28.激励?
村は村で大忙しだった。
外の者が住み着いたという地点の洗い出し、そこに向かうまでの食糧。
――念の為に武器も。
交渉が決裂すればどうなるのか、私も子どもじゃない。
その時は強制的に森からお引き取り願うまでだ。
岩の村と白狼の村が中心となり、森の南部に住まう全ての村に呼びかける。
するとほどなく、全ての村が賛同してくれた。樫の杖、古びた肉食獣の牙、大魚の骨で作られた首飾りなど――これは信頼と連帯の証しだ。
白狼の村、岩の村は動ける狩人全員が詰問に同行する。
カサンドラは狩人たちのために、食糧確保に協力してくれた。
もとい、キャラバンごとついてきてくれる。
私も携帯食糧を木箱に詰め込むのを手伝っていると、カサンドラが手を振ってきた。
「北の村も全員、出てくれるってさ!」
「本当ですか!?」
すでに当事者の岩の村と白狼の村は動ける狩人全員で向かうことを決めている。
要はまぁ、圧力というわけだ。
森の主相手だと数を集めても……ということではあるけれど、今回は別だった。
数が欲しいというところなので、北の村の参加はとてもありがたい。
「北の村は森の主で大きな被害が出たからね。それも変な奴らが住み着いたからじゃないかって思っているらしい」
「……なるほど」
北の村の狩人は主とも接した人間が多い。ランスターと同じ推測が出るわけだ。
でも最初から悪人と決めつけるのも得策じゃない。戦って追い出すのは最後の手段だ。
「北の村の人が暴走しないよう、抑えないといけないかもですね……」
「ずいぶんと冷静さね」
カサンドラの指摘に、私は周囲を見渡してから答えた。
「……私もこの村の生まれじゃないですから」
これが私の想いだった。
ヘクタールから追放された私は、この村の人に受け入れてもらえてここにいる。
そして森からの恵みで日々を生きている。
クララたちは関係なく接してくれるけれど、それを忘れたことは一日もない。
だから事情があるなら、無下にはしたくないのだ。
私も森の揺りかごに抱かれて生きているのだから。
「そっか……。そうだったね、あんたも苦労してたんだった」
「私からしたらカサンドラさんもかなり大変だと思いますけれど」
私の知る限り、カサンドラはあちこちを行ったり来たりしている。
村から物を買って、他に売って、売るものを仕入れて……それこそひとつの所に落ち着くこともなく。
私が帰る場所をなくし、森を住まいにしたのなら――カサンドラは休む場所もなくして、森を旅している。
「それが意外とそうでもないのさ。旅をしていると、思い出に浸らなくてもすむからね」
どこか遠くに思いを馳せて、カサンドラが微笑む。
そこで私は唐突、にカサンドラという人間が見えた気がした。
彼女がどこの生まれなのか、家族がどうなのか。一度もそんな話を聞いたことがなかったことに気が付いたのだ。
それは私だけでなく、村人からもそのはず。これほど親密にしていながら、村人の誰も彼女の家族や故郷を話題にしたことがない。
カサンドラの過去に何かがあったのだろう。
「……生きるって大変ですね」
「まぁね、でも楽しいさ。そうだろう?」
「ですね。とても楽しいです」
流れ着いても旅をしても、それで今が辛いということにはならない。
狩りの行き帰りも楽しいものだ。
「最近のあんたは特に、そう見えるよ。好きな男でも出来たのかい?」
「クララちゃんもですけど、私をからかって遊んでいます……?」
ちょっとだけ頬を膨らませて抗議する。
いや、カサンドラにしてみたら私は子どもなんだろうけれど。
カサンドラが服のポケットから小さな、小さなガラス瓶を取り出して投げてきた。
私の指よりちょっと大きい程度の小瓶だ。飛んできた小瓶を慌ててキャッチする。
「なかなかいい香水だよ。ここぞって時に試してみな」
「もう! カサンドラさん!」
「あはは、ぼんくら親父どもは気が付かないだろうけど……あたしはお見通しだよ! まぁね、馬に乗った華麗な騎士様に心奪われても仕方ないってもんさ」
……ん? それってランスターのことだろうか?
なんだか盛大な勘違いのような気がする!
「ランスターさんとはそんなんじゃありません!」
「何やら、話し込んでたとか……。ふっ、ネタは上がってるんだよ!」
なんという早合点! あれかな、森でふたりきりのを誰かに見られていたのかも。
にしても、本当にランスターとは何でもないのに……。
「ま、上手くやるんだね!」
カサンドラは積み込み品の確認に呼ばれ、去っていった。
むぅ……と思いながら、桃色の液体が入った香水の小瓶をこそっとポケットに忍ばせる。
捨てるのはもったいない。もらったものは有効活用しないと。
今日でなくても……うん。
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