プロローグ
二二△□年 初のVR型MMORPGが発売されて既に五年の月日がたったこの年、今では知らない人がいないほど有名になるゲームが発売された。
その名も、ゲーマーズ・レコード・ワールド。
通称GRWはゲームという概念だけでなく、幅広く人々の日常生活の中に入っていった。
それは娯楽はもちろんマーケティングだったり、行政や教育の分野にも用いられた。
その理由が自由度の高さと運営の神のごときプログラミングとセキュリティのなせる業だった。
GRWの中では何でもできたのだ。
RPGではおなじみの冒険や探検だけでなく、家や家具、道具を作るクラフトや、人を集めてのコミュニティの作成もできた。
だが、今までのボタンを押せば時間も手間も必要なく何でもできるゲームとは違い、実際に手を動かし行動しなくてはいけない面倒臭さはあった。
例えば、冒険に出るのに剣を作ってもらわなければいけなかったが、現実世界のように鍛冶師が手間暇かけて作らなくてはいけなかったのだ。
ゲームとは思えないほどの再現度で。
しかし、そのおかげで世界中の人が世界を学ぶことができたのだ。
鍛冶だけでなく、農林水産関連だけでなく、書類作業などの事務関連や、土木業等様々な分野、世界文化まで学ぶことができた。
唯一学ぶことができないのが銃などの軍事関係だった。
一様、GRMは西洋の中世をモデルに剣や魔法がある世界だったからだ。
こんな世界でも最初は山一つ村一つの小さなゲームだったのだが、毎週あるアップデートの度にマップが広がっていき今では一つのワールドのマップを端から端まで移動するのにゲーム内の時間で普通の人では半年もかかるくらいに広くなっていたのだった。
そして、様々な現実世界ではありえない要素が加えられていった。
レベルアップから始まり、魔法やモンスター、モンスターの育成、そして、転生システムが例に挙げられる。
遊びつくせない、強さに差はあれど最強は作れない、すぐに新たな要素が加えられるから飽きない。
内容はそんな感じだが、他のゲームではまねできない要素があった。
それが、ゲーム内思考加速だった。
ゲームの中の時間が現実世界よりも早いのだ。
このゲームでは一週間ゲーム内で過ごすが、現実に戻ると二時間ほどしかたってないのだ。
だから、何かを学ぼうとするのに時間がかかる物や、長期で旅行に行きたい人などもこのゲームにはまっていったのだった。
それが、GRWだった。
ここまで話に付き合ってもらってすまないが、ここまでの説明を忘れてもらって構わない。
GRWも今日で終わりだからだ。
GRW歴、三〇年の俺はその時をギルドメンバーと一緒に待っていた。
三ヶ月前に突如運営側より終了のお知らせが送られてきた。
運営は世界が完成したから終了します、みたいなことが書かれていたが、実際はGRWが発売されて月日がたち技術が進んだことで模倣ゲームがたくさん生まれたのが理由だと思っている。
(さすがにゲーム内思考加速はまねできなかったみたいだが)
その中には国が運営するものもあり、教育関連や行政もそちらに流れて行った。
他にも心無い人からアップデートのマンネリや批判する声も多くなった。
それでも、GRWの熱狂的ファンは数万以上はいたはずだ。
だからこそ、終わらないでほしかった。
『皆さん、このゲームで何が一番楽しかったですか?』
『やっぱ、クラフトだろ! 俺は城を建てたぜ』
『何十年もかけて一人で城を建てたのは、あなただけですよ』
『私はやっぱ魔法ですかね』
『もう、新魔法大全も読めないのか』
『バトルだろ!? バトル! モンスターも超リアルでさ』
ギルドのメンバーが思い思いにGRMを語っていく。
それぞれがGRWが大好きだったのだ。
私も参加するか。
私が一番好きな要素といえばあれしかない。
『転生ですかね』
『うわ、マゾ』
『強さを求める人なら一度は体験するあれですか』
『あれを好きとか言えるのはギルマスだけっすよ』
転生とはレベル百以上になると行えるシステムで、自分が育てたキャラのステータスの十パーセントとスキルの一パーセントをランダムでを次のキャラに引き継ぐことができるシステムだ。
このゲームのステータスは初期値の数十パーセントがレベルアップごとに加算されていくシステムで、最初のキャラメイクでは良くてすべてのステータスが十程度だが、転生するとその初期値が十を超えるのだ。
最強を目指す人は少なくても数回は転生するし、俳人プレイヤーは十回以上転生するのだ。
『ギルマスって百回以上は転生してますよね』
『いや、無理だろ。ギルマスでも数十回が限度だろ』
今度は俺の転生回数について話が盛り上がっている。
こんなバカ話をするのも今日で終わりか。
このギルドでは現実世界の情報を聞いたり、漏らすのはルールで禁止しているのだ。
ギルド【夢魔境】は夢の中ではいけないからだ。
『で、実際どうなんですか?』
『え、ああ。八十九回、かな』
『さすがに、百回は無理でしたか』
『いや、十分頭おかしいって』
『まあ、頭おかしくなかったら、このギルドのギルマスなんてやってませんよ』
『『『確かに』』』
酷いなあ、みんなは。
まあ、噓をついた私もひどいが。
実際は百十九回も転生しているからだ。
ごめん。
話が弾み、そして一刻、また一刻と時間が進んでいく。
そして、もう十数分で終わる。
その時だった。
~ 転生のお知らせ ~
皆様、今までのご愛顧いただきありがとうございます。
皆様のおかげで無事世界を作ることができました。
無事生命の定着もうまくいきました。
つきましては完成した世界に多くの貢献してくださった数人プレイヤーを転生したく思います。
この世界を捨てる覚悟がある方はメールの返事をお待ちしています。
『なんだ、これ?』
『ギルマス、どうしたんで?』
『転生のメールが来た』
『転生し過ぎて、ギルマスのシステム狂ったんじゃ?』
そうなのかな?
でも、もう少しこのゲームができるなら。
そう思って、私はメールの返事を運営に送ったのだった。
『あ、私にも来た』
ギルドの誰かの声。
その瞬間、私の視界が暗転したのだった。
初投稿です。
よろしくお願いします。