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日常
朝の森は、息をひそめるように静かだった。
ときおり野鳥の声が響き、朝日が昇ると朝露が光を弾いて辺り一面がきらめく。
そんな森の中を、一人の少女と黒い狼のような生き物が歩いていた。
「スピカ、足元に気をつけるんだぞ」
黒い狼は、少女をそう呼んだ。
「わかってるってば……」
スピカの赤みがかった癖のある髪が、歩くたびにふわりと揺れる。
「ロウは心配しすぎだよ」
「お前はいつも転んでいるじゃないか」
ロウと呼ばれたその狼は、辺りを警戒しながらスピカの後をついていく。
「この先にね、クルクルが生えてるんだよっ……わっ!」
スピカは案の定、何かにつまずいて転んだ。
「まったく……毎日飽きないな」
「いてて……好きで転んでるわけじゃないもん」
服についた泥を軽く払い、スピカはまた草木の間を進んでいく。
やがて、木々の切れ間から光が差し込む開けた場所に出た。
そこには、先端がくるりと巻いた薬草が群生している。
スピカは持ってきた籠を取り出し、「クルクル」と呼んだ薬草を丁寧に摘みはじめた。
「ふん♪ふん♪」
「はぁ……時間がかかるな」
ロウは楽しそうなスピカを横目に、休めそうな場所を見つけて体を横たえた。
心地よい風が通り抜け、森の草木の香りが鼻をくすぐる。
警戒を怠らぬまま、ロウはそっと目を閉じた。




