第八話 タンプーラの男1
御師さまが、アヌーシュカもそろそろ初舞台を、とおっしゃる。
「ついては場所はここをお借りしたい、できれば無償で。そなた、政府上層部に知り合いはおらんか」
知り合いもなくはないが、城の管理は、あたしの担当だった。
「おほっ、そりゃ好都合。初舞台は踊り手にとっては大事なもの。ジータライも協力してくれるよな?」
「もちろんですわ」
「すまんが、アヌは自前の財産がほとんどない。恥ずかしながらワシも手元不如意でな。
大した金は出せんが、見苦しくない程度に整えてやってくれると助かる」
本来、お姫様の初舞台とあらば、三日、あるいは一週間。内外から王族や踊りの名手が招かれ、ご馳走がふるまわれ、恩赦もあったかもしれない。あたしたちが革命を起こさなければ。
「あたしの一張羅のサリーを仕立て変えます。頭飾り、首飾りも一式、お貸ししますわ」
「そうか。よろしく頼む。伴奏は、若手で有望な者を何人か引っ張ってこよう。
頼めば、無償でやってくれよう」
「まあ、申し訳ないですわね」
「そういうのも修業のうちじゃからな。あとで飯でも食わせてやってくれ」
☆☆☆
本番まであと一週間ほどとなったある日。
御師さまが、自分の身長くらいある楽器を担いで神殿に入ってきた。
そのあと、二十代前半の男性が二人、御師さまのより二回り小さい弦楽器と、二つ一組の太鼓を持ってやってきた。
御師さまが両手をぱしぱしと鳴らす。
「本日は、ワシの弟子、アヌーシュカの初舞台のために集まってくれてありがとう。
音合わせの前に、まずは楽器の編成と、名前を紹介しておこう。
今回の主役は、そこにいる若いほうの美女、
アヌーシュカじゃ。
で、もう一人の超絶美女は、ジータライ。これもワシの弟子じゃが今回は裏方にまわる」
アヌとあたしは、服の端をつまんで、礼を取る。
「で、タブラ(太鼓)担当がタンモイ、
タンプーラ(弦楽器、ギターでいえばベースのようなもの)担当が、サティアラージ、
そして、シタールと歌は、不肖、このワシが担当する。
というわけで皆の者、よろしく頼む」
タンモイさんは、あごの四角い、見るからに人のよさそうな人で、もっさもさの巻き毛のせいで、大きい頭がさらに大きく見えた。眼を零れ落ちるくらい開けて、あたしとアヌーシュカを見ていた。
でも、それは若い娘を見るときの若い男の普通のふるまいで、めずらしくはなかった。
サティアラージさんは、細面で、見た目大人しげな、普通の人で。あたしには眼もくれないけれど、アヌのほうも見ようとしない。ずうっと自分の楽器を調律している。
内気な人なんだなと思っていた。