↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドイツ帝國に生きる  作者: 幽々夢 妖帝歌
二正面激戦
65/105

西と東

「見るに耐えないです……」


「うん……」


ラインハルトとアグネスは、憐れみの表情を浮かべていた。彼らの目の前では多くの遺体が馬車に積まれる。その様は、とても一人の人間としての尊厳など考慮されたものではなかった。

ヴェルダンの戦いは三ヶ月を超えた。この戦いに消極的になりつつあったファルケンハインとは対照的に、皇太子であるヴィルヘルム・フォン・プロイセンは攻撃に執着した。フランス軍の粘り強い抵抗を受けながらも続けられたこの戦いでドイツ軍は多大な損害を負うことになった。


「ただ、やっとのことでこの辺りも占領できるようになってきた。少し戦局を進められるかもしれない」


「そうですね」


ドイツ軍は五月には目標としていた地点を攻略した。犠牲はありながらも前進もあった。

ドイツ軍は確かにパリに近づきつつあったーー。











「ジョフル司令官、電報です」


ジョフルはすぐに立ち上がり電報を奪うように兵士から取った。


「『我ガ軍ニオイテモイササカノ準備ガ必要ナリ。シバシ待タレタシ』……」


ジョフルは机の上にゆっくりと電報を置くと、そのまま握り潰した。


「それでは困るのだぁ!!」


兵士たちは肩をビクつかせた。

ジョフルは焦りで呼吸が乱れた。眉間に皺が寄る。


「司令官殿、どうか落ち着きください」


声をかけたのはロベール・ジョルジュ・ニヴェル。この男は、ペタンと交代してヴェルダンの防衛を任されていた。


「ニヴェル君。君もだよ。君は私と方(・)針(・)が(・)合(・)う(・)からヴェルダンを任せたけれど、このままドイツ軍に押されるのであればやはりペタン君を……」


「だ、大丈夫です!私がドイツ軍に打撃を与えますから!!」


ニヴェルは焦った。自身の地位が危ぶまれたのだ。


(とは言っても、ペタン殿の作戦を継続して利用する方が今は適している……)











トーマとピエールは前線の基地にいた。彼らは籠城戦を展開しつつドイツ軍と激戦を繰り広げていた。


「ニヴェルさんじゃ、無理かもしれない」


トーマは作戦室で公然と言った。聞いていたピエールは焦った。


「不味いですよ、そんなこと言ったら!」


「だが事実」


トーマは腕を組んで作戦地図を眺めていた。ヴェルダンに向かって伸びる道に色線が引かれている。


「ペタンさんは籠城戦の利点に気づいていた。だから、上手くドイツ軍を止められていたのに、ニヴェルさんは少しづつやり方を変えている」


「やり方……」


「そうさ。せっかく守りに入れていたのに、今度は無理して攻勢を仕掛け始めた。これだと兵士の士気が追いつかない」


ピエールは黙り込んでしまった。トーマは思ったことを言う傾向があるのだ。はっきりしている性格故に上官に対しても物怖じせずに発言する。だが、兵士たちには好かれやすい。


「こうなった以上は、『東』の動き次第だな……」













「総司令官、フランスよりの電報です」


ロシア軍の総司令官となっていたニコライ二世はフランスからの電報を受け取り目を通した。


「内容は……?」


「ヴェルダンでドイツに押され始めているらしい。救援要請である」


将校たちはざわついた。今フランス軍が敗北すれば、それこそ連合軍は一巻の終わりである。


「総司令官、やはり援軍を……」


ニコライ二世は判断に悩んだ。


「お主らの言うこともわかる。しかし、余の軍も休息が必要なのだ……」


将校たちは気が沈んだ。彼らは、フランス軍を見捨てようとしているわけではなかった。すでにこの年の前半にロシア軍は、西部でのフランス軍の負担を減らすために攻勢に打って出ていた。しかし結果は敗北。彼らは再びの攻勢で果たしてドイツ軍に打撃を与えられるのか不安になっていた。


「総司令官、私の意見としましてはやはり守りにこだわるべきかと」


アレクセイ・エーヴェルトはツァーリの熱心な支持者であった。彼は防衛主義を唱えた。

ニコライは彼の意見に押され結論に達しようとしていた。


「うむ、ならばここはやはり……」


「お待ちください」


ニコライ二世の言葉を遮り、一人の男が発言した。

エーヴェルトは噛み付いた。


「貴様!総司令官のお言葉を遮るとは無礼だぞ!!」


だが、男は意に介さず話した。


「総司令官、私は攻勢に出るべき時と存じ上げます」


「何故か?」


「今、ドイツ軍はヴェルダンで少しづつフランス軍を押しつつあり、それはつまりドイツ軍が西部方面に釘付けであることを示しております。また、オーストリアはすでに脆弱。討つなら今です」


エーヴェルトは尚も男に強く言う。


「どこにそんな根拠がある!確かにヴェルダンでドイツ軍が攻勢を強めているとは聞いているが、東部にはあのヒンデンブルクやマッケンゼンがいるのだぞ!そう上手くいく話ではないわ!」


ニコライ二世は黙り込んだ。将校たちは固唾を呑んでその様子を見守っていた。

皇帝(ツァーリ)のいる作戦室に張り詰めた空気が漂う。

しばらくして、ニコライ二世は口を開いた。


「其方は昨年に奪われた土地を取り戻せるか?」


男は凛とした表情で答えた。


「お任せください」


「ならばアレクセイ・ブルシーロフよ、打って出よ!」


「は!!」


ついにロシア軍が動き出すーー。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。