表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】呪われたモフモフと追放聖女のもぐもぐ辺境暮らし  作者: りょうと かえ
森の聖女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/36

36.宴と夜の終わり

 その夜、私たちは砦の前で宴を開いた。

 狩人で大きな怪我をした人は誰もいない。勝利の宴……というよりは別れの宴だった。


 この宴が終わり、明日になったらそれぞれの村に帰るのだ。

 肩を組んだ狩人が合唱する。


「あー、あー……獣を追って、肉を食べよう。我らは森の子。いつでも弓を手にしてる。緑を追って、木の実を拾おう。我らは森の子。いつでも刃を手にしてる――」


 正直、お酒が入っているので歌の音程はかなりひどい。


 でも皆、踊ったりして楽しんでいた。

 ランスターはバイオリンを鳴らしている。意外な趣味だけど……カサンドラに持ってきてもらったのだろうか?


 私はシュバルツ、クララと一緒に隅っこのほうで晩餐を楽しんでいた。


 今日のメインデッシュは脂がたっぷり乗ったサーモンの焼き魚だ。

 そこにペーストしたジャガイモとチーズが合わさり、こってりと濃厚に仕上げていた。


 ソースは酸味あるヨーグルトソースだ。

 白狼の村では珍しい魚料理にシュバルツが目を丸くする。


「今日は魚なんだね」


「うん、新年が近付くとね。珍しいから食べるんだ」


 今日の晩餐もカサンドラの提供だ。

 食糧として持ってきたが村までは持ち帰れないしで、今夜食べてしまう。


 ナイフとフォークを持ったクララが緊張している。


「こんないいサーモンはご馳走ですからね。でも魚は……小骨に気を付けないと!」


 クララはなぜか小骨に苦しむ率が高い。運がないのか、魚に嫌われているのか。


 そんなクララにシュバルツが手を貸した。

 クララの手を取って、ナイフのレクチャーをする。


「ここからここは小骨が多いよ。で、こっちはぱくって食べられるかな」


「はえぇ……」


 正直、狩人は食べるのが上手いとは言えない。


 肉の筋も魚の小骨も噛み砕いて飲み込むのが流儀である。

 その中にあって、やはりシュバルツのナイフ使いは一線を画していた。


 ジャガイモやチーズの下に隠れた骨を丁寧にシュバルツは取り除いていく。


「い、いいんですか……? エリーザちゃんより先にやってもらって。怒られません?」


「……怒らないよ!」


 これは本音だ。シュバルツは誰にでも優しいし、愛されてる。

 そこは彼の長所であって、妬いたりするなんて変な話だ。


「というか、何で私が怒るの……?」


「えー……?」


 クララのサーモン皿から骨が分離される。

 続いてシュバルツは私のサーモン皿から骨を取り除き始めた。


「あはは、エリーザにもいつもこうしているからね。当たり前の光景だし、怒ったりしないよ。ね、そうでしょ?」


「そうよ。誤解しないで」


 オーリはるんるん気分で左右に揺れていた。

 目の前のサーモンから骨が取り除かれるのを心待ちにしている。


「いつも……? 当たり前……?」


 クララがなんだかジト目で私を見ていた。

 そこで私ははっとする。これでは私が彼に甘えているみたいではないか。


 いや、実際に甘えていないわけではないのだけれど、彼にやってもらうと貴重な魚を骨なしで美味しく食べられるし……!


 シュバルツは微笑んだままだ。

 すぐに私のサーモン皿からも骨が綺麗に分けられる。


「ほら、できたよ。食べよう」


 そこで私は気が付いてしまった。


(まさか……! クララに見せつけるために!?)


 人の姿の時のシュバルツの考えはよくわからない。


 思考の深さが自分たちとは段違いなのだ。

 でも多分合っている……気がする。


 クララがにまにまとしてフォークを持っていた。


「……まぁ、良しとしましょう。エリーザちゃんは甘やかされる資格がありますからね」


「そうそう、早く食べないと」


「うぅー……!」


 今は分が悪い。シュバルツの手を借りてしまった。


 やむなく私はサーモンを食べ始める。

 じゅわっとした焼けた脂に絡むチーズ、噛むほどに魚と肉の旨味があふれだす。


 そこに柔らかなジャガイモの食感……。

 寒くなり始めた十二月にぴったりの熱で、体温がぐっと上がる。


 サーモンの脂の少ない部分はヨーグルトソースをまぶしながら口に含む。

 そうすると酸味が加わり、ぐっと奥行きが感じられる。


 他の付け合わせはザワークラフトと黒パンだ。

 あとは……北の村から提供されたウォッカという強いお酒だ。


 がつんと来るアルコール度数だけど、透明感があって飲めてしまう。

 恥ずかしさから、ついごくごくとたっぷり……。


「ふぅ……」


 心地良い酒精を感じながら、私は楽しく食事をすることができた。


「いいお酒だね」


 シュバルツの指がクララの見ていないところで、私の指に絡む。

 もうこんなので反応してやるもんか、と思いながら――私は時折、シュバルツの手を握ってあげた。



 宴が終わり、夜が終わる。

 朝焼けにシュバルツは黒狼の姿に戻っていた。


「わふ……!」


 残念だけれど、呪いは完全には解けていない。

 この時のシュバルツはいつも通りの黒狼のようだった。


 可愛くて、もふもふな私の王子様だ。

 他の村の皆とはここでお別れになる。でも寂しさは全然ない。


 ベッセルが二日酔いにうなされていた。


「もう、飲み過ぎですよ」


「ははっ……強い酒でな、つい飲んじまった。にしても、あんたも飲める口なんだな!」


 私は聖女の力のおかげでアルコールにも強い。

 見かけによらずイケるんですと胸を張る。


「今度は岩の村に来てくれよ、エリーザちゃんも酔えるくらい振る舞うから!」


「ありがとうございます、いずれ絶対……!」


 北の村の狩人ともここでお別れだ。


「北にも美味しいものはたくさんあるでな。来てくれよ、たんまりご馳走するよ!」


 温かい言葉をかけられ、それぞれの村へと帰っていく。


 白狼の子は東へと。森の様相はすっかり変わり、穏やかな風が心地良い。

 冬だけど重苦しい雰囲気は一掃されていた。


「ぴぃ……」


 オーリはシュバルツの頭の上に掴まって、ゆったりと寝転んでいる。

 ふかふかのオーリを撫でながら、私はシュバルツの隣を歩く。


「戻ろう、私たちの村へ」

「わぅ……」


 シュバルツの顔が私の手をかすめる。

 ヌラウの角を背にくくり付けていて……まだシュバルツの呪いは解けない。


 でも、焦りはしない。彼は私の隣にいてくれる。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

これにて第1部完結となります!


本作に加筆修正を加えた書籍版が1/9より発売されます……!!

楽しいと思ってもらえました方は、ぜひともお買い上げ頂ければ幸いですーー!!

https://amzn.asia/d/82N943v


さらにコミカライズも連載が開始されましたーー!!

https://comicpash.jp/series/9c6d735d06e33?s=1


↓の横長画像より公開サイトに飛べますので、こちらも何卒よろしくお願いいたしますー!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ