砂漠は凍えそうに寒かった
「うう、寒い……」
さらさらとした砂の上を滑りながら必死で足を動かす。
ヒールの高いサンダルを履いているので足の間に砂が入り込んできて気持ちが悪い。
オマケに凍えそうなほど寒い。
私は普通の女子大学生なのだ。
夜の砂漠を旅するなんて初体験なのだが、ちっとも楽しくない上にこんなに寒いとは思わなかった。
そんな旅のお供はというと、
「五月蝿いぞ。連れて歩いているだけでもありがたく思え」
偉そうな金髪の少年と
「砂漠を抜けるにはまだかかります。この砂漠は広いですから、はぐれないように頑張ってくださいね」
言葉は優しいのに態度がちっとも伴わない男前なのだ。
眼福ではあるが、こっちはなれない砂地を歩いているのに、馬上から見下ろされると腸が煮えくり返りそうになる。
しかしながら少年の言うように、連れて歩いてもらえるだけでもありがたいといえばありがたいので、文句なんて言えるわけもない。
黙って彼らの後を追いながら歩く。
砂地に足を取られてこけたりもするが、こけ切る前になんとか体勢を立て直す、それの繰り返しだ。
全身はほぼ砂にまみれていて、足は豆がつぶれた場所に砂が入り込む。
頬にかかる髪の毛を後ろに払いのけると砂を被ってばさばさになっていた。
意地と気力だけで歩き続ける私はもはや寒いなんて口にする余裕もない。
無言で延々と続く砂地を転がるように歩き続ける。
前を行く二人の背中が遠くて、目の前がぼんやりと霞むが足だけは止めないようにと奥歯を噛み締めた。
「――い」
足が、痛い。
「お――」
血の様な匂いがする喉は砂っぽくてひりひりする。
「おい!!」
大音量で一括されて驚く私の肩を何かが掴んだ。
振り向くとそこには少しばかり砂を被ってはいるが金色の少年がいた。
外見は美しくとも中身のアレさがにじみ出ているので、間違っても天使なんかには見えない。
天使ではないが理由はどうあれ、現状をつかめていない私を旅に同行させてくれている恩人でもある。
「今夜はココで野営する」
「え……野営?」
少年の口から出た思わぬ単語に思考が停止する。
停止する、というか、頭がぼんやりとして何も考えられなくなっていた。
目の前の少年の顔も良く見えない。
「そうだ、ようやく砂漠を抜けたからな」
「―――さばく……ぬけた?」
耳まで悪くなったのか声が酷く聞き取りずらい。
自分がどうしたのかわからなくて、でも、少年が眉根を寄せるのが見えたから必死にそちらを見ようと思ったのだけど。
踏みとどまれば踏みとどまろうとするほど体がふわふわと宙に浮いて、妙な感覚に舌の奥が、じんと痺れたと思うと手足が急に重くなる。
「寝ぼけているのか貴様」
フィルターがかかっていてもそれとわかるほど、苛々と言い捨てる少年と私の間に白い布のようなものが割って入った。
「疲労が極限に達しているのでしょう。砂漠のあの距離を歩くのは男だって難しいのに大したものです。目が虚ろになってますが、野たれ死なないだけマシじゃないのでしょうか……」
まだ、彼はら何か言っていたような気がするがそれを聞き取ることは出来ず、私の意識は闇に沈んだ―――。