第二話 お前を俺にくれよ
「うん、いいよ」
男はあっさり、アクラム殺しをうけおった。
「そうだね、彼を殺すなら今日しかないかな。反革命分子の誰かに身代わりになってもらって……」
微笑みながらアクラムを殺す算段を考え始めた。自分で頼んでおいてなんだけど、ちょっと不安になったぐらいだ。
というか、この人どことなく顔がサルに似ている。
「アクラムが今日、どこで寝るかわかるか?」
と聞くので、あたしが自分のために取っておいた部屋を教えた。
「じゃあ、その近くで待ち伏せするわ。お前は、疑われないように、部屋でじっとしててくれ。あとは俺がやるから」
あれよあれよという間に、話が進んでしまった。
☆☆☆
夜半、回廊のどこかで誰かが悲鳴をあげた。騒ぎが次第次第に大きくなって、あたしの部屋に近づいてくる。花や星が細かく透かし彫りされた窓から、外をうかがう。
「アクラムが死んでる! アクラムが殺されたぞ?! なんでまた?アクラムが」
城に残った人がみな回廊に出てきて、頭をよせあいつつきあい、大騒ぎとなった。それはそうだ。革命が成功した晩に、頭目が亡くなってしまったのだから。
アクラムは、国外に逃亡したある宰相の息子に、闇打ちされた。そして、犯人を追って殺したのが、例のサル顔の男、ということらしい。
宰相の息子の死体をどこから手に入れたか?
サル顔の男に聞いても、「そのへんに転がってたよ」と言われそうだ。
なりゆきで声をかけた割には、優秀な男だった。拾いものかもしれない。
死体の検分や事情聴取が終わり、サル顔の男はあたしの部屋にやってきた。
「どうよどうよ、俺の仕事は? お役に立てましたかな」
ドヤ顔で言ってくる。
「素晴らしいお手並みだったわ。あなたの言うとおり、アクラムを殺すなら、今日しかなかったかもしれないわね」
と、労をねぎらっておく。
「それじゃ、報酬をもらってもいいかな?」
「いいわよ、なんでも欲しいものを差し上げるわ。いま手持ちのお金はないけれども、お店に帰れば」
言いかけると、
「いや、お金はいらない。お前自身がほしい。できれば結婚したい」
とんでもないことを言いはじめた。
「……ご存じないかもしれないけど、あたしはタワーイフ(高級娼婦)なのよ? 結婚するなら、きちんとしたお嬢さんのほうがいいんじゃないかしら」
「知ってるよ、有名だからな。俺ら兵士が一生かかっても買えないお値段だよな。でもこの際、そんなことはいいんだよ。俺はお前に惚れてるんだよ。好きな女に頼まれたから、人も殺したんだよ。わかるか?」
それを言われると、分が悪いのはあたしの方だ。
「なら、とりあえず三ヶ月だけ、一緒に暮らしてみましょうか。いやになったら、別れたらいいわけだし」
結婚してくれと言いだす男は、今までも何人かいた。でも、三ヶ月もすればあたしに飽きて、どこかに行ってしまうのが常だった。