22.秋から冬へ
翌日、私はマーコールの魔石を村の金庫に預けることにした。
売り払うことも考えたけれど、これはなんだか残したほうがいいと思ったのだ。
村の金庫はラームと五人の年寄衆が管理している。
白狼の村には村長などはいない。あえて言うなら、この年寄衆が一番近いかもだけど。
年寄衆とラームの会合の場で、私はそう申し出た。
ラームが念押しで確認をしてくる。
「村の蓄えにして、本当にいいんだね」
「うん、またこんなことがあったら……お金が必要になるだろうし」
今回はランスターが村々の連携をしてくれた。だけど、次も上手くできるとは限らない。
もし狩人だけでなんとかするなら、お金がいる。
(それに――……)
私は胸の内の言葉を押し込めた。
シュバルツの記憶が戻ったら、彼はいなくなるかもしれない。
彼なしだったらもっと大変だったろう。
私の申し出を村の代表である年寄衆は大喜びしてくれた。
「はぁ、本当にエリーザちゃんは謙虚だねぇ」
「ほんに、ほんに。白狼様のお導きがある……」
年寄衆の皆は全員、六十歳を超えた元凄腕の狩人たちだ。
そんな人たちから褒められると嬉しくなる。
虹色に輝く魔石を恭しく持ったラームが私をじっと見る。
「主を討ち、魔石を納めたお前をそのままにはしておけまい」
「ええと……」
まさか、また顔役になれとか?
その件は断ったはずだけど。
「エリーザを年寄衆に推薦する。あんたらも異論はないね?」
ラームが年寄衆を見渡して言うと、全員が拍手で賛成した。
全員、私より何倍も年を重ねた人ばかりなのに……!
固辞しようとする私をラームが手で制す。
「また村に難儀が起きたら、あんたの経験が頼りだ。それは明日からもしれんし、何十年も先かもしれない。今、ことさらに意識する必要はない……ただ、未来のために引き受けてくれないかね」
「未来のために……」
ヘクタール王国から追放された私は、白狼の村の他には知らなかった。
今回のことで私の視野も少し、変わったのは確かだ。
村はひとつで成り立っているわけではない。
いつもは感じないけれど、村と村の間にはしっかりと縁がある。
その縁がいざという時に人を助けるのだ。それが今の私にははっきりと理解できた。
「わかりました……! 若輩者ですが村のために誠心誠意、役割を果たしたいと思います」
◆
ということで私は白狼の村の年寄衆になった。全然そんな年齢ではないんだけど。
一応、村の決め事を議論するひとりになったわけだ。
そしてマーコールの討伐が終わり、半月が経った。
カサンドラのキャラバンはまた仕入れに旅立っていった。
秋も深まり、少しだけ風が冷たくなる。
「わふふ〜」
「ぴぃぴぃー」
寝ているシュバルツの背にオーリがうつ伏せに乗っている。
オーリも器用なもので、あれで全然落ちないのだ。
変わったことと言えばマーコールの討伐で森の雰囲気が少し和らいだことだろうか。狩人の活動範囲が広がったのだ。
どうやら、あの主の影響はかなり広範囲に及んでいたらしい。
森の獣を狩り、実や草を集める。愛おしい日々の間に月日が進む。
それにシュバルツが人の姿になる時間が少し増えた。
満月の数日前、よく月が出ている時は人の姿になれるのだ。
(それは嬉しいはずなのに……)
一方で、不安になる私もいた。
彼が変わってしまうのではないかと……そう思ってしまうのだ。
そしてまた数か月が経ち、十二月がやってきた。
村から離れていたカサンドラのキャラバンもそろそろ戻ってくるらしい。
むしむし……と今日はクララと一緒にキノコ狩りをする。
今ぐらいキノコのとれる、最後の季節だ。
「数年振りだね、カサンドラさんが村で年を越すなんて」
「だねー、今年の年越しは豪華になりそう……!」
カサンドラのキャラバンは数か所の村から順番に年を越す。
彼女のキャラバンが年を越す場合はお祭り騒ぎだ。
「わふふっ」
黒狼のシュバルツが肉厚のヒラタケ数枚をくわえて持ってきてくれる。
「……ふふっ、ありがとう」
私はシュバルツの頭を撫でてヒラタケを受け取り、籠にいれる。
「ぴっ!」
オーリは高いところから次のキノコをシュバルツに指し示す。
シュバルツはふんふんとキノコに向かっていった。
彼が充分離れてから、クララが私の耳元でそっと囁く。
「ねぇ、エリーザちゃん? 何か最近、悩んでいない?」
「えっ……ど、どうしたの?」
「なんだか最近元気ないような気がするから」
私の胸がどきりと跳ねる。クララはこういうところが鋭い。
「何かあったんじゃないかなって……」
「い、いやぁ……」
むしむし。私は倒木に生えたヒラタケをむしる。
この感情がどういうものなのか、どうしたらいいのか。
クララを信用していないわけではなく、自分でもわからないのだ。
「もしかして――好きな人でもできた?」
「は、はえっ!?」
「だってー、なんだかエリーザちゃんってば、乙女な表情なんだもん。ため息ついたり、胸を押さえたり……」
「なにをー……!」
思い切り声が裏返ってしまう。自分でも怪しさ満点と認めざるを得ない有様だ。
私の肩をぽんと叩いたクララが頷く。
「エリーザちゃんは可愛いしね、私はあんまり恋とかわからないけれど……。相談には乗るし、応援するから!」
「ちょ、ちょっとー……! 本当にそういうことじゃないんだってばっ」
でもクララに言われ、心の中で否定しきれない私がいた。
私も恋なんかしたことはない。これは本当に恋なのだろうか。
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