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【書籍化・コミカライズ】呪われたモフモフと追放聖女のもぐもぐ辺境暮らし  作者: りょうと かえ
森の聖女

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32/36

32.戦闘

「魔力は生命を変える。森の魔力はただの資源だ。選ばれた人間のみが恩恵に俗せる」


 衝撃から立ち直ったランスターが剣を振りかぶり、上段から斬りかかる。


「おぞましい怪物め!!」


 剣の光はそのままに、たとえ鎧兜があっても彼の剣は両断しただろう。

 想像を絶するはずの斬り下ろしをヌラウは嘲笑う。


「矮小だな」


 ヌラウは無造作に左腕を前に出しただけだった。

 剣がヌラウの左腕に食い込む――しかし、斬れない。斬り抜けられない。


「くっ……硬い!」


「これが人を超えるということだ!」


 ヌラウが右腕を振るう。ランスターは紙一重で剣を引き戻し、着地する。

 その隙を私が矢で狙う。


 ヌラウの額を――だが、彼の動きは矢を上回っていた。

 私の矢はヌラウの広げた右の手のひらに防がれる。


 矢はヌラウの右の手のひらを貫くが、そのままヌラウは無造作に手のひらを握り、矢をへし折ってしまった。


「これだけか?」


 圧倒的な強者に心が折れそうになる。でも……私は見た。


 ランスターの剣と私の矢。

 そこから霧のように魔力が漏れ出し、散っていく。


 すぐに傷が塞がり、煙の流出も止まるが……完全な無傷ではない。


「まだ……!!」


 体力も矢も残っている。諦めるには早すぎた。



 同じ頃、砦の外では狩人たちが砦に入り込もうとしていた。

 ベッセルが怒号を飛ばす。


「なんでもいい! ぶっ壊せ!」


 おう、と荒々しく狩人がそれぞれ持った得物で扉を壊そうとする。

 砦の窓からは魔術師たちの矢が降り注いでいた。


 狩人からの攻撃も物ともせず、静かに反撃をしてくる。


「邪魔させるんじゃないよ!」


 カサンドラは後方から敵の配置を確認し、指示を出していた。

 射手の数は十人ほど。恐らくは全員が魔術師だ。


 狩人も矢で応戦するが、奇妙な現象に悩まされていた。


「全く……! 矢が刺さっても撃ち返してくるのはどういうことだい!?」


 狩人の矢は窓を通じ、確かに当たっているはず。

 なのに、すぐ敵は矢を抜いて撃ち返してくる。


 苦痛の声も上げずに。血も流れてないように見える。

 本当に生きた人間を相手にしているだろうか。動く人形のようだった。


「魔術師って不死身なんですか……?」


 森から出たことのないクララには訳がわからない。困惑するしかなかった。


「んなわけないよ。変な魔術で見せかけているだけだ!」


 狩人には大した被害は出ていない。だが、問題は中に入るまでどれだけ時間がかかるかだ。

 粗末なように見えた砦は内部から補強されているようで破壊に手間取っている。


「わぅ……っ!」


 シュバルツが砦の中央にある塔に唸り――次の瞬間、狩人側の全員が恐ろしい悪寒に襲われた。真冬の川に叩き込まれたとしても、これほどの寒気は感じなかっただろう。


 それほど異様な雰囲気が塔から放たれたのだ。


「なっ、これは……!?」


「……主の気配です」


 クララが恐怖を胃に押しやりながら、拳を握る。

 そう、クララは知っていた。前に討伐したマーコールと同じとしか形容できない気配だ。


「中で、何かが起きていますっ!」


「くっ……早く行かなきゃなのに!」


 カサンドラの焦りとは裏腹に、魔術師を突破できる見込みはない。

 それよりも――魔術師たちの様子がおかしい。


「おおっ! 蛮人を追い払え!」


「叡智を守れ! 奇跡を守れ!」


 さきほどまで人形を相手にしているのかと思うほど、彼らは機械的だった。

 叫びもせず、淡々と弓を放つだけ。


 どんな人間でもいざ戦いになれば叫び、獣じみた本性が出る。

 死ぬかもしれないとなればなおさらだ。


 それがいまや理由のわからない言葉を叫びながら、果敢に弓を撃っていた。


「……どういうことだい?」


 もちろん果敢に攻撃すればするほど、身を晒すことになる。


 人数と腕前は狩人のほうが圧倒している。

 すぐに弓を撃つ魔術師の身体には何本もの矢が刺さった。


 顔面に、首に、胸に。


 何本もの矢が刺さっても叫びも動きも止まらない。

 この世ならざる怪物を相手にしているかと疑ってしまう。


「な、なぁ……本当にこいつら人間なのか!?」


 あまりの光景に狩人に混乱が広がってしまい、カサンドラが毒づいた。


「……くっそ。なんだい、こりゃ……」


 現実問題として矢の数には限界がある。砦を破壊するか、敵を根絶やしにするか。

 どちらかできなければ中には入れない。


 ハリネズミになっても魔術師は動き続ける。

 だが、その中でシュバルツには見えていた。


 魔術師の弱点と砦の攻略法が。


「……わう」


「ぴぃ……ぴい?」


 シュバルツが頷くとオーリも頷き返した。

 不死身の怪物はいるのかもしれない。


 しかし、いかに不死身でも――怪物は怪物だ。

 オーリとシュバルツはクララの肩と袖を引っ張る。


 エリーザの次にふたりと付き合いの長いクララにはその意味がわかった。


「……! 考えがあるんだねっ!?」



 クララは低く、静かに呼吸した。


 彼女は今、砦に近い樹木の陰にいる。

 そこからクララは弓を構えて……身体を出さず、頭だけ出し入れして狙っていた。


 今、クララが放とうとしている矢は普段使う狩猟用の矢ではなかった。

 太く短い特別製の矢。さらには太いロープも取り付けられている。


(焦るな。外したら次は警戒される……!)


 クララの潜む隣にはシュバルツとオーリがいる。


 砦の壁は硬いレンガで、狩人側の装備では刺さらない。

 登ろうにも不死の衛兵が上から矢を撃ってくるのでは無理だ。


 もちろんクララが狙う窓にも魔術師がいて、矢が刺さりながら一向に介さず、下の狩人に向けて射撃戦の真っ最中だった。


「……エリーザちゃん、私に勇気をちょうだい」


 魔術師の身体がまた矢に撃たれ、傾く。それでも無頓着に魔術師は弓を構えた。


 クララの狙いやすい、ちょうどよい角度で。

 一歩、樹から半身を出したクララが集中力と腕力の限界をふり絞る。


 ばうっとロープ付きの矢が彼女の手から放たれた。

 矢は肉を貫くわずかな音とともに、魔術師の胴体に命中する。


 魔術師の反応は緩慢だった。

 矢にロープがついていることにさえ、すぐには気が付かなかったほど。


 しかし、それは失敗だ。もっと早く反応すべきだった。


「よしっ!」


 クララは矢が命中したのを確認すると、一気にロープを引っ張る。

 ぐんっとロープが動き、超人的な力を伝える。


 不死身であっても、クララに対抗できる腕力は持っていない。

 それは魔術師が撃つ矢からわかっていた。


 魔術師が矢を掴もうとするが、遅い。

 一瞬で魔術師は窓から引き寄せられ、外に放り出される。


 魔術師が砦の外の地面に激突して……しかしなおも起き上がろうとする。


「やったぞ! 引きずり出した!」


「動きを止めろー!」


 そこを狩人が縄やロープで拘束しようと集中的に攻撃を始める。

 いかに不死身でも常人と同じ程度の腕力ではどうしようもない。


 もしこの魔術師が矢をすぐ引き抜いていれば、こうはならなかった。

 不死身であっても反応が鈍ければただの獣だ。


「よっしゃ、今だ! 登っちまえ!」


「クララちゃんを中に入れろー!」


 魔術師のいた窓の下に狩人が集まり、四つん這いになる。


 即席の人間階段だった。

 最初、シュバルツとオーリ経由から聞かされた時はクララもどうかと思った案だ。


 高さは全然足りない。一階分は飛ばなくては。

 でも常人を遥かに超える狩人やクララならできる。


 クララは即座に駆け出して人間階段に飛び乗った。


「すみません! いきますっ!」


「わーう!」


 クララからシュバルツまで乗っても狩人はびくともしない。

 砦の中から次の敵が来るまで、何秒だろうか。


 いや、もう弓を構えた魔術師が窓の奥から走ってきていた。


「ぴーっ!」


 オーリが稲妻のように窓から突入し、魔術師の邪魔をする。


「貴様! どけぇっ!」


 激する魔術師の前に、クララが立つ。

 窓に手をかけて砦に入ったのだ。


「せぇぇっ!」


 ここで戦う必要はない。

 ナイフを持ったクララは魔術師に迫ると、そのまま力任せに魔術師の服を掴む。


 やはり敵は不死身でも常人だ。

 そのままクララは圧倒的な腕力で腰を掴み、窓から魔術師を放り投げる。


「わっふ!」


 放り投げられた魔術師が空を飛ぶ横からシュバルツも砦に入ってくる。 

 オーリも無事で、シュバルツも侵入を果たした。


 だが安心とは行かない。奥からさらに魔術師の姿が見える。

 さすがに警戒してか、次の敵は剣と盾を構えてこちらを阻む構えだ。


 クララはナイフを逆手に持ちながら、シュバルツとオーリに視線を走らせる。

 移動ならこのふたりのほうがクララよりもずっと速い。


「……隙を作るようにするから、ふたりは先に行って」

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