大変なのは、お互い様
ああ。やっぱり、この人についてきたのは間違いだったかもしれない。最初は、戦場に咲く一輪の花、程度に思って胸を躍らせていた。だがその実、そんな可愛らしいものではなかった。
「遅い、早く敵に関する資料回して」
「は、はい」
俺は、塹壕での撃ち合いを想像していたが、そうではなかった。戦場の作戦室でこの娘とともに、作戦立案について色々作業を行なっていた。
この娘、とにかく人使いが荒い気がする。この人についてきた俺の責任でもあるが、にしても人使いが荒い。そもそも、俺は前線で敵味方の銃弾を掻き分けて戦ってきた。こんな事務処理めいたことなんて性に合わない。なんで俺なんかを呼び寄せたんだ。
「あなた、頭使うのは得意な方?」
「え」
俺はすぐに返事しなかった。自信がないわけではないが、あるとも言い切れない。必要とされる頭脳の基準がわからなかった。
「どっち?」
だが、この娘の前で返事に逡巡するのは得策ではない。俺は答えた。
「人並みには頭を使えます。ですが、あなたが求める程度のものかは……」
「いいわ。私のもとで働くなら、ちゃんと頭も使ってもらわなくちゃ困るから」
「はあ……」
「あなたなら、ここのイギリス軍の動きをどう見る?」
イギリス軍の動き? そんなの将校のお偉いさんが考えるものだろう? 俺がどうこう考えてわかるものではないのではないか?
だがこの娘は、わからない、じゃあ許してくれなさそうだ。俺は、とりあえず色々考えてみた。
「えっと、戦況を大局的に捉えたことがありませんので自信を持ってお答えるすることはできませんが、とりあえず我が陣地の塹壕で防衛に徹するだけで十分ではないでしょうか?」
「……」
「……あの、何か?」
「ふ〜ん、つまらない」
「は?」
つまらない? つまらないとはどういうことだ? 作戦に面白いもつまらないもあるか? 俺はカチンときた。
「人に振っておきながら、そのような物言いはいかがなものかと」
「つまらないものはつまらないと言っているのよ。私ならこうする」
そう言ってこの娘は、地図上のピンを動かした。敵と味方を表すそれぞれのピンが、躊躇なく動かされる。
「どう?」
「どう、と仰られても……」
「はあ、しっかりしてよね……」
「……すみません」
やっぱり腹が立つ。この、人を食ったような態度。第一、この人は一体何者なんだ? 戦場に女? 訳がわからない。どういった経緯で兵士になったというのだ。
「あの」
「なに?」
「あなたはどうして女性なのに戦場におられるのですか?」
「女は戦ったらダメなの?」
「え、いや。戦争は男の役割では?」
「そういうの、聞いてて腹が立つ。口を慎みなさい」
腹が立つのはこちらの方だ。こう、もっと人を人として丁寧に扱ってはくれないのだろうか。
「あの」
「だからなに?」
「あなたは、一応将校なのですよね?」
「……微妙」
「微妙?」
「将校のようなもの。一時的にね。正式じゃないっていうことよ。悔しいけど、あなたが言ったように戦争は男の仕事みたいだから」
なるほど。この人は、己が軍人を目指しているというのに性別のせいで、それがなかなか叶わないのか。だから、腹が立って俺に当たってくるというのだな。合点がいったぞ。
「大変なんですね」
「なによ、その哀れみの目は」
「いえ、お気になさらず」
まあ、大変なのはお互い様だろうけれどーー。
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