第一話 アクラムは死んだ
第一話 アクラムは死んだ
「藩主の娘、アヌーシュカと思しき者をとらえました。どうしましょうか?」
兵士の一人が声をかける。あたし同様、ぼーっとしていたアクラムが、我に返った。
蜂の巣の六角をたてにのばしたような凹凸が、幅をせばめながら、天井の中心まで独特の模様をつくりだしている謁見の間。縄でぐるぐる巻きにされ、さるぐつわをかまされた藩主の娘が、床に転がされていた。
年は十三から十五歳くらい。
金と栗色の中間の色の髪。象牙のような肌。栗色の瞳には涙の跡。通った鼻筋。
抵抗は諦めているのか、ときどき身じろぎをするくらいだけれど、手首や腕に縄が食い込んで、痕になっている。
さすがはこの地のお姫様。女のあたしでも見とれてしまうほど、きれいな子だった。
この子をどうするのかしら、とアクラムの顔を見る。
城を攻められ、親を殺されたお姫様の行く末は、殺されるか、幽閉されるか、奴隷としてこきつかわれるか。
次の瞬間、彼の眼に、今まで見たことのない色が浮かんだ。
それは、娼館ではなじみの色。あたし達の踊りを見る客の眼に浮かぶ色だ。
でも、アクラムは今まであたしをあの眼で見たことはなかった。彼は、愛人として、当たり前のようにあたしの部屋に出入りしていた。なのに、今まであたしをあの眼で見たことはなかったのだ。
あたしは「この男を殺さなくてはならない」と思った。
アクラムは
「すまん、今忙しいんだ。城の西側の塔に、小部屋がある。とりあえずそこに放り込んでおいてくれ」
兵士に命じると、どこかに行ってしまった。反乱軍の長は、戦後の処理にひっぱりだこのようだ。
☆☆☆
それから、あたしは自分でもわけのわからぬまま、謁見の間から、回廊に走り出た。透かし彫りの手すりのある大階段をかけ下りると、城の中庭に出た。
中庭には、つげの木が整然と植えられ、白大理石の水路で十字に区切られている。その真ん中では噴水が、静かに水を吐いていた。
噴水の四方にはかがり火が焚かれ、下に、兵士が一人立っている。その腕を両手でつかみ、男の目を見ながら言った。
「お願い、アクラムを殺して」