プロローグ
空には見事な月がぽっかりと浮かび、薄青い闇と数え切れない星達の下で金色の砂塵が舞い上がる。
空気は冷たく肌を刺し、舞い上がった砂粒は視界を閉ざしてその幻想的な光景をよりいっそう引き立てる。
が、今の私には忌々しいただの砂粒と変わりない。
「―――はぁ、は……ぁっ!……っつぁ…!!」
ひやり、と背を汗が伝い、苦痛に唇が歪む―――細かい砂利に足が取られて足首をひねってしまった。
それを知覚しても私は足を止めることなく走り続ける。
狂ったようにただただ悪道を走る。
冷たい夜空の中、暴れ狂う体の手綱を取りながら
私は必死に白と金の後を追う。
振り返った彼らは微塵の躊躇もなく先ほどそうしたように、私に向けて身の丈以上ある凶悪そうな黒い鎌を突きつけた。
「あの、……私、悪意があってあなた達を追ってきたわけじゃありません。
ただ、巻き込まれてしまったというか……だから……その……!」
言葉が出てこない私に少年は見事な金紗の髪をかき上げ、言い捨てる。
「ならば私を追ってくる理由もないのだろう、去れ。目障りだ」
隠そうともしない威圧感を前面に押し出した少年の感情を感じない機械的な視線と言葉を受けて足がすくむ。
それでも、ここではいそうですかと引くわけにはいかなかった。
私は彼らの争いに巻き込まれてしまったのだ。
逃げる彼らを追いながら国外れの砂漠らしきところまで来てしまった。
今更あそこへは帰れない。
彼らにしてみれば追っ手をまいたかと思えば見知らぬ女がついてきてしまったのだ。
いい気分はしないだろう。
寧ろ、彼らを襲った連中のように殺されても可笑しくない。
なんとかしなくては、と思うのだけど、いい言葉が浮かんでこなかった。
と、金髪の少年と従者らしき男の視線が私のある一転に集中する。
―――本、だ。
「その本を何処で手に入れた。答えろ」
「アルデンシア様。女性はもっと丁寧に扱わないと。
……それで、何処で手に入れたんです?その魔術書を」
柔らかな色合いの蒼瞳の従者が剣を片手に問いかけてくる。
顔は笑っているものの―――目が笑っていない。
いきなり大ピンチ!誰か、助けて……。
祈れども無神論者の私を助けてくれるような都合のよい神などいないだろう。
私は厳しい金の瞳の偉そうな少年と、柔らかな蒼色の瞳で見守ってくれてはいるが
ちっとも助けにならない従者さんの視線を一身に受けながらコトの顛末を語った。