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第17話 失敗作

海上空域へ緊張が張り詰めていた。

黒いGDはゆっくりアルタイルへ接近してくる。

その動きには無駄が無かった。巨大な機体なのに、妙な静けさがある。

まるで獲物を確かめる捕食者のようだった。

カイトは息を荒くしながら操縦桿を握る。

頭痛が酷い。アルタイルと繋がりすぎている。

それでも、不思議と恐怖だけは薄れていた。

代わりに機体側の感覚が流れ込んでくる。

敵の動き。推進の癖。攻撃軌道。

「……また勝手に」

カイトが顔をしかめる。アルタイルはまるで、この敵を知っているみたいだった。

その時、黒いGDが再び通信を開く。

『X04』

『まだその機能が残っていたか』

低い声だった。

感情は薄い。だが、その奥には奇妙な執着があった。


「お前……何者だ」

返答はすぐ返ってきた。

『GD-X01』

『コードネーム、ネヴァ』

艦橋側がざわつく。

『Xシリーズ……!?』

『GD側にも試験機が!?』

エルが高速で端末を操作している。しかし一致データは出ない。

完全な未確認機だった。その瞬間、ネヴァが動いた。

海面を蹴り、一気に加速する。

「っ!」

アルタイルが反応する。白と黒の機体が激突した。

衝撃波で海面が割れる。しかし、次の瞬間にはネヴァの拳がアルタイルの腹部へ叩き込まれていた。


「がぁっ!」

カイトの身体へ直接衝撃が返ってくる。

重い。単純な出力が異常だった。アルタイルが吹き飛ばされる。

そこへ追撃。ネヴァが再び加速する。しかし、その前へ白い閃光が割り込んだ。

レヴァン。ユイ機だった。光刃がネヴァの腕を受け止める。

火花が散った。

『カイトから離れて』

ユイの声は低かった。怒っている。カイトは初めてそう感じた。

ネヴァは数秒レヴァンを見つめる。そして静かに言った。


『PT-Y01』

空気が止まる。ユイの表情が凍った。


『やはり生存していたか』

その声に、今度は明確な感情が混じる。

観察。確認。そして――興味。カイトが思わず叫ぶ。


「PTってなんだよ!?」

だが返答する余裕は無かった。白いGDが再び上空から射撃を開始したのだ。

レヴァンが回避しながらネヴァを押し返す。

しかし、二対一。状況が悪い。

『羽崎!下がれ!』

ヴァンガード隊が援護へ入る。だがネヴァはその攻撃をほとんど無視していた。

実弾が装甲へ直撃する。しかし、わずかに火花が散るだけだった。


「硬すぎるだろ……!」

カイトが息を呑む。その時だった。アルタイル側モニターへ再びノイズが走る。《MEMORY LINK》知らない景色。

研究施設。ガラス越しに並ぶ白い機体。

そして。幼いユイ。誰かと口論する研究員達。


『X04は危険すぎる!』

『制御できない!』

『だからこそ必要なんだ!』

映像が乱れる。次の瞬間、巨大な爆発音が響いた。


「っ……!」

カイトが頭を押さえる。その異常を見て、ネヴァが初めて動きを止めた。


『記憶同期……?』

低い声に、わずかな驚きが混じる。その瞬間、ユイが叫んだ。


『カイト!意識を持っていかれる!』

はっとする。気づけば同期率がさらに上昇していた。《SYNC RATE:96》警報が鳴り響く。

危険域。普通ならとっくに気絶している数値だった。

しかし、アルタイルは止まらない。むしろ機体出力がさらに上がっていく。

白い光が装甲の隙間から漏れ始めた。艦橋が騒然となる。


『出力増大!』

『アルタイル制御不能になります!』

その時、白いGDのパイロットの声が通信へ入った。

『……やめて』

今までで初めて、感情が乗っていた。

白いGDが動く。ネヴァではなく、アルタイルへ向かって。


『それ以上は駄目』

その声を聞いた瞬間、カイトの頭へ流れ込んでいたノイズが、一瞬だけ揺らいだ。

『それ以上は駄目』

白いGDのパイロットの声が響く。白いGDがアルタイルの前へ出た。

まるで庇うみたいだった。その行動に、ネヴァがゆっくり視線を向ける。


低い声が、白いGDへ向けられる。

『任務を妨害するのか』

『……違う』

白いGDが構えを取る。

『今のX04は危険すぎる』

その瞬間、ネヴァ側通信に初めて別のノイズが混じった。

微かな呼吸音。そして、男の声。

カイトには、誰の声なのか分からない。

ただ、感情の薄い声だった。

『危険なのは元からだ』

だが妙に冷たい。


『アルタイル計画は失敗した』

『だから廃棄された』

『しかし、完全停止はしていなかった』

カイトが顔を上げる。

「お前が……ネヴァのパイロットか」

数秒沈黙が響いた。そして返答。

『GD-X01 ネヴァ専属管理者』

“パイロット”ではない。“管理者”。

名前は名乗らない。

カイトにはその違いの意味が分からなかった。だが、ユイの表情が険しくなったことで、それがろくな言葉ではないと理解した。


『……まだ研究所の真似事を続けてるの』

男は否定しなかった。

『PT計画は未完成だった』

『Xシリーズも同じだ』

『ならば継続するしかない』

その声には迷いが無い。まるで、人間より計画の方が重要だと言っているみたいだった。

その時、アルタイル側モニターへ再びノイズが走る。《MEMORY LINK》視界が揺れる。

白い研究施設。無数のモニター。培養カプセル。

その中に立つ黒髪の青年。無表情。白衣姿の研究員達が何かを話している。


『GD側同期実験、成功率上昇』

『適合値が安定しています』

『X01へ正式接続を』

その青年が、こちらを見た。次の瞬間、映像が切れる。


「っ……!」

カイトが頭を押さえる。

今のは、あの男自身の記憶だったのかもしれない。

そう思っても、確かめる術はなかった。


『記憶同期が進行しているな』

男の声が響く。

『やはりX04は未完成のまま残っていた』

ネヴァが一歩前へ出る。海面が沈む。

その巨体から放たれる圧力に、ヴァンガード隊が後退した。


『カイト、離れて!』

ミオの声が飛ぶ。

『その機体、同期が深くなりすぎてる!』

しかし、アルタイルは動かなかった。

いや、違う。動けない。機体側の感覚が強すぎる。

敵の動きが読める。なのに、自分の身体が追いつかない。

その瞬間、ネヴァが消えた。

「っ!?」

次の瞬間には目の前にいる。速い。巨体とは思えない加速だった。

アルタイルが反射的に迎撃する。白と黒の刃が激突した。

轟音が響いた。衝撃波で海面が裂ける。

だが押される。単純な出力が違いすぎる。


「ぐっ……!」

カイトの身体へ激痛が走る。その時、レヴァンが側面から突撃した。

光刃がネヴァの肩部を斬り裂く。火花。

しかし浅い。ネヴァはほとんど怯まない。


『Y01』

男の声がユイへ向く。

『まだその名前を使っているのか』

ユイの目が細くなる。

『……その呼び方やめて』

『識別名は識別名だ』

感情の無い返答。その瞬間、レヴァンの動きが鋭く変わった。

怒っている。

カイトは初めてそう理解した。

白い閃光がネヴァへ連続で叩き込まれる。

高速斬撃。しかし、ネヴァは正面から受け止めた。

黒い装甲が軋む。それでも崩れない。

『無意味だ』

ネヴァの胸部ユニットが光る。嫌な予感が走った。

エルの悲鳴に近い声が通信へ響く。

『高エネルギー反応!』

『回避してください!』

次の瞬間、黒い光が海上を薙ぎ払った。

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