表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ】呪われたモフモフと追放聖女のもぐもぐ辺境暮らし  作者: りょうと かえ
森の主

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/36

18.森の主、あるいは悪魔

 そして夜。寝袋に身体を横たえながら星を見る。


 空気が澄んでいる。焚き火の守りはクララだった。

 シュバルツもオーリもベッセルも寝ている――寝息は浅いけれど。


 私はいまいち、眠れなかった。とはいえ、聖女の力があるのでそれでも明日に支障はないのだけれど。月と星がゆっくり動くのを眺める。


 空の端が明るく、夜が終わりかけてきた。クララが小さく声をかけてくれる。


「……起きてる?」


「うん……クララちゃんは?」


「怖いけれど、落ち着いてるよ。自分でも不思議なくらい」


 クララの声にはかすかな不安があるが、それは私もだ。


 問題は恐怖。手や足が動かないのはマズい。

 でも今のクララにそれはなかった。


「クララちゃんはやればできるもの……」


 ネガティブになりやすいけれど、クララには勝負強さがある。

 いざという時のクララは頭も身体もフル回転して、狩人になってくれるのだ。


「えへへ……エリーザちゃんやベッセルさんの助けになれるよう、頑張るよ」


「……わふっ!!」


 シュバルツが突然、飛び起きて吠えた。クララがそばにある弓と矢を引き寄せる。


「ひぇっ!? な、なに!!」


「グルル……ッ!」


 唸るシュバルツが岩山の方角を睨む。ベッセルもすでに手元のクロスボウを持っていた。


「シュバルツが吠えたのか、今?」


「はい――異常があったみたいです!」


 私ももう弓を構えていた。狙うのはシュバルツの唸る先だ。

 空気が淀んでべたつき、霧の中にいるのかと錯覚しそうなほどだ。


「ぴぃ……?」


 むくりと起きたオーリが首を傾げる。彼女の目には異常が察知できないのか。


 だが、次の瞬間――オーリとシュバルツが同時に叫んだ。

 野原の端から巨大なヤギ、マーコールが姿を見せる。


 足元から頭まで、私の二倍はある。ベッセルやシュバルツよりも遥かに巨大だ。

 森の獣にしても違いすぎる。私の頭によぎったのは、もっと別の存在だった。


「……悪魔」


 マーコールの黄色い瞳は混濁しており、全身の黒茶の毛は柳をまとっているようだった。

 左の角は根元からなくなっているが、それこそシュバルツが折ったものだろう。


 年経た獣は賢く、危険になるという。このマーコールはまさにそうだった。

 ベッセルが素早くボウをつがえて、射撃態勢に入る。


 距離はまだ百歩以上、私やクララの弓ではどこまで効果があるか。


 だけど貫通力のあるクロスボウなら……!

 しかし、先に動き出したのはマーコールだった。ぐっと前脚と頭を屈め、力を貯める。


「ギィィ……!!」


 低く、金属を引っかいたような不快な鳴き声。

 耳を塞ぎたくなる衝動に襲われるが、踏みとどまる。


「シュバルツ、オーリ! 手を出さないで!」


 今、攻撃するべきは私たちだ。

 このふたりでは傷を負ってしまう。


 大地を蹴ったマーコールは恐るべき速さで私たちに迫ってきた。

 巨体に似合わない、肉食獣のような獰猛さで。


「ぐっ……!」


 ベッセルが唸る。巨体を縮めて迫るマーコールのどこを狙えばいいのか。


 迷ったベッセルが頭部を狙う。

 超人的な動体視力を持った私には、はっきりと感じ取れていた。


(……コイツも見てる!)


 マーコールの濁った瞳がクロスボウを捉えていた。


 ベッセルの放ったボウは大気を切り裂き、マーコールへと向かう――そのわずかな時間でマーコールは首をそらせた。


 ガンと鈍い音がして、ボウがマーコールの頭蓋骨をかすめる。

 信じられない光景だった。マーコールがボウを頭蓋骨の丸みで弾いたのだ。


 頭は駄目だ。防がれる。私は短く叫んだ。


「足を!」


「う、うん!」


 私とクララが構えた弓を放つ。


「ギィィ!!」


 マーコールが突進しながら、がくっと身体を落とす。そのせいで狙いを外された。


「――!!」


 私たちが真正面から放った矢はマーコールの肩に当たる。


 刺さりはしたが、致命傷には程遠い。足も止められない。

 マーコールは刺さった傷に一瞬も躊躇することなく、再加速する。


 シュバルツが唸って……飛び退いた。オーリも空に舞って退避する。

 マーコールはそのままベッセルに向かうと思ったが、違った。


 身体をひねったマーコールが走った先には私たちの荷物がある。


「しまった……!」


 マーコールは首を縮め、巨大な荷物をふたつくわえて走っていく。

 私たちを放置したまま。


 矢をつがえた私たちが狙う時には、すでにマーコールは背を向けていた。

 それでも矢を放つが……マーコールが首を向けると再び身体をひねり、尻尾を振る。


 私の放った矢は尻尾に刺さり、クララの矢は臀部に刺さった。


「ギィ……」


 顔を向けたマーコールは――紐をくわえながら笑っていた。

 そのままマーコールは私たちを無視して、森へと消えていく。


「ぴぃー!!」


 オーリが追跡するが、私たちの速度では彼女はおろかマーコールにも追い付けない。

 残された私たちは呆然するしかなかった。


「……なんて奴だ。俺とクララちゃんの荷物を持っていきやがった」


「分かっていたのでしょうか……?」


「匂いか、反応でか。両方かもな……」


 矢を構えたままのクララが悔しがっている。


「くぅ……食料を狙うなんて!」


 そう、白狼の村から来た私たちの食料はクララの荷物にあった。


 ひとりで来たベッセルは当然、自分の荷物に食料を詰めてきている。

 持っていかれなかった私の荷物にあるのは野営道具と水筒だ。


「くっそ、ヤバいな。……追うか、引き返すか。どっちがいいんだ?」


 ベッセルが迷っている。森で食料が尽きかけるのは、たまによくある話だ。


 森の獣は少なく、出くわさなければ帰るしかないのだけど。

 でもまさか、狩人の荷物を狙って持っていくなんて。


「主のせいでこの辺りに獣はいないんだよね……?」


 構えた弓を少し下げたクララの言葉。


「うん、鳥も昆虫もいない。追いかけるなら――相当危険だよ」


「俺たちを追い払うためか、それだけじゃねぇかもな」


「ど、どういうことですか?」


「ここから引き返すなら、切り詰めないと俺たちがしんどい。もし奴が弱った俺たちを狙うつもりなら……?」


 クララがごくりと喉を鳴らす。

 普通ならそこまでの知性はないと否定するところだが、計算しているのかもしれない。


「狼煙はエリーザちゃんの荷物にもある。討伐断念の狼煙を上げるなら、早いほうがいい。出直すのも全然ありだ、と俺は思う」


「……ベッセルさん」


「誰も怪我を負わなかった。奴の動きの癖も見れた。次の機会にも活かせる」


「ただ、それは奴も同じです」


 私はまだ警戒心を解かないシュバルツを見つめた。

 あんな化物と戦ったなんて、彼は本当に凄い。


「あいつは賢すぎます。もっと知恵をつけたら、包囲網を簡単に抜けられてしまうかも……」


「……確かにな。あいつの傷が癒えたら、北のほうは……」


 ここが正念場だ。進むか退くか。

 狩人としての能力と俯瞰した視点――さっきは不意を打たれた。


 マーコールに先手を取られてしまった。

 この戦いは私たちの負けだ。でも、相手も無傷じゃない。


「一度だけ、挑戦しましょう」


 私の言葉を聞いてベッセルがにやりと笑う。

 やはり彼も狩人だ。色々なことを考えながらも闘志は燃えている。


「聞こうじゃねぇか」


「クララちゃんは――」


「私は、ついていくよ。エリーザちゃんの考えたことなら、どこまでも」


「ありがとう……!」


 絶対にここで仕留めてやる。白狼の子の名にかけて。

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ