第14話 涙
「かのえ様、あまり泣かれると目が溶けてしまいますよ。」
イレスはそっと柔らかい布を
泣きじゃくるかのえの目元に当てる。
「イレスさん、ありがとう・・・。」
かのえは涙ぐみながらも、
律儀にイレスに礼をいう。
人を大切にすることを知っている、
イレスは内心そう思った。
イレスはかのえを彼女が寝ていた寝室の
ソファーに座らせ、彼女が落ち着くのを待って、
暖かい紅茶を手渡してやる。
まったく違う世界に来たというのに、
落ち着いたかのえの姿をみていると、
なんだか違和感と畏怖を感じてしまうが、
こうして見てみると彼女はまだ若く幼い。
取り乱したり、混乱することが無い分だけ、
彼女は相当気を張り詰めているのかもしれない。
イレスはそっと彼女の傍に腰掛ける。
女神、そうこの大陸の誰よりも
貴き女神と席を同じくするなんて、
信じられないことだが、
イレスは隣りに座り
彼女の背をさすらずにはおれなかった。
「ラウルさん、怒ってないかな・・・?」
「え?」
イレスはかのえの言葉の意味を飲み込めなかった。
「さっきは取り乱して申し訳なかったと思って。。。
私はこの世界に来た時服を来ていなかったって言うのは、
ラウルさんにとっては不可抗力であったわけだし。
もちろん、見られたっていうのは非常にショックだけどね。」
はーっ、と長いため息を吐いた彼女は、
もう既に十分落ち着いていた。
「それよりも、違う世界に来てしまった事の方が、
よほど真剣に悩まないといけないことだからね。」
かのえは虚空を力強い瞳で見つめながら、
イレスの入れた紅茶を啜る。
先ほど涙ぐんでいたとは思えない、
力強い雰囲気にイレスは気おされた。
「かのえ様は本当に女神ではいらっしゃらないんですか?」
イレスは思い余って、疑問を口から滑らせた。
彼女のその卓越したものを感じさせる理性に
唯人であるとは到底思えないからだ。
「イレスさん、あなたは私を女神だと思うの?」
真っ直ぐな黒曜石のような瞳に
囚われてしまうかのような錯覚にイレスは陥る。
「イレスさん、私が本当に女神だったら、
きっと取り乱して泣いたりしないよ。」
にっこりと優しくかのえは微笑した。
「本当の女神様はきっとこんなに弱くないと思うな。」
彼女の笑顔は少し寂しそうに、
イレスは思えた。