第三話 父との会話
少しミスっただけで気持ちが激しく揺らぐ。コージも自覚していたが自分をコントロールできない。
「動揺するとラケットが振れなくなるよ」
コージは泣いてしまうこともあった。ただの練習なのに。
父は考えてアドバイスしてみた。
「だったら得意なショットを身につけたらどうだ?それで自信を持ってテニスできるんじゃないか?」
コージも耳を傾けて
「サーブを得意にしてみたい」少し気持ちが前を向いた。
父は喜んで
「時間がある時に二人で練習しよう」
「よし、やろう!」コージも乗り気だ。
「よし、今の良いぞ」「もう一丁だ」
父がボールを拾ってコージに渡す。そしてコージがサーブを打つ。日が沈んでもやめようとしない。
「父さん、俺はまだまだ打てるよ」
コージも父に応えて懸命にラケットを振った。
父とコージの交わす言葉は少なかったが、気持ちは通じていた。ボールを通してココロで会話していた。
「コージ、お疲れさま。この後メシ食べよう」
「やった!ラーメン食べたい」
「ハハ、お前はいつもラーメンだな」
サーブ練習後に、コージは大好きなラーメンを食べて父はビールを呑む。こんは日々が続いていた。
不安定なメンタルを克服することは容易ではないが、コージなりに努力して自分自身と向き合おうとした。テニスが好きな気持ちも変わらなかった。
コージの将来の可能性に夢をみる両親だった。