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第12話:喧騒

「ラウル殿!女神になんとしてでも

このゴーヒュン王国を再度大国にしてもらわねばならんぞ」


諸侯がいなくなったのを確認すると、

豪華絢爛な衣装に身を包んだ男がラウルに興奮を抑え切れず意気込む。


「陛下。」


彼こそはゴーヒュン王国、スミノフ国王。

最高級の布地に女神そのものを意味する

黄金の鳳凰を金糸で縫い取った外套を纏っている。

ラウルよりも頭一つ分背の低い彼に

その外套はひどく重そうだ。


「なに、お怒りになって好都合だ。

他の国の奴らなど、女神の怒りに触れれば良い。」


ぺったりと撫で付けた茶色い髪を嬉しそうに撫でながら、

ニヒヒ、と明るい茶色の瞳を細めてほくそ笑む。

丸い頬がたぷん、とふるえる。


「陛下、女神は私達に対してもお怒りなんですよ。」


全く要望が似ていない兄に向かって

ラウルは優しく指摘する。


「何を言っているんだ、ラウル殿。

我らは神聖なる女神の末裔ぞ!

女神の一族がなぜ女神の怒りをかうというのだ。」


スミノフ国王は心底不思議そうな顔を弟に向ける。


「女神は己が末裔が大陸で権力をもっていないのを

不服に思われ、我々のために降臨してくださったのだ。

そうに違いない。」


さも完璧な理屈だというように、

満足そうな笑顔をラウルに向ける。


「陛下」


ラウルは頭が痛くなりそうだった。

スミノフ国王のいう女神は

己を女神だとは思っていない。

普通の何の力もない少女だと言っているのに。

もちろんこの事実は誰に言っても信じてもらえないだろう。

目の前の奇跡、そして女神の降臨。

打ち消せない人の感動。


「ラウル殿、そなたは今我が国の神官長を任せているが、

今後は名実ともに女神に仕える神官として

ますます精進されること期待してるぞ。」


そうスミノフ国王は言い残すと

重い外套をずるずる引き摺りながら去って行った。

我が兄ながら、人を振り回す天才だ。

ラウルは一人ため息をつく。


「兄貴とは全然似ていないんだな。」


傍にあった柱の影から、ギザ皇帝が姿を表して

少し肩をすくめて言った。

盗み聞きしていたと言うのに悪びれない。


「まあ、兄弟ですが陛下とは母親が違いますから。」


聞かれていた事に動揺も見せないラウルを

ギザ皇帝は面白そうにみる。


「なるほどな、それなら仕方あるまい。

兄貴がああだから、てっきり神官長の弟も

豚かなにかと思っていたが、

女神の血は争えんな。

女神のごとく、とは本当だな。」


大陸で女神の末裔と名高いゴーヒュン家に

酷い言い様である。

しかしどこか憎めないものをラウルは感じた。


「ギザ皇帝。」

「エドで良い。

お前はなかなか話が分かる奴みたいだしな。」

「型破りな方だとは伺っていましたが、

どうやら本当みたいですね。

私のこともラウルとお呼びください。」


「女神はどうなんだ?

本当に女神なのか?」


くだけた口調で重大な質問を言ってのけるギザ皇帝。

ラウルは思わずその目を見返して、

それが真剣な事を知る。


「ラウル殿、俺とて大陸の民、女神の民だ。

女神への信仰心もある。

しかし一国の統治者としての責任もある。

奇跡や魔法と言ったものはあくまでお伽噺の領域で、

女神の聖典に書かれている

奇跡の幾つかは偶然か、後世の捏造だと言えるだろうからな。」


ギザ皇帝の女神と神殿への冒涜に値する発言に

ラウルは答えず、ギザ皇帝の次の言葉をまつ。


「俺も自分の目を疑う訳ではない。

彼女は女神のごとく現れた。

しかしそれと彼女が人智を超えた力を持っている

理由にはならない。違うか?」

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