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化け猫の日常

作者: Hora

吾輩は猫である。名前はまだない。


…ん?名前をつけてもらっていないのかって?そんな事は無いぞ。名前が「まだない」なのだ。

ただそのように呼ばれたのは最初の一回だけで、今では「まー」とか「まーちゃん」と儂は呼ばれている。


 儂が前の飼い主と死別し、野良猫としてこの街にやって来る。この付近のボス猫をシバキ回しボスの座を得る。数日後、今の飼い主の香絵(かえ)に捕獲された。ちゅーる(・・・・)とやらにやられた。あれは強すぎる。幸い香絵(かえ)の選ぶ首輪は儂好みの強そうな漆黒でトゲトゲのついたもの。晴れの日は2階の窓を開けっぱなしにしてくれており、外へは自由に出入りできる一軒家であったので、その家を拠点に居付くことにしたのだ。


 儂は奈良時代が始まる直前、古墳時代後期に高貴な身分の人間から猫に転生した化け猫と呼ばれるものである。後期に高貴な…はダジャレでは無いぞ。以降、記憶を引き継ぎながら転生しその都度に尾が分かれ猫又、猫魈と、存在を進化させている。

鹿児島では儂のことを猫神(ねこがみ)、沖縄では鞍掛け猫(くらかけみゃ)、栃木県では金花猫(きんかねこ)、北陸では猫多羅天女(みょうたらてんにょ)として奉っている。メスぽい名前が多い気がする。儂は雄なのだが。ふむ。すでに尾の数は100を超えているが束ねて1本に見えているので街中をうろついていても問題ない。歴々の飼い主に「偉そうにしている」と言われるが、実際に儂は猫界では偉いのだ。


 儂にはついて回る下僕が2人いる。どちらも霊体であり、この1000年程、近くをちょろちょろとしておる。

 1人目は4回前の氷河期「ギュンツ氷河期」の頃に仲間から手ひどい裏切りに会いタコ殴りにされて無念の内に死んだサル顔のベー(・・)。当時はまだサルだったのか?と言うとひどく悲しそうな顔をする。ギュンツ氷河期の頃のホモサピエンスはすでに顔立ちや知能が現代人とそう変わらない。ただベー(・・)がサル顔なだけである。


 2人目はフローレス原人のヤー(・・)。身長は90cm程しかなく、ホビットのモデルとされている原人だ。存亡をめぐって1万2千年程前にネアンデルタール人、ホモサピエンスと三つ巴の最終決戦を繰り広げていたが、同盟を組んだネアンデルタール人に裏切られ、同じフローレス原人にも裏切られ失意の果てに死んだらしい。怨霊となり

「その後ネアンデルタール人を俺が呪い殺して絶滅させた」

とのことだが…、絶対嘘である。


 霊体というものは成仏せず長くある方が基本的に力が強い。周囲の怨念や霊体を被り積もっていくからだ。霊力を持つ人間、つまり霊能力者、陰陽師、霊媒師、いたこ(・・・)といった者でも、その根源となる霊の存在は見抜くことができないようだ。なので

「先週事故で無くなった女性が交差点に見えます」

「この部屋で自殺した男性の霊がこちらを見ています」

と、直近もしくは表層の2,3層の怨霊しか見えていない。縄文時代の棍棒を持った霊が見えます。なんてことを言う霊能力者はいない。平氏の怨霊が…、、、こんなことを言うヤツは偽物、ペテンである。物に宿る場合は例外に存在するのだが。


 さて、こんな1匹と2人であるが、最近飼い主である香絵(かえ)に不審な存在が取り憑いている。どうも300年程生きた妖狐が香絵(かえ)を狙っているようなのだ。ちなみに当然だが霊ではない。儂と同じ化け物の類だ。最初にその存在を確認したのはサル顔のベー(・・)。スーパーで買い物帰りの香絵(かえ)にその妖狐が舐めるような視線を向け、その後に自宅までつけていたと報告してきたのだ。よくやった。バナナを分けてやる。

 現在その狐がいる位置については原人のヤー(・・)が調べて来ている。家の近くの林に潜伏しているようなので早速1匹と2人で乗り込む。


ベー(・・)ヤー(・・)の関東最強クラスの霊が近くにいると他の霊が寄って来ずに騒々しくはないが、そのベー(・・)ヤー(・・)が騒々しい。どちらが儂の寵愛を受けるだとか、近くにいるだとか、お前ら雄だろうが。気持ち悪い。さて、林に到着し呼びかけると程なくして妖狐とやらが出てくる。


「あの、どういった要件でしょうか?」

腰が低い。相当にビビっているようだ。

「儂の飼い主の香絵(かえ)の後を何故つけるのか?」

「ひぃぃ。そのようなつもりはございません。私が腹を空かせていたところ、あの娘が私にいなり寿司をくれたのでお礼がしたく居住地の確認に参っておりました。」


あぁまたか。香絵(かえ)は霊能力は無い癖に、人間以外の動物・霊体・化け物に非常に好まれ、引き寄せる体質なのである。お人好しであるので、木のうろにハマって抜けなくなったカラスを助けては家の庭にお礼にビーズやらガラスの破片やらが投げ込まれたり、溝に落ちて上がれなくなったリスを助けては、玄関近くにどんぐりが大量に置かれていたり、などは日常茶飯事である。まぁ儂もその口であるので何とも言えないが。


「そうじゃったか。ではお礼の品とは何を考えておる?…む。蛇とカタツムリ?辞めろ。街住みしとるのに人の好みも知らんのか!」

「ひぃ!すみませんでしたぁ!」


こうして本来であれば大量の妖怪や怨霊を連れて帰ってしまう体質の愛すべき香絵(かえ)であったが、1匹の化け猫と2匹の霊によって今後も平和は守られるのであった。


「まーちゃん。ちゅーるあるよー」「なぁー♪」

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