第四話 天の踊りと地の踊り
御師さまとあたしが身元引受人となり、アヌーシュカは解放されることとなった。
が、自由になっても他に行くところもなし。相変わらず西の塔で寝起きしていた。
彼女と一緒に、あたしも稽古を再開した。酔客の前で踊っていた、タワーイフの踊りだけれども。
御師さまは週に一度、アヌーシュカの稽古のために城に来られる。
ある日、あたしは勇気をふりしぼって頼んでみた。
「一度、あたしの踊りをみていただけませんか?」
「ああ、いいよ。やってみなさい」
快く、応じてくださった。
ひととおり見たうえで、御師さまがおっしゃるには
「そなたの踊りは『地の踊り』だね。自己流が固まっているけども、軸が決まっているし、身体も柔らかいから、直せば治ると思う。また一から修業することになるけど、どうする? やってみるかね」
「えっ、本当ですか! ぜひお願いします。授業料はなんとしても工面します」
「ワシは弟子からお金は取らないよ。そのかわり気にいった者にしか教えない主義でね。あと、稽古は厳しいから」
「わかります。よろしくお願いします」
ここで、アヌーシュカが口をはさんできた。
「御師さま、私もジータライさんの『地の踊り』を踊ってみたいです!」
はあ?! この子は何を言い出すやら、と思ったら、御師さままでがとんでもないことを言いはじめた。
「あのなあ、ああいう踊りはなあ。乳がどーんとあって、腰がきゅっとくびれてて、お尻もぐっとあがっているような、ふるいつきたくなるような体型じゃないとダメなんだよ。まあなんだ、お前なんざあ、百年早いね!」
「御師さまひどい! そこまでいうことないじゃありませんか?!」
わあわあ楽しそうに言いあっている。これが二人の本性かな。仲間に入れてもらえた、ということかしら。
「あたしだって、アヌーシュカさんの踊り、やれるものならやってみたいですわ。でも、さっきの話からすると、あたしの今の体ではあの踊りはできないということですか?」
「そうだね、相当しぼらないと、筋を傷めるだろうね。でも、そなたが身体をしぼると、悲しむ男が大勢いるんじゃないかな?」
「まあ、そんなのいませんわ?!」
笑っていると、またもアヌーシュカが口をつっこんできた。
「御師さま、ジータさんはおサルっぽい顔の男の人とつきあってま〜す! 城内で噂になってま〜す!」
この子は、結構いらないことを言うのね、と思っていると、御師さまが
「いや、冗談ではなく。今後の方針もあるから、決まった人がいるなら教えておいてほしいんだが」
とおっしゃる。
「その人とは、ちょっとつきあってみているだけで。そのうち別れる予定なんです」
と答えると、
「そなたのようないい女を、男がそう簡単に手放すとは思えんがな。まあ、よく話し合ってみなさい。長いつきあいになるんだから、お互い隠し事はなしで頼むよ」
言い残して、御師さまは帰って行った。