雷電撃戦
サアアーー
数日前まで、地上の兵士たちを鼓舞するように照り輝いていた太陽も、今日は姿を隠している。降り注ぐ雨は、忙しなく動き回る兵士たちの汗と共に地面へと落ちてゆく。
アグネスは斜めに傾くシュタールヘルムをそのままに小銃を担ぐ。兵士たちはアグネスに近寄り、心配そうに尋ねる。
「フォーゲル隊長、本当に我々と一緒に行くのですか?」
「もちろん」
アグネスは数時間前に立てた作戦通り、ロシア軍に直接攻撃を加える部隊に参画した。だが、それは多くの将校と下士官の反対を無視してのことであった。
「私がこんな作戦立てておいて、後ろに居られないでしょう?」
「お気持ちだけでも結構ですよ。あなたに死なれたら我々は困るのですよ?」
「大丈夫。私は死なない」
「ええ……」
アグネスが敵陣攻撃部隊に加わるのは彼女の我儘という訳ではなかった。かつてラインハルトが自身を置いて、イロフスキーと戦ったこと、またアグネスが西部戦線でトーマに敗北したことも彼女を焚きつけた。つまり彼女の再挑戦である。
「よーし、行くよ!」
ドイツ軍別動隊は動き出したーー。
雨の音が戦場を包む中、砲声も轟いてきた。味方による攻撃が始まった。
アグネスは予定されていた通りの進軍経路を辿って進んでいた。彼女の周りには護衛の兵士が付いている。
「隊長、敵の陣営はあとどれほどでしょうか?」
「もう少し進んだら、敵の潜伏地帯に入る。バレないように進んでいくよ」
アグネスたちが攻撃を開始するのは味方による砲撃が終わる予定の時刻から。それまでの間に、敵に忍び寄り一気に攻めなければならない。
「隊長、発見したそうです」
別動隊はロシア軍の陣を見つけた。彼らは、ドイツ軍の砲撃によって被害を負っている様子であり、アグネスたちに気づく気配はない。
「みんな、まだ近づいたらダメだよ。味方の砲撃に巻き込まれる」
アグネスたちは砲撃の当たらない距離から敵の動きを監視していた。
雨が少しずつ強くなってくる。どうやら天はアグネス隊の姿を隠すのに協力してくれたようだ。
(神様が応援してくださっている……)
アグネスは空を向いて目を閉じた。ささやかな祈りを捧げた。
そうしている間に砲声は鳴り止み、予定の時刻がやってきた。
アグネスは目をかっと開き、叫んだ。
「攻撃開始!!!」
「これじゃあ、前進も難しそうだな……」
「本当に攻撃を仕掛けるのだろうか?」
「さあな。でも、今の俺たちは前よりも戦果を上げているわけだし、なんとかなるだろう」
ロシア兵はタバコを吸いながら談笑していた。彼らは即席の基地で雨宿りをしていた。
砲撃された地点では、泥に塗れながら後処理が行われている。
「なあ、なんかゲームでもしないか?」
「ゲーム?上官に怒られないか?」
「大丈夫だよ。今は休憩中だろう?」
ロシア兵はタバコを吸いながら、軽い息抜きに遊びだそうとした。
「よし、やるぞ。せーの!」
ドサッ!!!
掛け声をかけた瞬間、二人のうち片方のロシア兵が倒れ込んだ。一方の兵士は何が起こったかわからず固まった。
「敵襲!!!」
ドイツ軍がロシア軍の露営地付近の小山から姿を現し、一斉に攻め込んできた。泥しぶきを上げながら、Gew98小銃を構えたドイツ兵たちが襲ってくる。
ロシア兵たちは塹壕に転がり込んで態勢を立て直そうとするが、泥に滑り、手元も狂って対処に遅れた。
「進めえええ!!!」
ドイツ兵たちはけたたましい叫び声をあげて走り回る。バシャバシャと泥が飛び散り、軍服は黒ずんでいく。
激しい銃声が機関銃から発せられる。次々と放たれる銃弾によってドイツ兵が薙ぎ倒されるが、機転を利かした一人が手榴弾を投擲し射手を爆殺する。ロシア側の機関銃が機能を失うとドイツ軍はさらに勢いを増した。塹壕を抑えるべく銃剣を構えたドイツ兵士が泥だらけの回廊に雪崩れ込む。
顔に殴りつける雨粒は量を増し、泥沼が深くなる。空は黒くなり、アグネスは不安に包まれながらも敵の将校を探す。
雷鳴轟き、辺り一帯は何度も閃光を浴びる。戦場は荒れていた。
奇襲攻撃はロシア軍の防御能力を格段に下げた。しばらくの戦闘の後、アグネスたちは敵の将校、下士官数人を捕縛した。
「隊長!やりましたぞ!制圧です!!」
「よし!」
アグネスは達成感に満ち溢れた。降り注ぐ雨が、天からの恵みのように感じられた。すぐに自陣の仲間たちに知らせて、戦線の前進を図りたい気持ちになった。
だが、アグネスが自陣に知らせるよりも早く、自陣からアグネスに知らせが来た。
「あ、信号弾……」
雨が降る中、ドイツ・オーストリア軍陣地から信号弾が発せられたーー。
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