86 【コミカライズ記念】後日談 新婚生活
遅くなりまして大変申し訳ありません。
コミカライズ記念SSです。
新婚生活――なんて甘く幸多き響きでしょうか。
愛し合う二人が結ばれ、人生をともに歩き出す初々しく微笑ましい時期。
しかしこと貴族同士の婚姻においては、必ずしも愛があるとは限りません。家同士の結びつきを強めるための契約という一面が大きいからでしょう。
その点、私の場合はかなり特殊なケースです。
ミカドラ様から提案された秘密の取引は家同士ではなく、個人の目的のため。
利害の一致による結婚でした。
最初はお互いに愛も恋慕の情もありません。もちろん敬意と感謝の気持ちはありましたが、自分の心を守るために恋愛感情を抱かないように気をつけていたくらいです。
しかしミカドラ様にたくさん助けられ、その優しさに触れ、いつしか恋をしていました。
案の定というか、やむを得ないというか、ミカドラ様のそばにいて好きにならないはずがありません。これは義姉のミラディ様にも予言されていたことでした。
身の程知らずな己の恋心に途方に暮れたものですが、幸運なことにミカドラ様も私のことを……。
一緒にいた時間が長かったおかげでしょうか。
未だに信じられませんが、面倒事を嫌うミカドラ様が私のためにあれこれと手を回してくださっているのです。さすがにこれ以上疑うのは失礼でしょう。
紆余曲折の末、私たちは両想いとなり、ついに結婚しました。
このような幸運に恵まれるとは思ってもみませんでした。
ええ、本当に。
「――ルル、ルル? 聞いているのか?」
「はっ。すみません!」
結婚式を挙げてから一週間が経ったとある日の夜。
私室のソファーで目を覚ましました。
「疲れているようだな。今日は特に出かけていなかったはずだが」
「……実は、お礼状の最終確認をしていたんです。不備があってはいけませんから」
結婚式に参加してくれた方、祝辞を届けてくれた方へお礼状をようやく全て発送することができました。
私がベネディード家に正式に嫁いでから最初の対外的な仕事と言えるでしょう。もちろんミカドラ様を含めいろいろな方の目と手をお借りしているのでミスはないと思いますが、気は抜けません。
ベネディードの家名は重いのです。
「心配性だな。まぁ、何事もしっかりきっちりと処理するところがお前の美点の一つだ。何度確認してもどうしても不安なら早めに俺に言え」
「はい」
「……今夜は早めに寝るか」
「え」
「明日は予定が詰まっているだろ。しっかり休め」
でも、と私はテーブルに用意していた“戦線盤戯”に目線を向けました。
今夜は久しぶりに対戦する約束をしていました。それに、その……。
「結婚して毎日ずっと一緒にいられるんだ。遊ぶのもいちゃつくのも、いつでもできる」
「いちゃ⁉」
「悪いことは言わないから言うことを聞いておけ。この選択が、体調を崩すかどうかの分かれ道になるかもしれないぞ。高等部の初めから欠席はしたくないだろう?」
た、確かに、一仕事を終えたことで体から緊張が抜け、少し頭がぼんやりしています。このまま風邪をひいて寝込む可能性もありますね。
嫁いで早々に倒れるのは嫌です。
かつてベネディード家へ初めて挨拶に伺った時から何も成長していないと思われてしまいますし、高等部への進学も控えている今、よりいっそう体調管理をしっかりしなければ。
「すみません、ではお言葉に甘えて休ませていただきます」
「良い子だな。ルルが寝るなら俺ももう寝る」
主な灯りを消して、早々に私たちは寝室のベッドに横になりました。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
柔らかい枕に体重を預けた途端、体がずしんと重くなったように感じました。思っていた以上に疲れていたようです。
ミカドラ様が布団をかけて、そっと肩から腕を撫でてくださいました。
すぐに眠ってしまいそう。だけど、やはりまだ一緒に眠るのに慣れなくてドキドキしてしまいます。
お揃いの石鹸の匂いを強く感じて面映ゆくて仕方がありません。
ミカドラ様からすればまだ眠るには早い時間でしょうに、一緒の時間を大切にしてくださっているように感じてとても嬉しい。
心臓が鼓動するたびに、甘い痛みが広がります。
「…………」
貴族でありながら最愛の人と結婚できたというのに、思い描いていたような新婚生活は送れていません。
今夜こそはと思っていたのに、ミカドラ様の優しさにまた甘えてしまいました。
いつか愛想を尽かされて一緒に眠ってもらえなくなり、外に愛人を作られたらどうしましょう。
いえ、以前に愛人を作るのは面倒だと言っていましたので、後腐れないような一夜の遊び相手?
貴族男性専用のそういったサロンがあると耳にしたことがあります。
そこに出入りしていると分かった場合、妻としてどのような対応をするのが正しいのでしょうか。私だったら、悲しみに支配されて責められないかも……。
ミカドラ様のことはもちろん信じています。
怠惰で不真面目なところはありますが、私に対してはずっと誠実に接してくださいます。
ただ、私の要領が悪くて夫婦二人の時間をうまく作れず、いつかミカドラ様に呆れられてしまうかも……。
「眉間にしわが寄ってるぞ。良からぬことを考えていないだろうな」
「っ!」
不意に眉間を指で押さえられました。
薄闇の中で分かるなんて。というか、無防備な顔を見られていたと思うと恥ずかしくて仕方がありません。
「何か悩んでいるなら早めに吐き出しておけ。それとも俺が不安にさせているのか?」
「え、そんな! ミカドラ様は何も悪くありません。ただ……」
「ただ?」
「その……いつか、ミカドラ様と別々に眠る日が来るのかと考えてしまって」
「…………」
深いため息を吐かれ、眉間を押していた指が私の頬に移動しました。
軽くつままれます。
「お前が嫌がらない限り、そんな日は来ない」
「……ほんとうですか?」
「ああ。何度も言っているが、俺は浮気も夜遊びもしない。考えただけで面倒だ。俺のなけなしの優しさと興味は全部ルルにやる。二人の時間も、俺が無理矢理にでも作るから」
私がその言葉に感動して目を見開くと、彼の手にそっと目を覆われました。
「分かったら早く寝ろ。俺が我慢した意味がなくなる」
「……はい。ありがとうございます」
再び目を閉じて、今度はミカドラ様の腕に寄り添うようにして眠りに入りました。
またもや深いため息が聞こえてきたような気がしましたが、安心した私はもう目を開けることはできず、そのまま夢の世界に向かったのです。
翌朝、ミカドラ様はいつになく眠たそうで、熟睡してすっかり元気を取り戻した私に「……おはよう」と少し恨めしそうに言いました。
「あ、あの、大丈夫ですか? もしかして私、寝相が悪くてミカドラ様の眠りの邪魔をしてしまいましたか?」
「いや、むしろ微動だにしなかった。……ルル、今日は昼寝に付き合え。いいな?」
……夜だけではなく、お昼寝も一緒のようです。
それがなんだか面白くて、私は幸せいっぱいでした。
お読みいただきありがとうございました。
『怠惰な銀狼と秘密の取引』のコミカライズの配信が始まっております。
コミカライズ版はWeb小説版よりプラス3歳の設定です!
主役二人のビジュもやりとりもめちゃくちゃ可愛いので
ぜひ読んでいただきたいです!
よろしくお願いいたします。
漫画:西依ひまり様
編集部:Eylie様
掲載サイト:pixivコミック様
https://comic.pixiv.net/works/13451




