【第1話】登場!エリーをよろしく
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2732年、地球は人口爆発とそれに伴う資源枯渇という未曾有の危機に直面していた。国連は人類存続のため「第二の地球」を探すべく、特別探索部隊――通称 S.E.T.(Space Exploration Team)隊を結成。新進気鋭の新入り隊員エリーをはじめ、多彩な能力を持つ隊員たちは、変形機構を備えた巨大戦艦サザンカに乗り込み、銀河の彼方へ旅立つ。
これは、未知の惑星を巡り、風習やトラブルに翻弄されながらも奇想天外なハプニングで笑いを起こしつつ、「第二の地球」を求め続ける彼女たちの愉快な航海譚である。
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【AM 12:00 サザンカ艦メインルーム】
マリア:「紅茶を淹れてきました〜。召し上がれ」
レイ:「おお、良い匂いじゃん」
レイは紅茶の匂いを嗅いだ。財閥家の娘だったマリアらしく、上品な匂いであった。
レイは口にカップをつけ、傾けたが。
レイ:「ぶはァッ」
マリア:「ちょっ、吐き出すなんて酷いですわ」
レイ:「酷えのはどっちだよ?! 熱い飲み物は出すなって言っただろ!」
マリア:「言われてないですよ! 3000キャピタルしたのに」
レイ:「値段なんざ関係ねーよ!結局は作る人の質だよ」
マリア:「なんですって?! 私が悪いとでも?!」
レイ:「そうだよ」
マリア「まったく、小さいくせに生意気な方で……」
リーネ:「お静かに。見苦しい」
割り込んだのはリーネ参謀である。
リーネ:「今朝も揉めてましたよね」(座って書類を整理しながら)
レイ:「だって、こいつが……んっ」
マリア:「参謀、こいつ何とかならないんですか?」(レイの口を押さえながら)
リーネ:「なりません(断言)。リリス・タチバナ隊員をみてください」
2人は奥で黙々とコンピュータのファイル整理を行っている少女がリリスである。手話で話すのが一般的な惑星ネクロンで育った為、あまり口を開かないが、代わりにS.E.T.隊員の中ではトップクラスの分析力を誇る。
リリス:「リーネ参謀……、通信が入っています」
リーネ:「了解」
各メンバーはモニターの前に向かう。
通信:「こちら地球。S.E.T.隊のリーネ・イザヨイ参謀、マリア・カラスマ、レイ・ルシファール、そしてリリス・タチバナに告ぐ。現在、サザンカ艦の近くに降りられそうな天体があるので、タクティカルスーツを着て行ってみてほしい」
リーネ:「了解しました。それでは、スーツアップ用意を」
3人:「はい!」
4人は胸のエンブレムに拳を当てる。
4人「スーツアップ!」
しばらくすると、4人の細い身体にタクティカルスーツが装着された。
リーネ:「マーズビーナス、スーツアップ完了!」
マリア:「ドールウイング、スーツアップ完了!」
レイ:「ガンイカロス、スーツアップ完了!」
リリス:「サイレントラビー、スーツアップ完了!」
リーネ:「行きましょう!」
3人:「はい!」
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【PM 2:30 謎の惑星の市街地】
各メンバーは、ジェットパックを使用して市街地に降りた。
マリア:「うわぁッ、臭い場所……。吐き気がする」
レイ:「いつもみたいにゲロ吐くなよ。お前みたいな神経質な女は困るよ」
マリア:「わたくしからすれば、貴女のような乱暴な女性も困りますがー?」
レイ:「いやいや、金持ち自慢してくるあんたも困る」
マリア:「じゃあ胸が小さい貴女も見苦しいですよ〜」
レイ:「う、うるせー!あたしはまだ14歳だよ。発展途上!」(顔を赤くして)
マリア:「でも大半の女性の胸の大きさは、15歳から変わらないんですよ〜?」
レイ:「あんたはタクティカルスーツの装甲で胸の大きさを盛っているだけだろ?」
マリア:「わたくしのが小さいとでも?!」
リリス:「あの……、ちょっと……」
リリスが2人の肩を叩き、割り込む。
リリス:「リーネ参謀、行ってしまいましたよ……?」
2人:「あーっ!」
リリス:「喧嘩なんて……、非効率的なのでやめてくださいよ……」
マリア:「し……、しまった……。わたくしとしたことが……」
レイ:「おい、マリア。あんたがゲロ吐く前に行くぞ」
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【PM 2:40 誰もいない市街地】
その頃リーネは、生命反応をレーダーで探していた。
リーネ:「誰かいるような……?」
リーネはレーダーを見つめながら、静かに廃ビルの前に立っていた。
リーネ:「間違いなく……この中に反応がある。敵か、あるいは……」
慎重にハンドガン型スキャナーを構えると、そっと扉を開けて中に入る。
リーネ:「……ん?」
その瞬間、床を抜けるような音とともに、リーネの足元のパネルが“ガコンッ”と沈んだ。
リーネ:「――ぅわっ!?」
ドサッ!と大きな音をたてて落ちてしまった。
【PM 2:43 廃ビル・地下室】
リーネは柔らかい何かの上に落ちていた。
???:「ひゃうっ!? 痛ぁい……」
リーネの下で、ふにっとしたクッションのような感触とともに、くぐもった声がした。
そこにはブロンドで、明るい目をした少女が仰向けになっていた。
???:「こんにちはーっ! 鎧着ているんですか? あたし、エリー・クサナギ! 突然落ちてきたけど、大丈夫ですかー?」
リーネ:「あなた……生命反応の正体?」
エリー:「そうでーす! あたし、転送ポッドのトラブルでここに落っこちちゃって、出られなくて……3日間もこの地下でヒマしてたんですぅ〜!」
リーネ:「それは……それはそれは……お疲れ様でした……」
エリー:「えへへ〜、でもおなか空いて……うう、そろそろお味噌汁の幻が見えてきましたぁ……」
リーネはヘルメットを外し、背中のバックパックから非常食のビスケットを差し出す。
リーネ:「これを……。あとで補給分、請求します」
エリー:「神ッ!? いや、女神様ッ!? ありがとうございます〜〜ッ!!」
リーネ:「……一応、あなたを保護対象としてサザンカ艦に連れて帰ります。あとで全員に自己紹介をしてください」
エリー:「りょうか〜い♪」
リーネ:「ジェットパックを使うのでしっかりつかまっていてください」
ブオオオオオン……!
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【PM 3:00 市街地・再集合地点】
マリア:「リーネ参謀、いったいどこに……」
レイ:「あれ、なんか連れてるぞ?」
エリー:「はじめましてーっ! エリー・クサナギですっ! これからよろしくお願いしまっす!」
マリア:「うわ、汚くてボロボロの服なこと……。吐き気が……、ゥ……」
レイ:「元気そうだけど、何で服ボロボロなんだよ」
エリー:「地下で寝袋にくるまってたらネズミにかじられたんですよぉ。それにお風呂がないから、せめて水浴びだけしようと思って池に行ったら、工業排水で汚れていましたし〜、おトイレもないから隠れてするしかないですし、いざしてみれば変な虫が集まってきますし……」
マリア:「そんな環境、よく3日も……、吐き気が……」
リリス:「なんだか……S.E.T.隊がさらに騒がしくなりそうですね……」
リーネ:「……あの、とにかく生命を保護できたので、もう少し探索したら帰還しましょう」
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【PM 5:00 サザンカ艦内】
リーネ:「あの惑星は無人星だったみたいですね。じゃあ自己紹介しましょう。私は惑星グラビオン出身、リーネ・イザヨイです」
マリア:「わたくしは惑星ルミナス出身、マリア・カラスマ。よろしくです」
レイ:「あたしは惑星ヴァルハラ出身、レイ・ルシファール。よろしくだ!」
リリス:「私は惑星ネクロン出身、リリス・タチバナ……」
エリー:「えへへ、改めて私は地球出身、エリー・クサナギです!よろしくお願いします!」
4人「おお〜、地球人!」
エリーは一人ずつ握手をした。
リーネ:「自己紹介が終わったので、各自休息をとってくださいね〜」
エリー:「じゃあ私、久しぶりにお風呂入りたいです〜」
レイ:「あんた3日分のいろいろが蓄積されて臭いから早く入ってこい!」
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【PM 5:00 サザンカ艦内・浴場前】
エリー:「きゃ〜っ! お風呂!お風呂ですよ〜っ!天国ってありました〜っ!」
タオル姿のエリーは、スキップしながら浴場に飛び込んでいく。
レイ:「そんなに嬉しいか?」
リーネ:「まあ、あの汚れ具合を見たら……当然でしょう」
マリア:「浴場を汚染されないことを願いますわ……」
リリス:「浴場センサー、異常なし……。いまのところ」
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こうして、S.E.T.隊は新たな仲間、エリー・クサナギを迎えることができた。
しかし、これは遊びではなく、任務である。
彼女たちは第二の地球を見つけることができるのだろうか?
頑張れ、エリー!
【続く】