8.村に戻って
翌朝、まずは角を村へ持ち帰ろう。
あとはシュバルツも村へ連れて行かなくちゃ。
傷は癒えたけれど、完璧ではない。私の癒しの力には弱点もある。
それは空腹を満たしたり、体力は戻せないこと。
あとは一度に出る光の粒以上の外傷や病気、魔力の影響は治りきらない。
しっかりと治すなら数日かけないといけない。
(その後は……シュバルツはどうするんだろう)
でもそれを置いておこうと私は棚上げにする。
結局、治った後のことはシュバルツ自身が決める。
私はこの黒くてふわふわなシュバルツが好きになり始めているけれど。
オーリを肩に乗せ、シュバルツを先導しながら村へと帰る。
シュバルツの足取りは見る限り、大丈夫そうだ。
むしろ私を急かしてくる足の速さだった。
森を抜け、村へ辿り着いたのは昼過ぎだ。
「ふぅー……村の皆はシュバルツのこと受け入れてくれるかな。緊張するね」
「ぴっー!」
肩のオーリがふもっと頷く。
エリーザをすぐ受け入れてくれたんだから、大丈夫……と言ってくれている。
家に寄って、狩りの道具を置いてから村に行こう。
「その後は……まずはクララちゃんに紹介かな?」
クララならいきなり騒いだり逃げたりはしないと思う。
いや、逃げる可能性はあるかもだけど……でも話せばわかってくれるはず。
彼女の反応でシュバルツをどう村へ紹介するのか、そもそも紹介していいのかわかる。
そう思って森から家に行くと、家の扉の前にクララがいた。
クララは村の回覧板を持っている。私たちの気配にぱっとクララが振り返った。
「ああ、エリーザちゃん! 近くにいたんだね。村の回覧板を持ってきたんだけど――」
そこでクララが巨大な黒狼シュバルツを認識して、見つめた。
私はごくりとクララの反応を待つ。
ここでどんな反応が返ってくるかが重要だ。
「……ぴぃ」
オーリも緊張している。
クララが両腕をばっと掲げた。
「うわぁ! ふわふわなワンちゃんだぁ!」
「……えっ?」
クララがダッシュでシュバルツのそばに駆け寄ってきた。
あまりの勢いに砂埃が激しく舞う。
「すっごーい! おっきいねぇ! ねぇ、撫でてもいい?」
「……わぅ」
思ってもみなかった食いつき方だ。
シュバルツのほうが困惑して、私のほうを見つめてくる。
「だめ? 私じゃだめか、そうだよね。うぅ、半人前の蛹みたいな私がこんな立派なワンちゃんを撫でる資格なんてないよね……」
ま、まずい。クララがネガティブモードに入ってしまった。
シュバルツもますます混乱して渋い顔になりつつある。
「ぴー……」
オーリはやれやれ、という雰囲気でくちばしをもぐもぐと動かす。何も食べていないのに。
それで私はピンと察して、シュバルツに耳打ちする。
「あのね、この子は昨日の携帯食料を用意してくれた子なの。料理が上手いんだから」
「わっふ……!?」
戸惑っていたシュバルツの顔がぱぁっと明るくなる。
やはり昨日の晩餐はやってよかったのだ。
シュバルツが尻尾を振りながら、クララの前に頭を下げた。
それを見た私はほっと胸を撫で下ろす。
「ほら、シュバルツが撫でていいって……!」
「本当ですか……?」
クララの質問にシュバルツは上機嫌に答える。
「わふー♪」
「よかった、じゃあ遠慮なくー!」
クララはゆっくりとシュバルツの頭に手を伸ばし、撫で始める。
ふにふに、さわさわ。
クララの撫でテクニックはオーリも唸らせる。シュバルツも目を細めて撫でられていた。
「うーん、ふわふわで温かくて……いい気持ちです!」
シュバルツは尻尾を振って撫でられ続けている。
どうやらオーリに比べると撫でられるのに抵抗がないようだ。
オーリは数十秒くらいで撫でられると離れちゃうのに……。
「ところで、このワンちゃんは……森で見つけたのですか?」
「それなんだけれど――」
私はかいつまんで昨日のことを説明した。
血痕と治療のことはごまかして、だけど。
「ふぅん、この子がお腹空かして倒れてた……と」
「この角の持ち主と戦ったけど、力尽きてダメだったんじゃないかな」
シュバルツは怪我ではなく、空腹で倒れたことにした。
まぁ、空腹だったのも間違いではないだろう。
「この森に肉食動物はいないからねぇ。私たちも獲物を何日も探すくらいだし。ワンちゃんも見かけません。うーん、君もどこから来たのかなぁー?」
宵闇の森の南端で犬や狼は見かけない。
それを踏まえたクララの質問だけれど、シュバルツはよくわからないようで首を傾げる。
「……わふぅ?」
「あー、可愛いねぇ」
もちろんシュバルツに聞いて答えが返ってくるはずもないので。
クララはにまにましながらシュバルツの顎の下をもみもみする。
私は撫で続けるクララに次の話をした。
「で、村にこの子を紹介しようかと思うんだけど、どうかな?」
「いいんじゃないかな?」
あっさりとクララがオッケーを出す。
……本当に大丈夫かな。不安になる気軽さだった。
「エリーザちゃんは知らないと思うんだけど、たまにーに白狼の村で犬を飼いたいって話は出てたりするんだから」
「えっ……そうなの? 初めて聞いた」
でも私が白狼の村に来て八年、犬を飼っている家はどこにもない。
「犬や狼は村の象徴だし、もちろん村に来る商人さんに頼めば、犬を買い付けることはできちゃうけど……でもずっと生きられるかっていうと……」
「……そうだね」
宵闇の森の魔力は村に悪影響を及ぼしていないように思える。
村の人間はかなり頑強で、私の治癒の力もいらないくらい健康だ。
ただ、それは選ばれただけなのかもしれない――森に受け入れられない狩人が死に絶えて。
残った人だけが村を作って、継いでいるだけなのかもしれない。
「それじゃ可哀想だって、いつも話は立ち消えになっちゃいます」
「なるほど……そんな話し合いがちょこちょこあったんだね」
「だからオーリちゃんのことも心配だったんですよ。覚えてます?」
「そうだったね。最初の半年くらいはずいぶん心配された気がする」
今でこそオーリを心配する声はないけれど。
最初、私もそうだしオーリも心配された。
ただ、私もオーリも普通ではない。森の影響はなかったのだ。
「それで今はオーリちゃんが来て、オーリちゃんがどうなのか、しっかり見ていきたいっていう気持ちが村にはあって」
オーリが生きていけるなら……そこから生存のヒントを見つけられるかもしれない。
村には馬、牛、犬、猫もいないからなぁ。
八年も経っているが、村は急がない。ゆったりとしている。
「でもこのワンちゃんは森の生まれですかね? 森の力を感じるような」
「うん、よその子じゃないと思う」
シュバルツの魔力は森の魔力によく似ている。
もし他から来たばかりの黒狼なら、違うと判別できる。
「じゃあ、なおさら大丈夫だと思いますよ! 森の子は皆、仲間ですから!」
クララの言葉が私の胸を打つ。
私の親友、クララだからこそ私もそのまま信じられる。
「不安が吹き飛んだよ、クララちゃん。村の皆にもこの子を紹介する……!」
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