野天風呂完成
「川?……近くには無いわよ。」
Orz…シエルに聞いたらあまりの無情な答えに膝をついてしまった。
えぇぇぇ…排水どうする?
ほっといてもそのうち川になって流れて行くとは思うけど……そんな勝手な事で良いのか?
いや、いかんだろ!
でも、じゃあどうする?
うーんと唸っていたらシエルがアイデアを提案してくれた。
「優耶が初めの頃に寝泊まりしてた薬草草原の端は崖になっているんだけど、そこに落としたら?」
オイオイ!
なんて恐ろしいこと言うんだ!?
「下に村とかあったら迷惑だろ?」
「この島で人が暮らしてるのなんて海岸近くかあの山脈の向こう側なのよ?崖下は森しかないって!」
「そ、そんなに離れた所にしか文化圏がないのか!?」
オドロキである!
まあでも、じゃあ崖から落とせば良いか。
どうせクリーンが常時発動してるから排水も綺麗だし。
次の日、俺は森の中の風呂から薬草ばかりの草原を抜けて崖の端まで排水溝を作った。
1泊2日で排水溝作りから帰ってきて次の日、土操作魔法を駆使して風情たっぷりの滝を作っては直し、作ってはやめてまた違う滝にしたりと推敲を重ね納得がいく物が出来たのはその日の夜だった。
次の日、朝からチラホラといつも来る動物達がやって来た。
「風呂はまだだぞ〜仕上げが有るからもうちょい待っててな!」
俺がそう言うと言葉が通じたのかスイッと去って行った。
俺はクリーンの効果を付与した魔石を浴槽の中心部に埋めた。
こいつは常時作動させるから埋めた段階で効果をonにする。
うん。
ちゃんと作動してるな。
次にお湯を出す効果を付与した魔石にさらに怪我や軽い病気を癒す効果を付与しようとした。
「ん?」
付与しようとしたが、定着しない。
俺のやり方が違うとか?
魔石を目の前でくるくる回しながら考えていると、肩に座ってたチビシエルと背中のネフが覗き込んできた。
「優耶、どうしたの?」
「ん〜?いや、付与しようとした魔法がなんか定着しないから、どうしたんだろう?って思ってさ。」
俺は簡単に理由を説明した。
「全然何も定着しないの?」
シエルの不思議そうな質問に、落ちついて自分のやった手順を思い出す。
まず宝石に自分の魔力を満杯に込めるだろ?
淡く光っているからこれは魔石化してるのは確実だ。
それで、お湯を出す効果を付与しただろ?そういやそれはちゃんと定着した手応えがあった。
「……んで、ついでにヒールも付与しようとしたら、それが定着しないんだよ。」
うーんとうなりながら説明した。
「……はァ?」
するとAIとは思えない呆れを含んだ返事が返ってきた。
「…優耶ぁ〜さすがにそれは無理だよ。」
やれやれと首を振りながら肩をすくめて無理無理〜とシエルが俺の肩の上でジェスチャーをする。
「無理かな?やれそうな気がするんだけどな。」
そう言いながら魔石を摘む。
日に透かすと大豆ぐらいの大きさの魔石が淡く黄色く光っている。
「水を作り出す。作り出したその水を温める。それだけでその魔石はいっぱいいっぱいよ?そこにさらに効果を付与するなら魔石はもっと大きくなくちゃ!」
…付与する魔石の容量の問題だった。
「そういう事かぁ〜」
俺は手持ちの魔石を物色するが、同じくらいの大きさばかりが有る。机の上に並べて比べてみるが多少の差しかない。
「この3個分くらいの大きさが良いんだよな…」
「そうね、それくらいの大きさは欲しい…ん?」
俺が魔石三粒持ってそう言った途端、ぽわんと、三粒の魔石が可愛らしく光った。そして光が収まるとそこには1個の魔石が淡く光っていた。
「「……」」
えっ…っと。
「魔石ってくっつくんだー」
「……」
驚きすぎて感情の乗らない俺の言葉に固まったまま返事もくれないシエル。
まあいいや。
俺はそのひと塊になって大豆から花豆くらいの大きさになった魔石に、ヒール効果のあるお湯が出るように効果を付与した。
「よしッ!今度はちゃんと出来たぞ。」
俺はうきうきとその魔石を湯船横の滝の裏に設置した。
「じゃあお湯出すぞ!起動!」
魔石が作動し始め、滝からお湯が溢れ出した。
「うんうん。こんな雰囲気の滝、良いよな〜」
俺は満足しながら滝から流れ出てくる湯を見ていたのだが、ある重大な事実に気付いてしまった。
「コレ…溜まるまでにどんだけかかるんだ?」
1日はかかりそうな感じだ。
無理だ。
せっかく出来たんだから早く入りたい。
さっき来た動物達にはまだまだって言ったけど、ここまで来たら今すぐ入ってみたい!
「……せいっ」
俺の掛け声と共に大量のお湯が湯船に溢れる。
ヒール効果は付けてないがとりあえずお湯だけ張った。
一瞬でホカホカと湯気の上がる野天風呂が完成したのだ。
とりあえず、一番風呂は俺がいただこう!
試しに入るのは大事だもんな。うん。
早速服を脱ぎ端から入って行く。
ちょっと温い。
温水プールよりは温かいが人間用の風呂よりは温いって感じか。
野生動物は人間より低い温水じゃないとダメだから、まあこれくらいかな。
この野天風呂は人様の風呂と違い階段状に深くなる構造だから入ったら即ドボンとはならないが、中心部は水深1mだからそこまで行くと結構深い。
中心部手前二段目位で座ると丁度いい感じだ。
シエルもネフもお湯に浸かっている。
二人とも気持ちよさそうだ。
俺は滝のそばに寄った。
ここは熱めの湯が出てるから俺好みの温度だ。
「んぁぁ……最高じゃん…」
さわさわと揺れる森林
見上げれば青空
木々の間を抜けて降り注ぐ陽の光
揺れる水面に踊る反射光
ざあぁぁっ…と流れる水音……
「ん?」
水音……多くないか?
気持ち良さに閉じていた目を開けると、大小様々な動物達が既に湯に浸かっていた。
何処かで待機していたのか、驚くべき情報収集能力である。
これが野生の勘という物なのか!?
こうして森の中に野生動物の憩いの楽園が始まったのである。




