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【書籍化・コミカライズ】呪われたモフモフと追放聖女のもぐもぐ辺境暮らし  作者: りょうと かえ
塔の魔術師

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29.北東へ

 準備は進んでいき、半月後には森の西へ向かえることになった。


 キャラバンが十人、狩人が二十五人の三十五人で出発する。

 これほどの人数で村を出るのは初めてだ。


 キャラバンごと移動するような形で合流地点へと進む。

 正直、行きの道のりはかなり能天気であった。


「飲み物も食べ物もたくさん、いやぁ悪くない」


「これで獲物がどこかにいればのう」


 さすがにこの人数で動くとかなりうるさい。


 森の獣と出くわすわけもなく、健脚でもって進む。

 主を狩る際に通った、いにしえの塔が合流場所だ。


「来た時と同じみたいな……」


 クララが私に緊張しながら言ってくる。私は頷くしかなかった。

 空気が重苦しく、どんよりと淀む。


 あの主が振りまいていた不気味な気配を煮詰めたような、見えない霧の中にいるみたいだ。

 村の人もキャラバンの人も途端に口数が少なくなった。


「もう何か月も経ってるはずなのに……ひどくなってるかも」


「この塔のせいじゃないよね?」


 数え切れないほどの年月が経ち、それでも揺るがない人肌色の塔をクララが見上げる。


「違うと思う」


 この塔から先の森がなんだか変になっているのか。


 何かがおかしく、背筋に冷たい汗が流れる。

 狩人でもないカサンドラでさえ、眉をしかめていた。


「ここは――こんなんだったかい?」


 その疑問への答えは誰も持っていない。

 塔のすぐそばの空き地には、すでに北の村と岩の村の狩人が集まっていた。


 岩の村からは二十五人、北の村からは三十人。

 全部で九十人の大所帯だ。こんなに狩人が集まるなんて、ありがたい話だった。


 その中心にランスターとベッセルがいるのを見つける。


「時間通りですね」


「ここからが勝負だぜ」


 村々での挨拶は移動しながら行うとして、そのまま塔の北東へと向かう。


 だけど正直、楽観的な雰囲気はどこにもなかった。


 カサンドラたちは闘わないとしても、この森の狩人八十人なら千人の兵にも負けないと思う。なのに森から放たれる不気味な風を誰もが感じ取って、口数が少なくなっていた。


「本当に妙な雰囲気だね……」


「……うん」


 この辺りは村と村の境目で、狩りをすることもめったにない。

 白狼の村も岩の村もそれは同じ。


 なのでこの森の奥も手つかずのままのはず――だけど、茂みには道が出来ていた。

 獣が強引に踏み荒らしたのではなく、鋭利な刃で切った跡が残っているのだ。


 ほぼ一直線に道らしきものが続いている。

 切られた跡をランスターが見分し、首を振った。


「新しいものも古いものもありますね」


「ずっと外と行き来している、ということなのでしょうか」


 一行の中で緊張が高まっていく。


 向こうとばったり鉢合わせということもあり得るからだ。

 ランスターが全員にそっと呼びかける。


「周囲に気を付けて、集中力を切らさずに進みましょう」 


 反対意見が出るはずもなく、森の奥へと進む。

 速度は落とさずに、切られた跡をほぼ一直線に追っていく。


 一日歩き続けて、夕方頃に木々がふいに途切れた。

 苔むした岩に囲われた滝のふもとに出る。滝自体はさほど大きくはない。家くらいの高さがあるかないか。


 でも落ちる水は澄み切って透明で、水のカーテンのように広がっている。

 暮れゆく夕陽が滝にきらめいていた。


「今日はここまでにしましょうか」


 夜、進むのはリスクが高すぎる。

 今日はここで野営することにした。


 焚火をつけ、寝袋を用意して。女性の狩人はひとところに集まって軽く、身体を拭く。

 ここにいる男性はシュバルツだけだった。


 まぁ、今の黒狼の姿の彼を男と認識する人は私だけだ。

 滝壺には小魚がいて、槍を持ってきた狩人がすすっと捕まえる。


 今日の夜ご飯は小魚と炙り肉、それに黒パン。そこにキャラバンから支給されたソーセージとチーズ。普段の狩りに比べるとずいぶん豪華だ。


 クララが滝に目をやりながら、ナイフでパンを開く。


「ずいぶんと森の中に住んでいるんだね……」


 狩人の村は森の外縁部にあり、森の中に住む人はいない。

 それは森の中央が特別だからでもある。


 森の意志は中央に近付くほど、明敏になると信じられていた。


「嫌な雰囲気もずっと続いているね」


「鈍感さんなのか、不思議だねー……」


 クララがパンに熱したソーセージとチーズを挟む。

 そこにマスタードをたっぷり。身体がほくほくと熱くなるメニューだ。


「ぴぃー……」


「わふふ」


 オーリとシュバルツは木皿に盛られたソーセージを仲良く分け合っていた。

 ふたりは最初から今日まで本当に仲が良い。


「怪しい区域は明日には入れるみたいだけど、どうなるかな……」


「……大丈夫だよ。私たちはひとりじゃないんだから」


 言って、座るクララの膝を撫でる。不安なのはきっと誰もが同じだった。


 翌朝、後始末をして滝からさらに北東へ向かう。

 この辺りは岩の村もめったに立ち寄らないらしい。


 それも無理はない――クララと私は視線を交わして頷き合う。

 森から音が消えている。あの日、マーコールに迫った時と同じだ。


「……変だね」


 背の弓と矢の位置を微調整する。いつでも構えて撃てるように。

 鳥や虫がいなくなり、私たちの歩く音だけが奇妙に響く。


 それでも私たちは進むしかない。

 残された跡を進んでいくと、オーリがぴくりと目を釣り上げて飛び上がる。


「ぴぃー!」


 そのままオーリは上空で一回転し、高い樹木の枝に止まった。

 私からは小さくしか見えないが――オーリはまっすぐ北を差している。


「見てきます……!」


 手頃な木を見つけ、するすると登っていく。


 太い枝を掴み、身体を持ち上げて座り、北に目を細める。

 乾いて葉を少なくした森の先、そこに建物が見えた。


(あの塔は……古代の塔?)


 人肌色の塔を中心に、乾いたレンガによる三階建ての別棟が組み合わさっている。


 塔とその他の棟は一体だが、建築様式として全くの別物であるように感じられた。

 初めに塔があり、それ以外の部分は後から付け加えられたものではないだろうか。


 柵などは見当たらず、建物は剥き出しのままだ。

 レンガ棟には窓もある。私がじっと集中していると――ほんの一瞬、人影が映った。


「……!!」


 心臓がどくりと脈打つ。

 映った人影には見覚えがあった。


(あれはヘクタール王国の……!)


 忘れもしない八年前。私をヘクタールの宮殿の奥に連れていった人物。

 そしてシュバルツを治療できなかった私を糾弾した宮廷魔術師……。


 その彼がなぜ、宵闇の森にいるのか。

 息が荒くなるのを自覚しながら、私は木から降りた。


 戻ってきた私の様子が変なことに気付いたクララが声をかけてくれる。


「ど、どうしたの?」


「……実はね」


 私がヘクタール王国から来たことは、白狼の村の狩人なら全員知っている。

 かいつまんで窓から見えた人のことを伝えると、誰もが驚いていた。


「ヘクタールの? なんでこんなところに?」


「この近辺には連絡も何もねえよな?」


 一体どういうことなのか、私にもわからない。


 色々と狩人たちで議論する中、ランスターは離れて思案しているようだった。

 しかし、彼の顔には困惑の色はない。彼のことは予想の範疇だったのだろうか。


「あまり驚いていないようですね?」


「……いくつかの予想の中にはありました。森に潜んで活動するには、相応の資金が必要でしょうから」


 特に森の水は狩人や魔力持ち以外には合わない。

 森の獣も狩らないのなら、外部からの援助は必須だろう。


「にしても、古代の塔を改築して住むとは……」


 ランスターが理解できないというふうに首を振った。


 彼も狩人の考えは十二分に理解している。

 塔に近寄らない、というのは彼も共通認識として持っているのだ。


「ヘクタールの魔術師について、ランスターさんは知っていますか?」


「……いいえ、私の仕えていた殿下とは派閥が違いましたので」


 彼からさらなる情報が得られればと思ったが、それは無理なようだ。


「それでもやることは……変わりません」


 念押しの確認にランスターが首肯する。


「彼らには彼らの意図があるのでしょう。一層、警戒するべきではありますが」


 ここまで来たら私たちも引き下がれない。前進することが決まり、砦へと近付いていく。

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