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ドイツ帝國に生きる  作者: 幽々夢 妖帝歌
二正面激戦
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決死の攻防戦

「待て、ヒトラー!! 焦るな!!!」


そこかしこに砲弾が炸裂する。地面が大きく抉れ、土が空中に舞う。空は澄み渡っているのに、地上は暗く、豊かな緑色の自然など微塵も残っていない。

ヒトラーたち伝令兵数人は、ラインハルトの部隊を救出すべく、援軍を呼ぶために走っている。フランス軍に囲まれているにも関わらず、彼らはそれを突破しなければならない。

ヒトラーはすぐ近くに着弾したせいで、勢いよく吹き飛んだ。その様子を見ていた仲間が言葉を失う。


「あいつ……」


ヒトラーの同僚たちは、彼が落命したものだと思った。しかし、ヒトラーはすぐに体を起こすと、無事だという合図を出した。


(シュライザー中尉をお救いせねば……! さもなければ、帝国に未来はない!)


ヒトラーもまた、ラインハルトに希望を託している者の一人であった。

彼らは、味方の砲撃が切り開く突破口を突き進むーーー。
















ーー数時間前ーー


「我々で……?」


「そう。君たちに託したい。援軍をすぐに呼んでほしいんだ」


ラインハルトは伝令兵数人を呼び出した。彼らに、敵の包囲網を掻い潜って援軍を呼んでもらおうとしたのだ。

彼らは、互いに顔を見合わせて困ったような表情をした。


「頼めるかい?」


「喜んでお受けしたいところでありますが、フランス軍に囲まれている状況で、どうやって仲間のもとまで向かえば良いのでしょうか?」


いくら帝国に命を捧げた兵士といえども、死ぬのがわかって突撃するには躊躇いがあった。彼らはラインハルトの返答に緊張していた。


「君たちを無闇に死なせるようなことはしない。味方に通ずる道は僕らで作る」


ラインハルトはそう言うと黒板に掛けられている地図を指差した。


「ここ、僕らのいる場所からおよそ北東方面。本来なら僕らの軍の陣地だったこの辺を集中的に砲撃する」


「万が一、味方がいれば……?」


「それはない。もし、少なくとも、敵はこの位置にいなければ僕らを包囲することはできない」


ラインハルトは断言した。


「でも、本当にここに敵がいないとしたら、君たちが無傷で突破すればいい」


「そうなっていることを祈るばかりですよ」


「希望的観測は絶望の種だ」


「申し訳ありません」


伝令兵は気を引き締めた。これから彼らは命がけの敵中突破を行うのだ。




砲声轟く塹壕の中、ヒトラーは興奮気味であった。


「これは……、これは帝国の命運をかけた使命だ……。ドイツ民族の栄光をかけた使命なのだ……」


「ヒトラー、さすがにそれは誇張しすぎではないか?」


ヒトラーの壮大な物言いに同僚の兵士は引いていた。

しかし、ヒトラーは気にする様子もなく言い放った。


「いや、これは正真正銘、大事な任務だ。帝国の英雄であるシュライザー中尉をお救いするための大事な使命なのだ」


「確かに中尉殿を救うことは、帝国にとって大事なことかもしれないけれど……。なんか、お前が言うと全部話が大きく聞こえるんだよな……」


仲間たちは苦笑いをしてみせた。だが、ヒトラーにはそれがどういうことかわからなかった。今や、彼は大変な使命を請け負った主人公の如きもののように自身を捉えているのだ。

ヒトラーは天を仰ぐと、言った。


「嗚呼、愛すべき我がドイツよ。我を守り給え……」


彼はーー、強烈であったーー。













「砲撃開始!!」


ついにラインハルトたちの反撃の狼煙は上がった。数少ない大砲を駆使して、敵に向かって攻撃を加える。

味方の砲弾が敵に正確に命中しているかわからない状況は、ドイツ兵たちに焦りをもたらした。


「本当にこの攻撃に意味はあるのか……?」


「でも、黙っていたって潰されるだけだろ?」


砲兵は装填を急ぎながら、不安を口にしていた。その最中も、フランス軍が放った砲弾が、ドイツ軍の塹壕に直撃する。ドイツ兵の損害は着実に伸びていた。


「みんな、諦めるな!! 仲間が、仲間が必ず来る!!!」


ラインハルトは兵士たちを必死で鼓舞した。他の指揮官たちもラインハルトを見習って大声を上げている。

伝令兵たちが向かっていった方面は特に、砲撃を激しく行った。約束の時間まで砲撃を加え、それ以降は伝令兵たちがそこを突破するのだ。もし、攻撃が不十分だったら、伝令兵たちに命はない。














「長い!!!!」


包囲網を形成していたフランス軍の連隊の指揮官は叫んだ。


「マルヌやヴェルダンでちょっとやそっと戦功をあげたからといって、調子付きおって!!」


「連隊長、落ち着いてください。あともう少しです。『砲撃王』を討ち取れるのですよ?」


「だが、その手柄もまたあ(・)の(・)若(・)造(・)のものになるのだろう!? こんな地味な作戦の一体どこにフランス軍としての華々しい勝利があるのだ!!」


連隊長の男は痺れを切らした。


「もう十分なはずだ! 砲撃をやめて、歩兵による突撃を敢行するぞ! 包囲網を狭めて降伏させてやる!!」













しばらくの砲撃戦の後、敵の攻撃は止んだ。その時間は伝令兵たちが敵の包囲網を突破する時間でもあった。


(まさか、捕まったか……?)


ラインハルトは不安に襲われた。拳に異常な程の力が入る。


「中隊長!!」


「どうした!?」


ラインハルトは突然、呼ばれて体をびくつかせた。呼んだ兵士は焦った表情をしている。


「西方よりフランス軍歩兵が迫ってきております!!」


「動いたか……!」


砲撃が止んだ後、しばらくしてフランス軍の歩兵が少しずつドイツ軍の塹壕に迫ってきていた。それらは横隊を組んで、押し寄せる波の如く近づいてくる。

ラインハルトは望遠鏡を手に取ると、反対側の東方を眺めた。地平線の手前側に敵と思われる姿があるが、突撃部隊には見えなかった。

ラインハルトは思わず叫んだ。


「やった、やったぞ!! 読み通りだ!!」


ラインハルトの興奮の意味がわからない兵士たちは動揺した。その間もフランス軍はじわじわと近づいてきている。


「中隊長! どうしますか!?」


「全ての機関銃を西方に向けるんだ! 東に配置していた機関銃も全て、西側に設置して!!」


包囲網が形成されたのが分かってから、機関銃は西側だけではなく、東側にも配置されていた。だが、ラインハルトは再び、それらを西に向けるように指示したのである。


「中尉、東からも歩兵突撃が来るのではないでしょうか?」


ラインハルトの指示を聞いた兵士がそう思うのも無理はなかった。両側からドイツ軍の塹壕を挟撃するのが、フランス軍の勝利条件のはずだった。


「いや、東からは来ない。必ずだ!」


ラインハルトは確信していた。フランス軍が東側から来ないことを。

ドイツ軍の機関銃が、フランス歩兵たちを迎撃せんと、じっと待っているーー。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

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