは非常に言いづらそうだ。
「残りの2人に、着拒されました」
「ハッ、無様ね」
「・・・何とでも言え」
シェインでも着拒された事には堪えたようで、心の傷を抉られている。アヤコは何とか引き戻そうと彼を諭す。
「でも、でもですよ!1人でも収穫があったんですから、それで良しとしましょうよ。ね⁉︎」
こうして、夜は更けていく。
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次の日の朝。シェインはいつもの装備ではなく、比較的シックな格好で出たっていた。彼のこだわりが伺える。この世界で思い切り羽を伸ばしいてる感じがするように。
「じゃ、行ってきます」
昼夜逆転の秀才を除く仲間に送られて一つの戦いに向けて進撃する男がいた
アキバに位置する、屋台町横丁。ここでは様々な露店が出ており、食事からアイテムまで、色々なものが揃っていた。それ故に人の往来が激しい。シェインは眼に神経を集中させ、ステータスバーを表示させ、大雑把に周囲を見渡す。コミュニケーション能力の欠如、秀才の言う事はあながち嘘ではない。逐一吠えるが、まともな事は言う女だとは思った。しかし、いくら見ても目標の相手が現れない。雑音が気になるが念話してみるか、と彼が思った時だった。
「おーい、聞こえるかー」
ひときわ大きい声が響き渡る。手を振りながら叫ぶ男がそこにいた。自分が探していた人物なのだろうか、遠くてステータスが確認できない。シェインはかい潜り接近した。
ガタイがあり、30手前の顔立ち。赤い鎧を着ていて、男らしさを感じた。別にアッーな意味ではない。
「あ、どうも。わざわざありがとうございます、こっつぁんさん」
「こっちの世界に来てからは初めて会ったけど。どうしたの?」
シェインは、しまった、ばかりに自分の失態に気づいた。自分は彼と初対面だが、彼は自分の顔そのものは知っているのである。いつもなら説明している所だが、今回は後回しだ。この男を落とすことに心血を注ぐ。後でいくらでも言うことはできるのだから。
「いや、特に。立ち話もなんなので、あのベンチにでも座りましょうか」
「?おう」
かなり接続性のないワードでこっつぁんを引き込む。座った所で、シェインは話を切り出した。
「まず、聞かせて下さい。こっつぁんさんはギルドに入っていますか?」
「そうだね、僕はここ最近、1年前からソロやってるけど。もしかして」
こっつぁんは若干めを細め、ある程度予測していたかのように返事をした。
「はい、俺の所属するギルド〈Squad〉に入って頂きたい」
こっつぁんが黙り込む中、シェインは説得の言葉を紡ぎだしていく。
「現在、俺たちは5人で活動しています。レベル90が俺を含め2人、残りの3人は初心者です。どちらかと言えば、ギルドというより居場所みたいなものかもしれません。ですが、何か事業に参入したいというのもあります。そこで、こっつぁんさんのようなレベル90の熟練者から俺たちをサポートして欲しいんです」
シェインは自分の言いたいことはすべて言い切ったつもりだった。こっつぁんの表情を見ると、話を呑み下して思案にふけっていた。やがて彼は顔を上げてシェインの方を向いた。
「あのさぁ」
それは当然の答えだったのかもしれない。
「俺にメリットある?」
「っ、」
「君はお願いばかりしているんだよ。相手の都合を考えていない。それにね、ソロやっているってことは仲間がいないって訳じゃなくて、自ら進んで一人になってるってことなんだぜ?」
シェインの行動が裏目に出た。見くびっていたのだ、彼のことを。押し切ればどうとでもなることではないのだ。この場合は少々こっつぁんが大人気ないのだが、Sっ気があるのだろうか。シェインは逆に黙りっぱなしになってしまう。
「・・・」
(ちょっと、やり過ぎたかー?からかったつもりだったんだけどな)
「話はこれだけかな?だったら帰r「シェインとこっつぁんじゃん。お久」
呼びかけられた2人が振り向くと。前方には女性が2人立っていた。1人は魔女みたいな、もはや魔女っぽい服装の長髪でストレート、名前はサリー。もう1人はダークな色合いに軍隊のワッペンやらロゴが付いている装束を纏ったポニーテールの女性、名前は紫陽花だそうだ。どうやら彼女らはシェイン、さらにはこっつぁんの知り合いらしい。
「ったく。アンタ身内はいじらないんじゃ無かったっけ?」
随分と姉貴分な口調で、サリーはこっつぁんに問う。どうやら、彼のシェインに対する言動を少しばかり聞いたらしく、擁護してくれるようだった。オカンである。
「いやぁ、だってさ。彼は外見は今までと同じでも中身は別人だよ?だよね」
こっつぁんは最初から見透かした上で接していたのだ。シェインはなんとなく肯定するしかなかった。
「仮説だけど、前のシェインの友人だろう。トイレに行ってたらから代わりにやってたとか。アイツ大事な局面になる度に腹壊すから」
ここまで予想されているとなると手も足も出ない。どうやら、相当話し合ってはいけないような男だったようだ。
「そっかそっか。じゃあ・・・お前ら」
サリーの周りの空間が捻じ曲がったように錯覚する。それほどの恐怖感を2人に植え付けた。大体はこっつぁんの原因なんだろうが。
「シェインの中身から今の状況まで、洗いざらい全部話せや」
「「はい」」
圧倒的力の前に一致団結させる程、やはりオカン。それにしても、隣の紫陽花は何も喋らない。余計に怖い。
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説明中
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「こっつぁん」
「・・・へい」
「土下座」
シェインの方を向けて、彼は謝罪させられてしまった。気にしないで、とは言っているものの。
「でさー」
「へい」
「あんたはどうしたいの?」
「どうしたいのとは」
「シェインのギルドに入りたいかどうかって聞いてるのよ‼︎」
流石のこれにはシェインも、強制はしなくて良いですよ、とアイコンタクトを送っているが、サリーは見向きもしない。
「はい、入ります」
「言ったわね!シェイン、言質とった⁉︎あ、ボイスメモもスマホもないんだ」
「実際、面白そうだと思ったので、はい」
とりあえず、こっつぁんはギルドに入るようだった。さらには、監視と称してサリーと紫陽花も入ると言い出している。願ったり叶ったりだが、何か引っかかることがあった。
(サリーと紫陽花って名前聞いたことあんな)
いまいち流れが出来ないまま、ことは彼の目の前を過ぎ去っていくばかりだった。
一気に仲間をスカウト出来たシェイン。紫陽花さんなんか喋ってください…ん、戦闘シーンがないって?大丈夫だよ。もう少ししたらどデカくて美味しいヤマがあるじゃないか、ね?