片思い女と最低男
初投稿です。
至らぬ点が多々あると思いますが、多めに見ていただきたいです。
ある大学構内を、一人の女が歩いていた。
その女は誰かを探している様子で、視線をあちこちに飛ばしながら、人通りの少ない構内を悠然と歩きまわっていた。
ふと女が立ち止まり、その視線が一点に定まった。
その視線の先には、ベンチに腰掛けている一人の男の姿があった。
その男が誰だかを認識すると、女は少しの間何かを考えている様子だった。
やがて考えがまとまったのか、女は軽い溜め息を一つ吐くと、心持ちゆっくりとなった足取りでベンチへと歩み寄った。
ベンチに腰掛けていた男もしばらくすると、自分へと歩み寄ってくる存在に気がついた。
そしてその人物が誰だか分かると、一瞬で笑顔となって女へと話しかけた。「君の方から俺の所へ来てくれるとは珍しい。ちなみに俺の今週末の予定は白紙で、都合の良いことに今俺のポケットの中には映画のチケットが2枚・・・」「悪いけど・・・」
女は冷たい声で、男をセリフの途中で遮った。
放っておいたらこの男は延々と自分を口説き続けるであろうことを、女はここ1ヶ月の付き合いですでに学んでいた。
「私はあなたの事には興味ないの。私が興味を持っているのは、あなたといつも一緒にいる彼の方。彼、今どこにいるか知らないかしら?」
女がそう尋ねると、男はわざとらしく肩をすくめながら、軽い溜め息と共に言葉を発した。
「『風邪気味だから早めに帰る』と言ってたから、多分、今頃は家じゃないか?もっとも・・・」
ここで男はニヤリと笑って
「あいつの言ってた事がホントなら、だがね」
と、まるで女の反応を試すかのような言葉を紡いだ。
「ハイハイ・・・」
一方、その言葉を紡がれた女の反応はいたって淡白だった。なぜならば、
「あなたの言うことを全部信じるならば、彼は昔から手当たり次第に女性を喰い物にしていて、今も七人の女性と交際中。しかもそのうち二人には家庭があって、彼女達から貢いでもらったお金で休日はギャンブル三昧、当然、今頃は授業をサボってパチンコに勤しんでいる、ということになるわね」
女の口調はいくらか皮肉じみており、男を見る視線はさらに冷たさを増していた。
「そう!その通り!」
だが男は女の冷ややかな態度を気にした様子もなく、わが意を得たとばかりに上機嫌にうなずいた。
「いやぁ、さすがだね。みんなはあいつの外面に騙されているけど、君はあいつの素顔を知っているというわけだ。―――あのどうしようもなく最低な素顔を」
女はあきれた、というように小さく首を横に振ると、半分独り言の形で、男に対して最後の質問を投げつけた。
「・・・じゃあ、なんであなたはその最低な人間の友達なんてやっているのよ?」
―――次の瞬間、男の浮かべている表情は、先程まで浮かべていた笑顔とは異なる種類の『笑み』へと変貌した。
「最低だからだよ」
「・・・え?」
「最低な人間の側にいれば、自分はまだ『まとも』なんだと思えるからね」
しばらくの間、二人はまるで恋人のように見つめ合っていた。
男は『笑み』を浮かべたまま。
女は心持ち顔をしかめて。
―――冷たい突風が二人の頬を叩いた後、女はおもむろに口を開いた。
「・・・狂っているわね」
「そうだね、狂っているだろう?」
男から間髪入れずに返事が返ってくると、女は男に対して背を向けた。
そして来た道を引き返すと、悠然と歩き去っていった。
男はそんな女の後ろ姿を『笑み』を浮かべたまま見送っていたが、女が男の視界から消えるまで、女はついに男の方へ振り向くことはなかった。