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明日世界が終わります。  作者: 成浅 シナ
6/30

6死ぬまでよろしく

「お邪魔しまーす」


あれよあれよという間に時間が流れついにこのときがやってきた。


「お、男の一人暮らしにしては片付いてるねぇ」


嘉新は家に上がるなり辺りをキョロキョロ見渡す。


「別に。散らかるほど物がないしここ最近は掃除しかやることないくらい暇だっただけ」


「そっかー」と言いながら嘉新はリビングの真ん中に突っ立って振り向く。


「それじゃ...」


そんなことを言いながらその場に膝を着き出した。


嘉新はそのまま三つ折りを付き



「これから死ぬまでよろしくお願いします」



なんか嫁にでも来たみたいになってる。



その言葉に気恥しさを感じるより先に別のことを感じた。


「なんか...」



「なんか?」


俺の呟きに嘉新がキョトンと首を傾げる。


「重い......」


考えたままを言葉にすると嘉新は正座のままプクっと頬を膨らませる。


「えー、ひどーい。確かに言葉だけ見ればそうかもだけど別に間違ってないしー」


「確かに」


具体的な同居の期限は決めていないしもしかしたら本当に死ぬまでの時間をずっと共にするかもしれないのだ。



「さてと」と嘉新は立ち上がり腰に両手を当てる。


「どうしようか」


「考えなしか」


思わずツッこむと「んー...」と目を閉じ何やら考えているような顔になった。



「ルールを決めよう」


「まあ、それは同意だな。取り急ぎ決めておくべきことはーー」



「じゃあ、私そこで寝るね。あとお風呂は日替わりジャンケン」


俺が何か言うより先に嘉新が我が物顔で仕切り出した。


普通ならここで「いや、ここ俺の家だし」と文句を込めたツッコミを入れるところだが嘉新が自身が寝ると指した場所は床だった。



「いや、それはダメだろ」


「え、なんで?」


そう言い嘉新はキョトンとする。


「まだ少し暑いとはいえもう秋だし」


風邪でも引いたらどうするんだ。


「だってざっと見た感じ布団1組だけだしソファもないしね。床はほら、カーペットあるからまあ良くない?なんなら座布団とかクッションでいけるいける」


「いやいやいや」


ニコニコしたままそんな提案をする嘉新を慌てて止める。



普通こういうイベントで「なに?あたしベッド使うからあんた床で寝れば?」と追い出されるのがお約束じゃないの?


そりゃそんなこと言われれば文句の一つくらい言ってやるのだがその逆を言われたら言われたで反論せずにはいられない。



「俺のベッド使っていいからシーツは取り替えてくれたらいいし」


「それはちょっと無理な相談だね」


嘉新も負けじと、なんか偉そうな口調で言い返す。


「押しかけ居候が朝晩冷える中家主のベッドを我が物顔で使うってヤじゃない?」


「それは一理あるけどが...客人を床に寝せるのはもっとヤだ」


強めにそう言ったからか嘉新は「むぅ」唸る。


「気にしなくていいのに」


「気にするなって方が無理があると思うけどな」



押されてOKしたとはいえ家に泊まることを許可したのは俺自身だ。

それなのに遠慮されて「はいそうですか」と床に追いやるのは良心が痛む。


俺が折れないことを悟ったのか嘉新は顎に手をやり考え込み


「...分かった。ただしこうしよう」


人差し指を立ててある提案をしたのだった。





嘉新が先、俺が後の順番で交代で風呂に入り髪を乾かしてから寝室に行くと既に寝る準備万端な様子で嘉新が床に引かれた布団の上に座っていた。


元々持ってきていた荷物は小さなキャリーケースだけだったので最低限必要な物は持っていたらしいがパジャマはなかったらしい。

持っている中で1番小さい服を貸したのだが見るからに男物なデザインの上サイズもぶかぶかだった。


うっかり肩口から覗くブラ紐が視界に入ってしまってスっと視線をずらす。



「何のやつ?」


それを誤魔化すように口を開いた。


嘉新は何やら熱心に本を見ている。


「ごめん、勝手に本棚漁っちゃった」


そう言いつつ本を開いたまま口元が隠れる位置くらいまで掲げて見せてきた表紙は確かに俺が以前買った文庫本だった。



「面白い?」


「なんとも言えない。まだ数ページしか読んでないし」


そりゃそうか。

俺が風呂に入っている間に本棚から取って読み始めたのならそんなに進んでいるわけが無い。


「才原くんは漫画より小説が好きなの?」


小説しかない本棚を眺めながらそう問われ


「んー、まあ好きっちゃ好きかな」


「お、曖昧な言い方だ」


眠たげな目で淡々とした反応が返ってきた。


「単に漫画より小説の方が長い時間読めるから」


小説は漫画より倍以上の時間読めるし学生のときの朝の読書時間で読むときによく買っていたからその延長線だ。


こんな世の中になる前はたまにふらっと本屋に寄ってはピンと来た物を手に取っていた。



「なーんだ。根っからの読書少年だと思ってたのに」


パラパラと本を捲りながら嘉新は小さく呟くように言いふわっと欠伸をした。


ベッドの上の置き時計を見るともう十一時を回っている。



「そろそろ寝ない?」


「んー、そだねー」


結局布団は元々薄い敷布団を2枚重ねていたのを1枚ずつ分け合い座布団やタオルで厚みを補った。

掛け布団は1枚は夏用のタオルケットで1枚は毛布だがこの時期ならこれで大丈夫だろうという結論に至った。


電気を消し厳正なる話し合いの結果俺がベッドに、嘉新が床の布団にそれぞれ潜り込む。




「ねぇ」


「ん」


「ありがとね」


なにが、とは聞かなかった。



目を閉じて考える。

こんな疲労感を感じながら1日を終えるのはいつぶりだろうと。


ここ最近起きている時間はネットサーフィンするか本を読むくらいで気がつけば1日があっという間に終わっていたというのに。


耳をすますが寝息は聞こえてこない。

まだ起きているのかもしれないしもう寝てしまったのかもしれない。


それを確かめることはせず俺は嘉新とは反対側に寝返りを打った。



こうして久しぶりな長い一日が終わった。

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