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【書籍化・コミカライズ】呪われたモフモフと追放聖女のもぐもぐ辺境暮らし  作者: りょうと かえ
森の聖女

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31.角ある異形

 部屋には飾り気が全くなく、あまりに殺風景だ。

 あるのは備え付けだと思われる、広間中央の石造りの台だけ。


 台は魔力に満ちて、黒色の煙を垂れ流している。


(不快感の中心は、あの台だ)


 私たちを案内した魔術師が頭を下げてから、奥にいる人間に耳打ちする。


「来訪者とは驚いた」


 神経質そうな声が闇の中から聞こえてきた。


 台の前に、ゆっくりと神経質そうな男が現れる。

 声も同じで、やはりヘクタールにいたあの魔術師だ。


 苦しむシュバルツの元に案内し、私を糾弾したあの男。

 違うのは八年の流れで白髪と皺が増えたことだろうか。


 それに彼も頭部に角の装飾を付けている……。


(向こうは私に気付いていない?)


 八年も経っているし、会ったのはあの一日だけ。

 覚えていても不都合はないはずだが、忘れているならそれまでだ。


「狩人代表のエリーザと申します。先日、そちらが岩の村に使者を送ってきたことに間違いはないですか?」


「その通り、送った。手ぶらで帰ってきたがな」


 射抜くような、敵対的な視線でこちらを見据える。


「今、魔石を持ってはいないな。それなのに、なぜここに来たのだ?」


「……まずは名乗って頂けませんか?」


 あまりの言葉に私はつい口を挟んでしまった。

 ランスターがわずかに口角を上げる。どうやら同じ気持ちだったらしい。


「ふむ……必要性は感じないが、ヌラウと呼びたまえ。で、何用だ?」


「書状を持ってきています」


 私が懐から木の筒を取り出す。片腕を上げたヌラウが挑戦的に言い放ってくる。


「ほう、見せたまえ」


 私たちは煙を吐き出す台に近付かなければいけなくなった。


 ――ぞっとする、というよりも。

 これは主が放っていた気配そのものではないのか。


 だけど弱みを見せてはいけない。覚悟を決めて、踏み出す。

 台からの煙は魔力を含んでいる。平静な心を保たなければ呑まれてしまう。


「……っ!?」


 台の上には何もなかったが、中には――ひからびた黒狼の死体がはめ込まれていた。

 腐敗はしておらず、干からびているような……。


 その死体から煙が出ているのだ。ランスターさえも驚き、目を見開いている。


「これは楔だよ」


 ヌラウが舌なめずりをしながら答える。こちらの反応を待って、楽しんでいた。


「偉大なる過去の遺産。君たちが知る由もない、栄光そのものだ」


 何を言っているのか、さっぱりわからない。


 とりあえずやるべきことを……私は書簡をヌラウへ手渡す。

 書簡を受け取ったヌラウはつまらなさそうに封を開けて、中の書類を確認する。


 書類の内容は知っている。

 『要求を撤回し、友好関係を築こう。それが無理なら森から出ていってくれ』だ。


「ふん……こちらの要求には従えない、と」


 それだけ確認すると、ヌラウは書簡と書類をそばの男に下げ渡した。

 まさに一顧だにしないという態度だ。


 ランスターが静かに苛立ちをにじませる。


「魔石にどれほどの価値があるのか、わかっているのですか? しかも狩人たちは命を賭けて討伐したんですよ」


「……アレの価値をわかっていないのは、貴様らのほうだ」


「なんですって……?」


「十年もかかったのだ。アレを育てるのに」


 その言葉の意味を理解するまで、数呼吸が必要だった。


 今、ヌラウは何て言った……?


「アレを育てた……? あの森の主を?」


「主か。物を知らない蛮人の呼び方だな。アレが何なのか、わかっているだろう? 凝縮された魔力に晒され、強大化しただけの獣だ」


 ヌラウが台に手をかざす。黒の煙がさらに狼の死体から溢れてきた。


「この森は世界最大の魔力を有しているというだけのこと。獣を勝手に神聖視するのはいいが、アレの所有権はこちらにある。あの魔石も――研究に必要だ」


 あまりにも勝手な言い草に私は語気を荒げた。


「あの主のせいで、人が傷ついたんですよ!?」


「……それがどうした? あのマーコールが自然下でどう活動するのか、魔力を吸収していくかは興味深かったが……まさか蛮族にこうも容易く狩られるとは予想外だ」


 ヌラウは心底、狩人に関心がないようだった。


 私はランスターに視線を走らせた。彼もかすかに頷く。

 これ以上は話しても無駄だろう。


「あなたは森にふさわしくない……!」


「強制的に排除するしかないようですね」


 私は背にある弓に素早く手を伸ばし、ランスターも剣の柄に手をかけた。

 だが、それだけだった。弓を手に取ることはできず、ランスターも剣を抜けない。


 オーリだけがとっさに私の肩から宙に浮き、煙から逃れることができた。


「ぴぃっ!」


「煙が……!?」


 黒の煙が私たちの身体を抑え、動けなくしていた。煙を自在に操る魔術のようだ。


「煙、か。粗雑な物言いだ」


 ヌラウの身体から魔力が放たれている――敵意の込められた魔力だ。

 くいっとヌラウが首を傾ける。角の装飾が鈍く光り、魔力が煙に伝わった。


 煙の重さが増して、地面に張り付けようとしてくる。


「ほう? 常人ならとうに倒れ伏しているはずだが。粘るな」


「ぐっ……! オーリ! 皆に合図を!」


「ぴぃー!」


 目を光らせたオーリが飛び、疾風のように部屋から去る。

 ヌラウはつまらなさそうにその様子を眺めていた。


「ふん……仲間と一緒に来ていたのか。ご苦労なことだ」


「主よ、我々は――」


 ヌラウの手下が畏まりながら指示を請う。


「外に大した魔力は感じない。追い払え。殺しても構わん」


 全身に力を込めても煙を振り払えない。目の前のヌラウの魔力は大したことがないのに。

 この魔術が異常なのだろうか。ヌラウの手下が広間から退出していく。


 同時にランスターの魔力が膨れ上がった。


「光よ!」


 ランスターが叫ぶと同時に剣の柄から閃光が放たれる。

 光が煙を相殺し、拘束を弱めた。


「はぁっ!」


 剣を抜き払うランスターが、そのままヌラウへと斬りかかる。

 ヌラウは煙をまといながら後ろに下がった。


 ランスターの剣はほのかな、暖かい光を帯びている。その光が煙を遠ざけていた。

 私も腕が動くようになり、素早く弓と矢を構える。撃つのは脚だ。


 わずかなこの距離で外しはしない。

 弦を引き、狙いを定める。


 一呼吸の間に私は矢を放っていた。


 煙を裂いて矢がヌラウを狙う。

 ヌラウが首を傾けようとしたが、遅い。


 矢はまばたきの間にヌラウの左膝下を貫いた。


「ぐっ……!!」


 ランスターが躊躇なく台に足をかけ、ヌラウへ飛びかかる。

 ヌラウは左腕を前に出して――何らかの魔術を発動させようとした。


「遅い!」


「……ぬあっ!?」


 ランスターは躊躇なく、ヌラウの左手首を切り落とした。


 たまらずにヌラウが尻もちをつく。

 そのまま迫ったランスターはヌラウの首元に剣を添えた。


 私も次の矢をつがえ、ヌラウの頭を狙う。


「降伏しなさい。これ以上の抵抗も流血も無用です」


 ランスターが冷たく宣告する。ヌラウは剣を突きつけるランスターを見上げた。


 息は荒いが、瞳に感情は感じられない。

 苦痛も、絶望も。怒りさえもないようだった。


「……マルドゥーク流剣術、ゴルドワナ帝国の騎士か」


「然り。あなたが今、使ったのは闇の禁術ですね?」


 ランスターの刃がわずかにヌラウの首元に食い込む。


「あなたがどのような国の要職にいたとしても、許されませんよ。三つ数えます。すぐに降伏しなさい」


「ククク……」


 ヌラウが不気味に笑う。それを降伏の拒絶と受け取ったランスターは剣に力を込めた。

 ヌラウの首を落とすために。


「なっ……!」


 ヌラウの右手が伸びて、ランスターの剣を掴む。


 ランスターは力を込めているようだが、ヌラウの細腕が剣を制していた。

 ……ヌラウの角がまた鈍く、光っている。


 私は反射的に矢を放っていた。


「無駄だ」


 ヌラウの言葉がひどくゆっくりに聞こえる。

 私の矢が空中で止まった。


 いや、違う――漆黒に彩られた左腕が。ランスターがたった今斬り落としたはずの左腕が私の矢を空中で掴んでいた。


「これが私の研究成果だ」


「ぐっ! エリーザさん、離れて……!」


 ランスターが叫ぶと同時に、ヌラウの角から猛烈な闇が放たれた。


 衝撃。魔力の波動で全身が揺さぶられる。

 ランスターも私も吹き飛ばされ、床に転がった。


 立ち上がったヌラウが両腕を合わせて、大きく息を吸う。

 煙を呼び集めるかのように。


「凡人、光栄に思え。これが偉大なる過去の遺産だ!」


 ヌラウの呟きはひび割れ、人ならざる音に変わっていた。


 獣が不慣れな人語を喋っている――そう、錯覚するほどに。

 やがてヌラウの全身が黒の煙に覆われ、異形に変わっていく。


 全身がより大きく、腕と足はより太く。

 頭さえも毛に覆い尽くされ、人の形ではなくなっていく。


 影と魔力は形を為して、ヌラウを変える。

 二足歩行、マーコールの半獣人へと。その体長は私の倍近くにもなっていた。


 変わらなかったのは角だけだ。魔力を発する角があるべき場所に収まっている。

 生気のなかったヌラウの瞳はいまや、穢れた魔力の活力に満ちていた。

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