27.宴と用意
こうして村としての結論が出て――ついでに村人が集まったので、そのまま宴に入った。
ベッセルがお土産で色々と持ってきたからもある。
「さぁ、友好の証だ! たっぷり飲んでくんな!」
お酒の入った樽をいくつも台車で持ってきたらしく、その根性は凄い。
何日かかったのだろう……?
まぁ、お酒について私はほどほどでいい。
今は焼けた肉のほうをがっつり食べたい気分だった。
「エリーザちゃん、堂々としてて格好良かったよ……!」
クララがしっかり焼けたシュバイネハクセを持って、隣にやってきた。
こんがり焼けた豚のすね肉をふたりで切り分けながら食べ始める。
「そ、そうかな? 生意気って思われてない?」
「そんなことないって……! ほら、いっぱい食べよう!」
クララはレバーケーゼもたっぷり持ってきていた。
レバーケーゼは豚のひき肉にタマネギなどの香味野菜やスパイスを混ぜて、長方形に焼いたソーセージだ。
薄くスライスして舌に乗せると、ちょっとした辛味と脂の旨さが実に美味しい。
ベッセルの持ち込んだビールの苦みともよくマッチしてくれる。
「ぴぃ……!」
オーリがスライスされたレバーケーゼをはもっと何切れも一度につまむ。
「……でも本当に凄いよ。狩人だけじゃなくて、年寄衆としてもしっかりと意見を持ってるなんて。私だったら、頭が真っ白になっちゃいそう」
「私も――深く考えられているわけじゃないよ」
シュバルツはソースのたっぷりかかった豚肉をはふはふと食べていた。
尻尾をふりふりさせている彼の頭を撫でながら答える。
「ただ、ベッセルさんに困って欲しくなかっただけ。それに、もし彼らが次に私たちの村へ来たと思ったら……」
「……そうだね」
私たちは付け合わせのクネーデルを食べる。
これは茹でたジャガイモと小麦粉を混ぜて団子状にしたもので、淡白な味わいだ。でも、クネーデルはソースに付けると途端に変わる。
もちっとした食感とこってりと濃厚なデミグラスソースは、食べても飽きることがない。
いくらでも食べれてしまうのだ。
肉を食べながらクネーデルを食し、岩の村のビールで流し込む。
「うーん……! ぷはっ……」
普段の味わいとは違う、強烈な泡と酒精。疲れた頭にがつんと来る。
こうして私たちは盛大に飲み食いをした。
で、たっぷり食べたので宴の途中で私たちは帰ることにして。
……クララはズボンを緩め、私の肩を借りてなんとか歩いていた。
お腹がたぷたぷに膨らんでいる。
「うぅー……! はぁ、あっ、あ……」
「……大丈夫?」
「はぁはぁ、リスみたいに食べすぎたぁ……!」
確かにクララのお腹はリスの頬袋のようになりかかっていた。
ソースに浸したクネーデルは満腹を呼び起こす前に胃を満たす。
さらに泡を含むビールがクララの予想を越えてお腹をパンパンにしてしまったのだ。
「ぴぃ……!」
ちなみにオーリもたぷんとゆっくり歩くシュバルツの背に掴まっている。
同士よ……と言っているみたいだった。
「もう少しでクララのお家だからね」
「うぅ、ありがとう……!」
わずかな階段を登るとレンガ造りのクララの家に到着する。
まだクララの家族は宴会中だろうか。とりあえずクララだけは先にしっかりとした場所で寝たいようだった。
「じゃあ、また明日」
「う、うん……ありがとう、はふ、また明日ね……」
オーリが気だるそうに羽で扇ぎ、見送る。
ふぅ……アルコールが残って火照った身体に冬風が気持ちいい。
森は冬でもさして寒くはならない。
身体の外と内の温度差を味わいながら、自宅へと戻る。
「今日は食べて飲んだね〜」
「わっふ!」
シュバルツの歩みもゆるやかなのは、きっと満腹だからだろう。
さすがにお酒は飲んでいないし……。
小川を越えて草を踏みしめ、家に戻って寝支度をする。
「ぴー……」
もこもこのオーリとシュバルツを隣に抱えていると、本当に幸せな気分になる。
不安は確かにあるけれど、このふたりと村の皆がいてくれるならきっと大丈夫。
「おやすみ……」
ふたりのそばで、私は星の揺らめきを眺めながら眠りについた。
◆
昨日の決定から早速事態が動き出す。
村々に使いが飛んで連帯を呼びかけることになった。
ランスターもその一員で、私は出発前に彼と森で面会していた。
ちなみにシュバルツとオーリは家で寝ている。本当に食べ過ぎたらしい。
「申し訳ありません。ランスターさんをまた働かせることになってしまって」
「いいえ、気にしないでください」
帝国で特別に育てられたという愛馬を撫で、ランスターが頷く。
彼は下馬して私に目線を合わせてくれていた。
「殿下の件と合わせて、近いうちにしなくてはいけないことでした。岩の村に使いを出してきたのも……良からぬ意図があるのでしょう」
「平和裏に済むでしょうか?」
「あの魔石に途方もない価値があるのはわかっているはず。代価を示さずに渡せと迫っているのは狩人を侮っているからか……」
考えられるのは、どこかの勢力の援助が見込めるからか。
侮るには相応の裏付けがあるのだろう。
「あまりのんびりはしていられません。岩の村に強硬手段を取るかもしれませんから」
「はい……。それだけは避けないと」
「……殿下が健在でしたなら、もっと楽でしたが」
「それは――どういうことでしょう?」
ランスターが森の南に目を向ける。
その遥か先には白の城塞、私とランスターの故郷のヘクタール王国があるはずだった。
「ヘクタール王国の中で、殿下は帝国との友好関係を強く望んでおりました。門閥貴族は新興国家である帝国を疎ましく思っておられたようですが……」
「なるほど……。わかる気がします」
実際、ヘクタールは森の狩人についても放置している。離れた帝国のほうが色々と動いているくらいだし。聖女時代もそうした傾向を感じることは多々あった。
「だから……殿下がいれば、と」
「このような事態にも快く協力してくれたでしょうね」
人の姿の時のシュバルツも穏やかで、思慮深い。
彼が王族だとして、他国と軋轢を起こすような人には全く感じられない。
その意味では、シュバルツの人となりは変わっていないのだろう。
「今のヘクタールはどうなのでしょうね」
「……あまり良いとは言えません。門閥貴族の増長、他国軽視は目に余ります」
かつて忠誠を誓った先を評するには批判的だ。
まぁ、私もヘクタールを良く言うつもりはないけれど。
「では、そろそろ私はベッセルさんと出立いたします。殿下のこと、どうかよろしくお頼みいたします」
「はい、お気を付けて」
ランスターが馬に乗り、駆けていく。
ベッセルもそれに同行し、自身の岩の村へと帰る手はずだ。
次に会うのは森に住み着いた者へ詰問しに行く時。
ランスターを見送り、私は村へと向かった。
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