第四話 まさかの転向
テニスに熱中するあまり
「オレ、将来はプロテニスプレーヤーになりたい」
両親にそんな事を言うほどになった。
コージの未来を想うと家族は楽しい空気に包まれた。
コージは中学生になり当然のように部活動はテニスを選んだ。このままずっーとテニスを続けていくのだろう。両親はそう思っていた。
あの日、コージからあんな言葉がでるなんて……
あの日を境にコージの汗と涙の雫のストーリーが本格的に始まるんだ。
コージが中学一年の秋、突然彼は言ったんだ。
「ちょっとワガママを言ってもいいかな?」
いつになく真剣な顔をしていた。
両親は少し構えながらも、冷静を装って「ん?どうした?」
コージは力強い眼差しでこう言った。
「オレ、テニス部辞めて野球部に入りたい!」
まさか、まさかの言葉だった。これこそ晴天の霹靂だ。
コージは落ち着いて、しかし強くて熱い口調で
「テニスは面白いけど、部の雰囲気が悪くて自分に合わない。みんな緩すぎて真剣にやっていない。そんなのはイヤなんだ」
コージは令和の中学生だが、中身は昭和の香りが漂う少年だった。両親はコージの性格をよく分かっているので、その言葉の意味もよく理解できた。
「そうか。お前の考えはよく分かった。でも、今まで頑張ってきたテニスを辞める事に後悔はないのか?」
この問いかけにもコージの表情は変わらなかった。
「後悔はないよ。オレは野球がやりたいんだ!」
この少年の決意を止められるものは何もなかった。
父親が夜にナイターを観る時でも、コージはあまり興味を示さなかった。そのコージがテニスから突然、野球に転向することを決めたんだ。