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クリスマスの夜に

全世界を愛の陰謀に巻き込むこの季節は、幸いなるかな。


      ハミルトン・ライト・メイビー(1846-1916)

カリカリカリカリーーー。

ラインハルトの握る鉛筆はノートの上を華麗に滑っていく。そこには多種多様な軌道計算式や放物線の図が書かれていく。外は一面が装飾された街景色。雪がしんしんと降っている。

ベルリンは聖なる夜を迎えようとしていた。大学図書館は暖房が付いているがどこかひんやりする。


(そろそろ帰ろうかな……)


ラインハルトは鉛筆を机上に置き、伸びをした。すると後ろから声をかけられた。


「よっ!」


ラインハルトはビクッとして後ろを振り向いた。そこにはゲオハルトが立っていた。


「なんだ、ゲルトか。驚かせないでくれよ……」


「勝手に驚いたのはそっちじゃないか……」


ゲオハルトはため息まじりに言った。


「とにかく、一緒に帰ろうぜ」


ラインハルトは頷くと勉強道具をカバンに入れた。そして、大学を出たところでゲオハルトはラインハルトに尋ねた。


「なあ、さっきお前が開いていた本。あれ、軍事学の本じゃないのか? なんで持ってるんだ?」


ラインハルトはドキッとした。彼が先ほど図書館で開いていた本は、数ヶ月前にロンメルに出会ってから度々彼から借りているものなのだ。ロンメルと自分が知り合いであることをゲオハルトに知られたら、色々問い詰められて面倒な気がしていたので、そのことは今まで黙っていたのだ。当然、弾道学の勉強もこっそりしていた。

ラインハルトは咄嗟にとぼける。


「ん? なんのことだい?」


「いや、別にとぼけることもないだろ? 別にお前が軍事に興味を抱くこと自体はなんとも思わないし。それとも軍人様とでもお知り合いになったのか?」


鋭い……、ラインハルトは内心、思った。


「まあ、今日はクリスマスなんだし、そんな物騒な話題はやめて明るい話をしようよ!」


我ながら酷い話の逸らし方だ……、とラインハルトは思った。しかし、ゲオハルトは、まあいいか、と言ってそれ以上言及してはこなかった。

二人がラインハルトの下宿先に着くとケリーがお迎えしてくれた。


「二人とも準備は出来ているよ!」


ケリーが二人を中に引き入れるとそこには大学の同級生たちが待機してくれていた。今日はラインハルトの家でクリスマス会なのだ。

ゲオハルトは呆れながら言う。


「こいつよ、今日、自分の家でパーティー開くくせに大学でずっと勉強してたんだぜ……。俺が迎えに行かなかったら帰ってくるのも、もっと遅かったんじゃないか」


みんなはどっと笑った。ラインハルトは焦って反論する。


「べ、別に忘れていなかったよ! 君が来た時にはちょうど帰ろうと思っていたところだったし!」


「でも、パーティーの準備は手伝ってないじゃん?」


ラインハルトは顔を赤らめ、友人たちはさらに笑ったーー。




パーティーは大いに盛り上がりを見せていたが、ラインハルトはベランダに出て冬景色を眺めていた。ベルリンは白銀の世界に包まれ、神秘的そのものであった。


「ベルリンのクリスマスはこんなにも綺麗なんだな……」


思わず口から出た。


「帝都の冬景色、いいもんだろ?」


ゲオハルトが後ろから声をかけてきた。寒そうにしている。


「寒いんだから、中で酒でも飲んでいなよ」


「いやぁ、せっかくだから聖夜の街並みを眺めたい……」


「来年も見られるだろう?」


「まあ、いいじゃないか」


ゲオハルトはラインハルトの隣にきて一緒に市街地を眺めた。ゲオハルトはおもむろに言う。


「やっぱりクリスマスはさ、国を問わずにみんなで祝いたいよな」


ラインハルトは、ゲオハルトがまた酔って変なことを言い出したものだと思った。


「なあ、来年もまたクリスマス会やろうぜ」


これにはラインハルトも頷いた。


「ああ、もちろんさ」


ゲオハルトはにっと笑うと両腕をさすりながら部屋に入っていったーー。

読んでくださりありがとうございます。次の作品が投稿され次第、ぜひ読んでいってください。

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