第8話 スター選手の秘密
「カキーン!」室内に快音が何度も響く。
広島東洋カープのスター選手のバッティング練習を食い入るように見つめるコージだ。
さすが、見事なバッティングにコージは酔いしれた。
しかし、不思議なことにスター選手は首をひねって不満な顔つきだ。
「なんでだろう?会心の当たりを連発しているようにみえるけど」
不思議でならないが、コージはとにかくスター選手を追い続けた。
コージの思いに気付いたのか、スター選手は
「オレが追い求める打球はこんなもんじゃない。自分で納得するまでやめないぞ」
なるほど、スター選手が自分にOKを出すまではやめないんだな。やっぱり一流のプロはファンの知らない所でスゴイ努力をしているんだな。
改めてコージは感心したのだった。
時計の針は日付を跨ぐほどになっていた。バッティング練習は既に3時間を超えていた。
「さすがにそろそろ終わるだろう。良い勉強できたなぁ」
コージは満足していた。
しかし、打球音はやまなかった。いつしかコージも時間を忘れていた。
「よし、終わりだ」
スター選手がコージを見てやっと笑った。
室内練習場の時計は午前2時を指していた。
「コージ、最後までよく付き合ったな。お前がプロに入ってくるのを待っているぞ」
スター選手から直筆サイン入りのバットをもらって別れた。その選手はその後に2,000本安打を達成するなど歴史に名を残すまさにスターだった。
「父さん、オレますますやる気がでたよ。天才打者もその影にはスゴイ努力があるんだね」
コージの一生の思い出になりそうな出来事だった。
父もスター選手に感心したが最後まで見続けたコージの姿を嬉しかった。
「そうだな。素晴らしい時間を過ごせたな。また頑張ろうな」