第九話 サティアラージさん☆
ウバ クロネ様からアヌーシュカのイラストをいただきました。
ページの最後にあります。どうぞご覧ください。
舞台の端で、男性陣が楽器の調子を合わせている。
びよ~んょょょょ~ん、ぼよ~んぼょょょょ~んという音が、壁や天井に反響し、またその音が向かいの壁や天井にはねかえり、響く。幾倍にもなった振動が、私の身体に伝わってくる。こんななかで踊るって、どんな感じだろう。
舞台の袖(と言っても、衝立でしきっただけの、即席のものだけど)から、そぉ~っとのぞく。タブラ奏者の人と目が合った。
タンモイさんは、人柄の良さが身体全体からあふれ出ている。お姉さまと私を穴のあくほど見すぎて、御師さまに怒られてらした。
タンプーラ担当の人は、大人しげな、普通の人。あまりしゃべらないんだけど、そのぶん物事を考えていそうな感じがする。
お姉さまに眼もくれないかわり、私のほうも見てくれない。ずう~っとうつむいて、自分の楽器を調整している。よく知らないんだけど、タンプーラって調整に手間かかる楽器?! そんなことはない気がする。
このひとが私を見てくれないかな。ちらっとだけでもいい。お姉さまのついでではなく、私だけを。
タンプーラの四音が響いたのち、御師さまのシタールがターラ(主旋律)を奏ではじめる。
私の出番だ。
下手から、できるだけ優雅に、踊りながら舞台の中央に進む。
あの人は私をみていてくれる? 思わずタンプーラの人を見てしまう。すると、今度はあちらも私を見てくれていた。
うれしくなって、御師さまが取ってくださる口拍子を、自分でも取りながら、踊る。
ティンティンダタタ、ティンタタタ、ティンティンダタタ、ティンタタタ、
ダカダカダカダカディンディン、ダカダカダカダカディンディン、
ここから、タンモイさんのタブラが入った。
スターン
と止まったのち、またゆっくりと動き始める。
スカートのすそを持ち上げ、こまかい足さばきで床を踏む。足首につけた鈴がなる。
曲に合わせて、踊りもどんどん早くなっていく。
くるくるくるくる、今までにないほど回れるし、跳べる。体が軽い。
足が頭より高く上がり、スカートの裾が広がる。
踊ってるあいだも、ついタンプーラの人を見てしまう。あちらも、なんだかずうっと私を見てくれている。楽器は全然見ていない。
もしかしたらものすごい名人?! いや、そんなことはないだろうけど。
手の動きが、びしびし決まる。まるで私じゃないかのよう。
音楽があると、息の合った伴奏があると、こんなにも違うんだ。
踊り終わった後、私は着替えもせず、タンプーラの人にかけよった。
「私、あなたの子供が産みたいです、結婚してください!」
タンプーラの人は、楽器を取り落として、二、三歩後ずさりしたのち、
走って逃げて行った。
「ぶわっはっははっはは!!!」
まず御師さまが大笑いし、続いてみんなも爆笑した。