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【書籍化・コミカライズ】呪われたモフモフと追放聖女のもぐもぐ辺境暮らし  作者: りょうと かえ
黒いモフモフとの出会い

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10.行商人のカサンドラ

 私は歩きながらシュバルツを撫でる。


「とりあえず良かったね」


「わふー」


「ふふっ、よしよし」


 シュバルツはとても人懐っこい。

 第二広場に近付くと、太鼓や笛の音が聞こえ始めてきた。


 カサンドラはただ商売だけでなく、たまに大道芸人も連れてきてくれる。


 これは村の大切な娯楽だった。

 照りつける太陽の下、いくつもの色鮮やかなテントが立ち並ぶ。


 その中心に大柄な赤毛の女性――カサンドラが立っている。

 まだ随分と距離があるけれど、カサンドラがこちらに気付いて手を振ってくれた。


「おー! エリーザ! クララから話は聞いたよ!」


 いつ聞いてもカサンドラの声はとてもよく通る。

 カサンドラの隣まで行って、私は挨拶した。


「お久し振りです。お元気でしたか?」


「元気も元気さ、お陰様でね。あんたはちゃんと食べてるかい?」


 ぽむぽむとカサンドラから頭を撫でられる。

 彼女はこの通り、親しみやすく豪快な商人だった。


「で、その子がクララの言っていた【ワンちゃん】か……。そもそも犬なのかい?」


「違うと思います」


 訂正する機会がやっと来た。

 なぜだか、この村の人は皆シュバルツをワンちゃんと認識している。


「まぁー、ここの村人は犬も狼も見たことがないだろうしねぇ。どう見てもかなりデカい狼だよなぁ」


 カサンドラが顎に手を当て、シュバルツを見つめる。


「あたしも色々と見てきたけど……ライオンみたいなものかね」


「ライオン、ですか?」


 聞いたことのない名前だった。

 カサンドラが屈んで、地面に絵を描き始める。


「大陸西の草原が生まれの、とにかく毛並みが立派な猫さ。大きさは……こんなもんか」


 カサンドラがまず棒人間を描く――その横に頭に花が咲いたような猫。

 この花のような部分が全部、毛らしい。随分と大きくて派手な猫だ。


「シュバルツだっけか、この狼ももしかしたら西の生まれかもね」


「へぇー……さすが物知りですね!」


「よせやい。これは勘さ。でもこのライオンってのも賢いらしいし、あんたには気を許しているんだろう?」


「わっふ!」


 シュバルツがうんうんと頷く。


「……本当に賢いやね」


「こちらの言葉がわかるみたいで」


「なら、いいんじゃねぇか。それよりも問題はそっちの角のほうだね」


 カサンドラに促され、私は角を彼女に渡す。

 彼女はポケットからルーペを取り出し、じっくりと観察を始めた。


「ふむ……うん、なるほど……」


「……どうですか?」


「断面の魔力はダイヤ級だね。かなり危険な獣だよ」


 カサンドラがルーペを仕舞って嘆息する。


「主かどうか結論は出せないけど、ここまで魔力を宿した獣は早急に討伐したほうがいい」


「ラームさんも同じような結論でした」


「だろうね。しばらくは単独の狩り、安全の確保されてない狩り場への立ち入りは止めたほうが賢明だろうさ」


 ふむふむと頷くとカサンドラが角を返してきて、奥のテントを親指で差す。


「辛気臭い話はまぁ、ここまでにして……今回も色々と持ってきたよ。見ていくかい?」


「はい、もちろんです!」


 カサンドラが来た時の楽しみ、それは買い物に他ならない。

 奥の青色の大テントに入ると、そこにはきらびやかな品物が所狭しと並んでいた。


 にこにこ顔のキャラバンのおじさんが中央で見守っている。


「うーん、ううーん……!」


 テントの中で唸っているのはクララだ。何を見ているのだろう。


 ひょこっと覗き込むと、クララは包丁を見て悩んでいた。

 『ミスリル合金製 金貨二枚』と値札にある。


 金貨一枚でほぼ村の生活費一か月分に相当する……のでかなり高い包丁だ。


「貯めたお小遣いがあれば買えなくも、でも他にシェイカーとかのほうが……うーん」


 クララは物凄ものすごく悩んでいた。

 そんな中、カサンドラの元にキャラバンの人が慌てて走ってくる。


「姐さん、ちょっといいですかい?」


「あん? なんだい?」


「二人、体調が悪そうでして。ちょっと診てほしいんで」


「早くも森の風に当たったのかい。わかった、今行くよ」


 森の魔力は全てに影響する。

 カサンドラのキャラバンは水も食料も村から得ることはない。全部、持ち込みだ。


 それでも小雨や風に悪影響を受ける人は出てきてしまう。

 宵闇の森で生きる、ということは外からの人には生半可なことではない。


「ああ、ちなみにその角だけどさ。もし売るんだったら金貨八枚で買い取るよ」


「えっ、ええっ!?」


 去り際のカサンドラに言われて、素っ頓狂な声が出た。

 そんな高価な獣の部位は初めてだ。


「ぴぃ?」


 オーリがよくわかってなさそうに首を回す。


 と、とんでもなく高価な品だった。シュバルツから貰っただけなのに。

 こんな幸運でお金を持っていると落ち着かない気分になってくる。


「どうしよう……」


「ぴいっ!」


 オーリがずびしっとミスリル合金製の包丁とクララを交互に羽で指した。

 それで何を伝えたいか、私にはわかる。幸運は分割しなさいということだろう。


「そ、そうだね。……クララちゃん」


「はっ! エリーザちゃん、ラームさんやカサンドラさんとはお話できましたか?」


 どうやら調理器具を買うかどうかで全然聞いてなかったらしい。


「うん、まぁ……」


 そこで私はクララの肩をぽんと叩いた。


「その包丁、私が買うよ」


「ええっ!? 悪いです、そんなの……!」


「いいの。この角が結構な値段で売れるみたいで……。クララちゃんには料理でお世話になっているし」


「……はぁ、料理は私が好きだからしているのですけれど」


 クララは本当にいい子だ。私はクララの耳元でささやく。


「シュバルツはクララちゃんの料理が好きみたいだから――この包丁で頑張ってほしいの」


「……! なるほど、それならいい包丁で頑張らないとですねっ!」


 というわけで角を換金し、クララに包丁をプレゼントする。

 柄に入った包丁を掲げ、クララは感動していた。


「おっ、おおー! 軽い! さすがミスリル!」


「そんなにわかるほど重さに違いがあるの?」


「ええ、もちろん! これなら今までよりもたくさん料理できます!」


 さらにアカシカや角を売ったお金でどっさりと色々買い込む。

 主に食料品やらだけど。カサンドラのテントで買い込むのは本当に楽しい。


 両手に荷物を抱えながらクララとテントを出て、うふふと顔を見合わせる。


「ふぅ、買ってしまいましたねっ!」


「うん……でも仕方ないよね」


 カサンドラのテントにはクッキー、チョコレートといった甘い物、チリペッパーやチーズ、ソースなどがあるんだもの。どれも村では作れない。


 シュバルツにもたくさん食べさせてあげたいし、買うしかない。


「じゃあ、本当に包丁ありがとう……! 美味しいもの、作るからね!」


「うんっ!」


 クララが先に家へと帰る。私はこの程度の荷物大丈夫だし……他に人間の家族がいない私は、もうちょっと買い物をしたい。


 シュバルツ用の毛布とか、枕とか。

 食料や調理器具ではない日用雑貨は隣のテントのはず。


「よっせ、よっせ……」


 とりあえず運んでいると、シュバルツがわふと心配そうにこちらを見る。


「んー? これくらい、大丈夫だよ」


 シュバルツが眉をひそめる。


「ぴっ、ぴー」


 オーリがふにふにとシュバルツの頭の上で説明をした。


 とりあえず頷くシュバルツがそっと大きな袋を口に取る……。

 それくらいは持たせてくれ、という強い意志を感じた。


「……わかった、お願いね」


「わふぅ!」


 シュバルツが頼られて嬉しそうに尻尾を振る。


 自分のやることのあることのほうがいいらしい。

 手荷物が少なくして、隣のテントへ向かう。


「ふーん……」


 シュバルツの頭の横に枕を並べたり、体長と布を比べたり。


 小一時間ほど悩み、シュバルツ用の荷物を買い漁る。

 これで今日の夜からシュバルツも安眠だ。


「まいどありー」


「いえいえ、こちらこそまた今度ー」


 テントの商人に見送られ、外に出る。


「……あれ?」


 買い物に夢中で気が付かなかったが、空模様が怪しい。

 むしろかなり暗くなって、空気が湿っている。


「あっ……」


 ぽつりぽつりと雨が降り始める。夏の天気は変わりやすい。


 キャラバンの人がささーっと屋内に避難していく。

 困ったな、食べ物が多いから濡らしたくはない。テントで雨具を買うしかないか。


「お困りなら、送っていきましょうか」


「ランスターさん!」


 声をかけてくれたのはキャラバンの護衛、大振りの傘を差した騎士のランスターだ。

 見上げるほどの偉丈夫、たなびく金髪――爽やかな笑顔のまさに紳士だった。

【お願い】

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